第207話 国王とハリーの冒険
さて、この日は映画の日。
ウェストラル王国に来て三度目の映画の日だが、どちらも邸で過ごした為この国では初めての映画の日を楽しむ。
そしてこの日、国王達のファーブニル討伐もリアルタイムで放送する予定だ。
昨夜シルヴィアから報告があり、ハロルド国王と聖騎士のクロエ、聖騎士兼クリムゾン幹部のハリーが同行の元、ファーブニル討伐に向かうとの事。
ファーブニルとはウェストラル王国に言い伝えられる超級とも謳われる魔獣で、多くの財宝を隠し持っているともされている。
ファーブニルの居場所は以前から知られている為、今朝から三人で向かっている。
シルヴィアも同行したいと申し出たのだが、これも国王たる者の試練として向かうのだと、聖騎士長の同行は認めなかったそうだ。
以前買い物に行った衣料店に向かい、浴衣を羽織って市民街に出る。
何かあった時の為に蒼真とエレクトラが腰に刀を差しているが、他のメンバーは手ぶらで行く。
映画の日の街はやはり出店が多く出ており、朱雀に続いて全員で食べたいものを買い食いして歩く。
出店があるのは貴族街も同じ。
貴族街を見て回るのもいいかと思ったが、やはりお祭りを楽しむとするなら人の多い市民街の方が盛り上がるだろうとこっちを選んだ。
ちなみにウェストラル王国市民街のモニター設置場所は三箇所あり、一つは役所の入り口上部に、そして一番通りの奥にある広場と十三番通りの奥にある広場に設置されている。
この両広場のすぐ側にあるのがクリムゾンの学校と施設だ。
南区施設が一番通り側、北区施設が十三番通り側となる。
施設内にもモニターを設置してあるが、子供達も日中はこのお祭りに参加しながら、夜の映画は施設内で楽しんでもらっている。
午前中から市民街に出て来たので、南区から北区へと向かって見て回った。
昼食はこのお祭り騒ぎの中でもなんとか席を取る事が出来たレストランで食べた。
ここまでの買い食いで三食分は食べているはずなのだが、レストランでも当たり前のように一食分を平らげる。
昼過ぎにはモニターに国王達の姿が映し出され、目的地であるファーブニルの棲む洞窟へと到着したという事で、ここからはライブ中継となるようだ。
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◇◆ハロルド国王サイド◆◇
ファーブニル討伐の為、ハロルド国王はハリーとクロエを同行させてワクトガの洞窟へとやって来た。
場所はウェストラル王国より北へ150キロメートル程の距離にある山岳地帯だ。
ちなみにウェストラル王国は大陸から南に突き出した場所にあり、市民街は内海側、そして朱王の所有するプライベートビーチは外海側となる。
ここにウェストラルでも伝説となっている超級魔獣【ファーブニル】が棲んでいるという。
ワクトガの洞窟は巨大な入り口に内部も相当な広さとなっているのだが、遠い昔からこの洞窟内には巨大な竜がいるとされて伝説となっていた。
それが近年、とはいえ数十年前となるが、大量の魔獣と戦いながら洞窟から出て来た巨竜ファーブニルをハウエルズ伯爵領とベンスの街の警備所職員達が目撃。
元々強力な魔獣が棲まう洞窟とされていた為近寄る者もいなかったのだが、もしその洞窟内から魔獣が溢れ出した場合にと備えて警備所を設けてあったのだ。
ファーブニルと高位の魔獣との戦闘を記録の魔石に保存されて、伝説の魔獣が現存する魔獣としてさらに有名となった。
もちろんウェストラル王国の誰もが知る超級魔獣となり、これまでにも多くの冒険者がその洞窟に挑戦したがファーブニルの姿を確認する事なくほとんどの者が命を落としている。
生き残って戻って来た者も、洞窟内に入って間もなく数多くの強力な魔獣を相手にパーティーは壊滅。
命からがら逃げ延びて内部の情報を公開している。
