第3話 揺れ動く世界と駅
「確か駅を探しているって……。」
私は呟くと駅に向かって走っていた。
走り出すと、なぜが空気は重く感じた。何時もよりも何倍も走るのが苦しい。でも私は先程の老紳士にどうしても逢わなくてはいけない。私の本能がそう必死に叫んでいた。
それが私の心をはやらせ焦らせる。
街を進みいくと不思議な事に、街が僅かずつ変化しているような錯覚を覚えた。混んでいる筈のオフィス街が急に眠ったように人がいなくなり、先週、幕引きしたばかりの映画の看板が張り替えられずにそのままになっている。先週に始まったばかりの駅前の拡張工事が何もなかった様に、まるで幻のように消え失せている。
そんな街を駆け抜けていくと駅の入り口を目線の先に見つけた。
駅の入り口に倒れ込むように駆け込むと、私は息が苦しいのも構わず下がった目線を必死に戻し辺りを見渡した。すると果たせるかな先程の老紳士の後ろ姿が在った。それは幻ではなく確かに存在しているように私の瞳に入ってくる。
老紳士は駅の改札で私を待つ様に電光掲示板を何か考えるように見つめている。
私は急いで駆け寄ると老紳士の顔を見つめた。
すると彼は初めて出来た自分の子供が自分を見て笑ったように優しく微笑んだ。
「貴方が来る事はわかっていました。それでは参りましょう。」
そう私の目に優しそうな瞳を重ねると、腕を静かに取って改札を抜けようとしました。
「だめ。まだ、切符を買っていないから……。」
私が目を伏せて弱々しく抵抗すると老紳士は微笑みながら、先程見ていた切符を出すように促しました。
私はポケットに仕舞った切符を出すと老紳士は改札口に立つ駅員に自分の切符と共にそれを呈示した。
駅員は親子で旅行ですかと笑いながら、それらを受け取り、改札通過の印を付けると、「急いで下さい。」と改札を通り抜けた私たちを促した。
「どうして?」
私は老紳士を見つめると答えが出る筈も無いのに、そう問いただした。
「それよりも時間が無い。」
老紳士はそれだけしか呟かなかった……。
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