第213話 参りましょうか《カミン視点》
やはり天気がいいと気分も良いものです。
私の場合は雨の日が最も能力が高くなるのですが、自分も全身濡れてしまいますので晴れの日の方が好きですね。
まずは飛行速度をある程度把握したいので、アリス王女とセシール侯に先行してもらっています。
まずはアイーズを目指すという事で、お二人も方向は把握しているようですね。
行きはアイザック卿が凍えてしまうという事で時間を掛けての旅でしたが、耐寒装備を着たお二人が一緒ですので速度も飛行時間も充分に稼げます。
それでもやはり体は冷えますからね。
二時間おきに休憩を挟む事にして休憩時間も三十分程とれば平気でしょう。
夕暮れも早いので、十六時前には野営の準備としましょうか。
休憩で地面に降りるとしてもそこはやはり雪で埋め尽くされていますからね。
私とフィディックで雪を融かしつつ冷却する事で氷の大地として一休みです。
暖かくはありませんが雪に埋もれるようにして休むよりは良いでしょう。
ヒートの魔石とミスリルナイフを利用して暖をとり、レイヒムから預かった魔法のポットでお茶を淹れて皆さんに配ります。
今日からは私とフィディックでお茶を淹れるのですが、やはりレイヒムが淹れてくれるお茶とは味が違うように思います。
そのレイヒムは我々の休憩用にと、大王領の果物を使ったオヤツも作ってくれました。
それ程多くは貰ってきませんでしたが、この少しだけ食べるお菓子がとても美味しくていいですね。
お茶ともよく合います。
休憩がてら私もアリス王女とセシール侯からいろいろとお話しを聞かせてもらいました。
アリス王女の母は人魔種ではなく人間な事、そして寿命を迎えてお亡くなりになった事も悲しげにお話くださいました。
他国はわからないが、北の国では知人や家族の死には悲しみを覚えるのが普通なのだそうです。
人間領と同じですね。
セシール侯は両親が人魔種との事です。
今も元気に魔獣を狩り、農作物を育てたりとしているとの事。
侯爵であるセシール侯の両親が何故かとも思いましたが、戦う力が高くなければ侯爵家の者であっても民と同じように働くのが北の国の決まりだそうです。
これはディミトリアス大王がお決めになったそうで、力が重視される魔人領であれば納得です。
おかげで民からの反感を買う事もなく、平和な領地となっているそうです。
これだけ聞けば人間領よりも平和な気がするのは何故でしょうね。
空の旅は順調でした。
この寒い時期に空を飛んで襲ってくる魔獣は少ないですからね。
一度も襲われる事なく一日目の移動を終えられました。
この日の野営地は以前スタンリー侯とお会いした場所からそう離れてはいません。
岩場が洞窟となっていましたのでテントも張らなくてよさそうです。
夕食にはこの洞窟を探す際に見つけたホーンラビットを焼いて食べましょう。
雪の上を走るホーンラビットであればすぐに捕まえる事ができましたね。
血抜きをして皮を剥ぎ、肉を串に刺していって火で炙る。
野生の魔獣はやはり臭いがキツいので、香草とレイヒムからもらった香りの強い調味料で味付けしました。
スープには香草と干し肉でお手軽なものにしましたが、体も暖まりますしそこそこ美味しく食べられます。
非常食の乾パンはレンチン魔法で少し柔らかくして食べるのがいいですね。
「んむ。美味しいぞカミン。レイヒムの料理には遠く及ばないがな!」
「ホーンラビットがこれだけ美味しく食べられるとはな。カミンもなかなかいい腕をしている。レイヒムの料理はもっと美味いが」
確かにレイヒムの料理に比べると格段に劣りますが、そこをハッキリと言ってくるのも魔族故なのでしょうか……
モニターは大王領に置いてきましたので映画は観れません。
眠くなるまではまたお話しの時間としましょう。
これから人間領へ向かうので、いろいろと楽しみにされてますのでこちらは聞きに回ります。
前情報が無い方が人間領の全てが真新しく映るでしょうしね。
さて、アリス王女やセシール侯が生まれる頃のお話です。
今では人間と魔人とが共存している北の国ですが、かつては他の国と同様に人間は迫害される存在だったのだそうです。
人間を食べる事で強くなれるという伝承は無く、ただただ魔人として強さが重視される国だったそうです。
その中で力の弱い人間種は底辺であり、虐げられる存在なのは当然の事だったのでしょう。
かつての大王の下には守護者が十名おり、そのうちの一人にディミトリアス
そう、ディミトリアス大王はかつてアイザック卿と同じように辺境伯だったようですね。
守護者に選ばれた事でディミトリアス侯爵となったそうです。
領地の民には喜ばれ、自分の力を認められた事にディミトリアス侯爵も大変嬉しく思ったようです。
しかし一つ問題がありました。
ディミトリアス伯爵が統治する領地の近くには人間の領地があった事。
そしてディミトリアス伯爵は人間の器用さや考え方の柔軟さに心を惹かれ、一人の女性と恋に落ちたのだそうです。
それがアリス王女の母、エレノア様です。