ゴールドランク冒険者でさえも帰って来た者がいないワクトガ洞窟の支配者ファーブニル。
それを討伐したとなれば国王の力を示せるのは当然と言えるだろう。
洞窟前で昼食を摂り、クロエのリルフォンを介して映像をウェストラル王国へと配信。
「それでは今からワクトガの洞窟へ入ります」
「ここは強力な魔獣が多く棲むと言う。ハリーもクロエも気を引き締めよ」
「「はっ!」」
国王とハリーが並んで進み、クロエがその背後から歩く事で二人の姿を映している。
洞窟内は真っ暗だが、ナイトスコープ機能とハリーのサラマンダーが灯りとなっている為ある程度の明るさは確保できている。
洞窟内に入って少し進んだところで遭遇した難易度8となる魔獣、ヘルハウンドを国王は暴水から生み出した水刃で瞬殺。
その後も向かってくるヘルハウンドは国王の意思で伸ばした水鞭で全て葬りさる。
そして頭上から襲い掛かってくる魔獣コルバットにはハリーが応戦。
物理攻撃は全て躱すとまでされている難敵だが、ハリーの剣技と精霊魔法にその常識は当て嵌まらない。
剣槍を振るう度に燃え上がるコルバットの死骸が転がっていく。
「ふむ。ハリーはまたその槍術に磨きが掛かったな」
「ええ、毎朝の訓練のおかげです」
ハリーの毎朝の訓練とは蒼真との訓練だ。
魔法を発動する事はないのだが、蒼真との強化と
朝の一時間程度の訓練であっても、毎日身動きが取れなくなる程に追い込まれている。
同じ聖騎士であるクロエから見てもハリーの上達は目を見張るものがある。
本来この暗闇の中で数多くのヘルハウンドやコルバットに襲われては耐えられるものではないだろう。
それをあっさりと乗り切る国王とハリーは異常とも言える強さを持つ。
さらに奥へと進んで行くと、ミノタウロスやサイクロプス、トロルにオーガなどの巨大な人型の魔獣も多く現れるが、国王もハリーもそれ程苦戦する事なく倒して行く。
モニターに映る魔獣とそれを圧倒する国王、ハリーの強さにウェストラルの冒険者達も驚愕している事だろう。
すでにここまでの戦闘だけでも充分に力を示す事が出来ているはずだが、目的は超級魔獣ファーブニル。
これまで様々な歴史を辿るウェストラル王国は国力が低いと考えるハロルド国王は、かつて見た記録の魔石にあるあの巨竜を倒してこそ国民の支持を得られる事になるだろうと信じて疑わない。
そして難易度10魔獣の中でも強いとされるグレンデルが現れるも、精霊魔導を発動して一瞬で決める。
さらに世間では知られていない難易度Bともなる上位魔獣ジャバウォックが姿を現わす。
全長10メートルは超えるであろう長い首や手脚が特徴的な飛竜がそれだ。
魔獣をよく知るクロエが驚きの声と共にジャバウォックについて説明してくれた。
難易度Bともなれば精霊魔導を以ってしてもかなりの強敵となるはずだ。
クロエは自分では勝てないだろうと予想する。
「国王様。ここは俺にやらせてください」
との事でハリーが単独でジャバウォックを討伐する事にした。
そのハリーの表情は嬉しそうで、これまでの訓練の成果を自分でも実感したい、全力で挑みたいという気持ちが強いようだ。
下級魔法陣ファイアを発動し、灯りとして洞窟内を照らしていたサラマンダーを呼び寄せる。
ハリーの右肩に掴まったサラマンダーは、背中の炎を吹き上げながら剣槍に炎を纏わせる。
細長いジャバウォックとはいえその重量は相当ありそうなものだが、その足音は一切しない。
この洞窟内の暗さで音もなく動き回るとすれば厄介極まりないだろう。
前傾姿勢から一気に距離を詰めたハリーの右薙ぎの斬撃に対し、ジャバウォックは右前脚の爪で受け止める。
しかし炎の斬撃はその爪を弾き飛ばす程の威力があり、白い炎が燃え移る。
そのまま続け様に左逆袈裟に斬り上げるとその長い身体を引いて後退。
