第253話 出陣

 翌日は人間領とのリルフォン会談を行い、今後の作戦について話をした。


 すでに調査部隊として南の国へと行っていたジノが戻ってきており、南の国は一万近い魔人と、一万を超える魔獣とが魔王領との国境付近に待機、魔王領内にもその半数ほどの魔獣の群勢が配備されているとの事。

 国境付近には砦も築いており、随分と前からこちらに備えていた可能性があると報告を受けている。

 朱王の指示通り、ジノはこの調査を太陽を背に遥か上空からズーム機能を使って行っている為見つかる事はなかった。


 また、西の国の調査もアイーズ領のグレックに頼んでいた。

 西の国は魔人達の移動はないものの、多くの魔獣が森の中に潜んでいるとの事。

 上空から調査してもその数は不明だが、超巨大魔獣も多く見られる事から人間領へ向けた魔獣の群勢を用意していると考えていいだろう。


 それに対して人間領はすでに準備は整っており、ザウス王国にはクイースト王国を除く各国の半数の聖騎士達が集い、聖騎士長はゼス王国に待機。

 状況に応じてザウス王国かクイースト王国に応援に向かう予定だ。

 国王は自国に待機し、国の防衛ともしもの場合に備えて部下に今後の指示も出してあるそうだ。


 ザウス王国でも主戦力となるであろう蒼真達はヴァイス=エマから戻っており、王国の複数の訓練場で騎士の訓練を行なっているとの事。

 千尋とリゼは訓練とは関係なく、現在は集まった聖騎士達の一級品武器を改造しているそうだ。

 ザウス王国の聖騎士達が持つ光り輝く擬似魔剣を見れば他国の聖騎士が改造したいと思うのも当然だろう。


 次に北と東の国連合。

 今日この会談の後には北の国の防衛の為、各領地の戦える魔人達には魔王領との国境まで移動を開始。

 北の国の準備が整い次第、魔貴族達も移動を開始する事となる。

 出発までは士気を高める為、毎日宴会をする予定だと朱王が宣言。

 この発言に驚いた人間領側も、決戦を前に毎日映画の日を開催すると宣言した。


 魔王領のゼルバードをトリガーとして仕掛けが作動した場合に南と西の国が同時に動き出す可能性が高い。


 全ては北の国の準備が整い次第動き出すとして、開戦のタイミングは朱王が執る。

 ゼルバードを棺桶に納めて北と東の魔貴族には供養をしてもらい、各々戦闘配置についてもらう。

 南との戦闘が開始され、マクシミリアン大王を討った後にゼルバードの墓を作り埋葬する予定だ。

 戦う相手はその場次第。

 マクシミリアンと戦いたい朱王だが、ゼルバードの仇を討ちたいのはディミトリアスとて同じ事。

 ゼルバード最後の友として朱王に弔いを任せはしたが、仇を討つのであればディミトリアスも譲るつもりはない。

 クリシュティナや右翼、左翼とも話し合い、対峙した者が討つ事として話を終えている。


 その後は百人を超える会談だった為、各々話をしたい者達で集まって自由に話し合い、一時間程で七国会談を終了とした。




 朱王はカミン達に指示を出して装備作りを開始する。


 素材は北の国にある上級魔獣の物を使う事にし、多くの素材の中からそれぞれに合った装備を作っていく。

 魔獣装備は魔力次第で伸び縮みするので、ある程度身長や体格がわかればいいので採寸する必要もない。


 東の国でもらった素材は使わなくともデーモン素材も複数あり、大王と守護者の装備に使用する。

 飛行装備はディミトリアス大王の物だけデーモン素材として他は上位魔獣の物を使用する事にした。

 魔力練度もあるが、強度よりも柔軟性を優先するならどちらかと言えば通常素材の方が優れているのだ。

 ただし大王クラスの攻撃ともなれば、以前のブルーノの飛行装備のように耐え切れず、回復にも多くの時間を要する。

 柔軟な戦いはできない反面、高速飛行戦闘が可能になる為一長一短だが、操作も難しくなる為デーモン素材は飛行装備としてはそれ程優れてはいないだろう。