ディミトリアス伯爵は侯爵、守護者となる事で、大王領に近い新たな領地を与えられる事になります。
その領地に自身が伴侶にと決めたエレノア様をお呼びしたいと、先代大王に報告に向かったディミトリアス伯爵。
他の守護者達には人間を伴侶にするとは愚かなと嘲笑われ、先代大王はそれは許さんとディミトリアス伯爵領にいる人間を全て殺すよう命令を下したそうです。
それは出来ないと断ったディミトリアス伯爵。
力ある者の言葉は絶対の魔人族、それも大王の命令に従わないという事は大罪となるのでしょう。
この時に全ての守護者、大王もがディミトリアス伯爵の敵になったのだそうです。
結果は今ある北の国の現状を見ればわかりますね。
ディミトリアス伯爵は全ての守護者を倒し、先代大王をも葬り去って新たな大王の座へと就いたそうです。
これを聞いただけでもディミトリアス大王の強さが守護者からは測れない事がわかりますね……
倒した守護者達はそのディミトリアス大王の強さに屈服し、大王の命令は絶対として人間を迫害する事は禁止となりました。
そして人間と共に生きよとの命令に従い、およそ百二十年を掛けて今の北の国となったそうです。
という事はアリス王女は百二十歳前後という事でしょうか。
これらの話はアリス王女もセシール侯も全て前守護者達から聞いたとの事でしたね。
お二人共人魔種ですから、前守護者からすれば汚れた存在であるはずです。
それでもお答えになったという事はやはり大王の力は偉大ですね。
ん? セシール侯の両親は人魔種ですから、以前は汚れた者として酷い扱いを受けていた可能性がありますか。
それが今は種族を気にせず平和に過ごしているとなると素晴らしい国と言えるでしょう。
夜も更けてきましたのでそろそろ皆さんには寝て頂く時間ですね。
「フィディック。また二時に起こしますのでそれまで寝ていてください。アリス王女もセシール侯もお休みになってください」
フィディックと交代の見張りもいつもの事ですからね。
素直に従ってくれるので助かります。
ですがアリス王女もセシール侯も人間領への期待が強いようで興奮して眠れないようです。
少しだけ、私と朱王様のお話しを聞かせてあげましょう。
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空の旅を続けて四日目にようやくアイーズに到着しました。
ドルトルさんとグレッグさんが出迎えてくれましたが、やはり王女と守護者にはとても緊張しているようです。
お二人共アイザック卿とは毎日連絡をとっているらしく、アイーズに一泊できるようにと準備をしていてくれたそうです。
レイヒムが教えた調理法や使用する調味料が増えた事で、多彩な味を表現できるようになったという事でしたので食事も楽しみです。
この日は美味しい料理とアイーズならではのお酒も少し飲んで楽しみました。
アリス王女もこのお酒が気に入り、大王にも飲ませたいと言うとグレッグさんがとても喜んでいました。
グレッグさんがお酒作りの管理を担当しているのかもしれませんね。
それと王女、守護者とドルトルさん、グレッグさんもリルフォンの魔力登録をしていました。
人間領との中間地点にあるここアイーズは重要な拠点となるでしょうからね。
よろしく頼むぞと言われて嬉しそうに跪くお二人ですから、アイザック卿に報告してまた喜びを分かち合う事でしょう。
今回アイザック卿がアイーズへと戻らない理由ですが、アリス王女とセシール侯が大王領を離れるという事で、お二人の仕事を手伝ってもらう必要があるとの事でした。
その割には毎日映画三昧なのは気のせいでしょうか。
映画の感想をアイザック卿と語り合うのが楽しいから、などとスタンリー侯あたりは答えそうですが。
お酒を楽しんだ我々もあまり遅くならないうちに眠らなくてはなりません。
アイーズでは部屋をお借りできますからね。
この日は私とフィディックもゆっくりと休む事ができました。
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朝日が上り、真っ白に雪化粧されたアイーズも綺麗ですね。
その景観を楽しんでから朝食を頂き、皆さんに見送られて我々は飛び立ちました。
お土産にと以前レイヒムが作っていたラムレーズンを模した物をもらっています。
アルコールも含まれていて寒い時期のオヤツにいいですね。
アイーズから出てその日のうちにヒュドラがいたゲゼル湖にたどり着きました。
今はもう湖を覗き込む魔族は見られないようです。
この日もう少し移動してもいいのですが、前回八日程野営した場所がありますしね。
冷凍したヒュドラの肉もありますのでそこで今夜は過ごす事にしました。
やはりヒュドラの肉は美味しく、そして魔力が少し上昇するような感じがします。
アリス王女方も同様に感じているようで、驚きの表情と味による満足感を得られたようで何よりです。
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