さらに追いながら右袈裟に振り下ろすハリーの斬撃が首筋を捉えようとしたところで、ジャバウォックの口から炎のブレスが放たれる。
咄嗟に右肩に掴まっているサラマンダーからの炎のブレスで相殺し、そのまま剣槍を振り下ろした事で、ジャバウォックの首筋に深い切り傷を残しながらその傷口を焼く。
炎の斬撃によって弾き飛ばされたジャバウォックは地面を転がりながらも起き上がり、口と爪から炎を上げてハリーの白い炎を相殺。
怒りの咆哮をあげながらその傷を癒そうと魔力を練る。
上位魔獣ともなれば超速回復となるはずだが、傷口が焼かれた事で回復は遅い。
ハリーが駆け出すと同時にジャバウォックも四脚で走り出し、長い右前脚を炎の爪で右薙ぎに振るう。
剣槍を打ち付けるようにして受けるハリーだが、ジャバウォックは残りの脚で地面を掴んでいる為、地の利を稼いで右爪を振り抜く。
ジャバウォックの腕力によって身体を浮かされたハリーに炎のブレス。
再びサラマンダーのブレスで相殺するも、ジャバウォックはさらに襲い掛かる。
左の炎の爪でハリーを地面に叩きつけ、そこからさらに右、左と連続してハリーに炎の爪を叩きつける。
全力で強化しながら白炎の刃で爪の炎を相殺すると同時に威力をも抑え込んで耐えるハリー。
地面に埋まりながらもそれ程ダメージは受けていない。
ひたすら続く左右の炎爪に耐えながら態勢を立て直す機会を窺う。
耐え続けるハリーに大きく振りかぶるジャバウォックだが、ハリーから見ればそれは隙であり態勢を立て直す好機。
放出できる全魔力を込めた白炎の刃を炎爪に斬りつける。
意識的に剣槍に魔力を流し込んだ事でさらに出力を上げた白炎の刃。
炎爪を斬り裂くと、ジャバウォックは悲鳴をあげながら後方に飛び退いた。
蒼真との朝練では意識していた擬似魔槍への魔力供給だが、精霊魔導での実戦という事で失念していたようだ。
擬似魔槍に魔力を流し込みながらジャバウォックに向かい合い、白炎を放出しながら駆け出す。
爪を斬り落とされて苦しむジャバウォックだが、ハリーが向かって来た事で翼を広げて飛翔する。
ハリーも飛行装備を展開して舞い上がり、ジャバウォックの腹部を白炎の刃で斬り裂く。
さらに白炎の乱撃を浴びて地面へと落ちていき、全身に白炎の切り傷を残しながら蹲るジャバウォック。
白炎を相殺するジャバウォックを見下ろしながら、上級魔法陣インフェルノを発動するハリー。
飛行装備の背後に魔法陣が浮かび上がる。
肩に掴まっているサラマンダーが巨大化し、飛行装備を操作してジャバウォックへと降下。
振り上げた剣槍を唐竹に振り下ろし、白炎が巨大な刃となってジャバウォックを襲う。
超高熱となった白炎の刃は容易くジャバウォックの身体を両断し、その全身を白い炎で燃え上がらせた。
剣槍を肩の留め具に嵌めて、ジャバウォックを魔石に還すハリー。
「ハリーよ、見事だ」
「はっ! ありがとうございます!」
多少の傷を負いはしたものの、ハリーもこの戦いに満足したようで嬉しそうだ。
「お疲れ様、ハリー。精霊魔導があるとはいえ本当にジャバウォックを倒せるなんて驚いたわ」
「俺ももう少し苦戦するかと思ったんだがな。思った以上に訓練の成果がでているらしい」
「私にも稽古をつけてくれないかしら」
「ああ。俺もまだまだ強くなりたいし一緒に頑張ろう」
クロエはハリーとの実力差を痛感しつつもこの戦いを賞賛する。
そしてクロエの視界映像はウェストラル王国内のモニターに映し出されており、聖騎士ハリーは王国の英雄として国民達の目に映る事となっただろう。
そしてさらなる向上心を見せつつ、笑顔で会話をするハリーは世の女性達のハートを鷲掴み。
男らしい風貌もあって男性達の尊敬をも一気に集めた。
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