 大王クラスには強度という面のみでのデーモン素材採用としている。

 そしてディミトリアス大王も地属性魔法の使い手であり、扱いにくいデーモン素材でも問題ないだろう。


 東の国の素材とは違い、集められた素材は人間達の手によって綺麗に洗浄されており肉片や脂肪も落とされている為、鞣し加工から始めればいいので手間が少なくて済む。


 またカミンの水質変化魔法で鞣し加工を進め、乾燥と圧力で次々と素材加工を済ませていく。

 二十一人分の素材という事で量も多く、この日は全て素材加工に費やした。






 全員に装備が行き渡ったのがそれから四日後。


 北の国の魔貴族には人魔が三人いた為、精霊契約を済ませてミスリルナイフも二つずつ渡してある。

 いずれもかつての魔人達が作り出した精霊剣を引き継いでおり、精霊の力なしで魔貴族まで上り詰めた強者達だ。

 魔貴族の下位にあったこの者達はこの精霊契約によって上位の者に匹敵する力を手にしている。

 そして人魔でありながら守護者の地位につくセシールは恐ろしいまでの力を手にし、大王には届かないまでも守護者の中でも抜き出た実力者となった。


 他の魔貴族達は精霊剣を持っており、飛行能力向上による空中戦が優位に運べるようになっている。


 また、装備全てを新調した事で防御力の向上と、素材の組み合わせによる各種耐性を得られた。

 綺麗に仕立てられた装備は肌触りもよく、自身の体の一部のようにしっかりと体を覆ってくれる。

 朱王のヴリトラ装備にも備わっているが、硬質な素材は魔力の通りがよく攻撃魔法の出力が高い。

 そして魔力に色を持たせた事で発光する為、北の魔貴族も東の魔貴族もこの装備には誰もが満足している事だろう。


 また、通常素材を使用した飛行装備二十着も作っており、北の国にいるある程度魔力量の多いの為に用意した。

 南の国が万を超える魔獣軍で攻めて来るとすれば本来であれば恐怖すべきところだが、朱王とディミトリアスとで話し合った結果これは逆にチャンスなのではないか、宝の山があちらから来てくれるのではないかと前向きに捉える事にした。

 このまま魔獣の群勢と戦って殲滅した場合、大量に残る死骸から新たにゴーストが生まれる事になってしまい、戦争をしながら死骸の処理をするのは気が滅入る。

 それならば北の国にいる人間達に魔石に還してもらい、今後北の国の発展に利用してしまえば一石二鳥ではないかと考えた。

 大量の魔石はその場に転がしたままにしておき、戦争が終結次第国境付近に待機する魔人達に回収させればいいだろう。




 すでに多くの魔人達が国境へと向けて移動を開始しており、装備が完成した主戦力部隊も移動を開始するべきだろう。


 全員が上級魔獣の皮袋に食器と保存食や調味料を入れて準備は万端。


 ディミトリアス大王がステージに立って声をあげる。


「これより我ら北の国、東の国、クリムゾンとの連合軍で南との戦いに臨む! 例え南がどれだけ多くの魔獣を従えようと、どれだけ多くの魔人が集まろうとも負けるつもりはない! 誰も死なせるつもりはない! 傷を負うつもりもない! 我々は完全勝利を掴み取るのだ!!」


「おお!」と魔貴族達も指揮を高めて声をあげる。


 隣に立っていたクリシュティナも前に出る。


「皆の者よく聞け! この戦いはただの戦争ではない! このアースガルドを一つにする為の聖戦なのだ! 明日を見る事などなかった我らがこの先を見据えて戦いに挑む! 未来を夢見る我らの勝利を信じて進め!!」


 精霊剣を掲げて足を踏み鳴らす東の魔貴族達。


 そして朱王からも一言。


「準備はいいね。クリムゾン、いくよ」


「はっ!」と跪くクリムゾン部隊。


 飛行装備を展開して空へと羽ばたく大王達と朱王。

 それに続いて守護者や魔貴族達も空へと飛び立ち、エリオッツとカミン達も後に続いた。

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