第203話 久しぶりのお休み

 国王が宿泊した翌日。


 眠い目を擦りながらもいつも通りの時間に起きて魔力制御訓練に励む千尋。

 リゼ達はいつもより少し起きるのが遅かったが、それでも朝の訓練は欠かさない。

 八時を過ぎても目を覚まさない国王や王子王女達は、三日間の訓練で疲れたのが原因か、または昨夜のカラオケで日付が変わってもまだ歌い続けたのが原因か。


 リルフォンで起こして九時には朝食を摂った。




 国王達は仕事の時間には少し遅いが、リルフォンによる時短が可能な為多少寝坊したとしても仕事は今日中には片付くだろう。

 朝食後、また遊びに来ると言い残して王宮へと歩いて帰って行った。

 国王がそうそう遊びに来ていいのかはわからないが。




「朱王さん、ウルハの魔剣は完成したの? エイミーのは完成したけど、ウルハと一緒に受け取るって言うからまだ渡してないんだよねー」


「一昨日完成したけど国王達の訓練が終わってから受け取るって言ってたんだ。なんでだろね?」


 首を傾げる千尋と朱王だが、実はエイミーは魔剣の受け取るタイミングをウルハに託し、ウルハは地獄の訓練に巻き込まれないようにと受け取りを遅らせたのだ。


「すぐにでも受け取りたかったのですが、皆様お忙しいと思いましたのでこの日まで待っておりました」


「この日を心待ちにしておりました」


 と、白々しくも答えるエイミーとウルハだが、ニコラスだけはその理由に気付いている。


 だがニコラスはシルヴィアに頼まれて、国の聖騎士達が手薄だからと聖騎士訓練場へと足を運んでいた。

 可愛い孫の頼みとあらば、朱王に断りを入れて騎士達の指導に当たる事もやむを得ない。

 朱王からもいいよーと軽い返事をもらっている。


「じゃあこれ、エイミーのは魔剣ヴォーパル。一緒に作ったからすぐ手に馴染むんじゃない?」


「ありがとうございます! 千尋様!」


 嬉しそうにヴォーパルを見つめるエイミー。

 一緒に作ったのであれば隅から隅までじっくりと見ていたのだろうが、実際に受け取って初めて自分の魔剣として見つめるのでは見え方も違ってくる。


 エイミーの魔剣は千尋好みに仕上げたようで、装飾過多な白と金の両手直剣だ。

 白銀の剣身に金の刃を持ち、ガードから繋がる剣身の表面も美しい装飾がこれでもかと言う程に施されている。

 ガードには鳥の羽、天使の羽をデザインしつつ、両羽を繋ぐ中央にはハート型に装飾を施してあり可愛らしさもある。

 そのハートの内部も少し小さなハート型となっており、表面に七色の魔石で着色して、上から淡いピンクを乗せる事でピンクオパールのような宝石をデザインとする。

 グリップを白くして彫り込んで装飾を金に。

 ポンメル部分にも爪で固定する宝石をデザインし、こちらもピンクオパール色に着色してある。


 鞘も白地に金の魔剣に合わせたデザインとなっており、装飾を少し抑える事で魔剣とのバランスをとる。

 もちろん魔鞘となっている為打突をエンチャント。

 ノーリス王国では抜刀ばかりをエンチャントしたが、ウェストラル王国では打突でいいかと組み込んだ。


 そして精霊を擬似魔剣から移すと活発になるシルフ。

 紫色の髪をしたエイミーは、魔剣に変更ついでに魔力色も変更して白とした。

 白いシルフとなるが、エイミーのイメージが入るのか紫色のラインが所々に入り、見た目に綺麗な精霊だ。

 自分の色が変わった事を喜んで、エイミーの意思に関係なく自由に空を飛び回っていた。




「じゃあウルハのは魔剣ベガルタだよ。宝石の剣って感じになったけどウルハの要望通りだよね?」


「はいっ!! ありがとうございます朱王様!!」


 鞘を払うとそこに現れるのは、全て七色の魔石で着色され、表面から淡い水色を重ねられたウォーターオパールのような色をした剣身だ。

 透し彫りにされたガードは白銀とし、その中央には宝石をデザインされたウォーターオパール色が映える。

 グリップも白銀となり、彫り込まれたデザイン部分は青で墨入れのように着色されている。

 ポンメルにはクリスタルをデザインした尖ったデザインとして着色はこちらもウォーターオパール。

 淡くて清々とした美しい魔剣となっている。


 魔鞘は青地に白銀の装飾としてある為派手さはないが、魔剣とのギャップがさらに宝石の剣としての姿を際立たせている。

 こちらもエイミーのヴォーパルと同じく打突をエンチャント。

 能力としては同じだが、尖ったクリスタルをデザインしたベガルタであればこちらは刺突となるだろう。


 ウルハも似合う色がいいなと朱王に言われ、魔力色を青に変更した。

 そして精霊を擬似魔剣からベガルタに移すのだが、ウルハのウィンディーネは他の精霊とは違い、衣類のような精霊の為活発になったかどうかは不明だ。

 生物や人型をしているだけが精霊ではないという事か。

 それでも精霊としての意思はあるらしく、垂れ下がった袖などが勝手に動き出したりする。

 とはいえこのウィンディーネも、ウルハのイメージが大きく反映されており、ミリーから聞いていた爆炎竜、ホムラを着るというところから発想を得て、ウィンディーネを衣のような精霊として顕現させている。


 このウルハの精霊には他の女性陣も感動。

 自分の契約する精霊を衣にしようとイメージを与えてもできなかったのは、最初の精霊のイメージがすでに構築されてしまっている為だろう。

 残念ながら衣の精霊への変更はできないのだ。




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 さて、またここ数日仕事をしてしまったのでまた遊ぶ事にしよう。

 という事でこの日はプールで遊ぶ事にし、明日はまた海に行こう。

 スキムボードでまた遊びたいし釣りやダイビングだって楽しみたい。


 そして明後日には役所に行ってクエストを受注しようと言う彼らにとって、もしかしたらクエストは仕事ではなく遊びや観光の一部なのかもしれない。




 早速水着に着替えてプールで遊ぶ。

 新しい水着のお披露目をしつつも、この日はエレクトラの泳ぎの練習をする事にしたようだ。

 また…… 可愛らしい水着を着たというのに色気も何もない真面目な水泳訓練を。


 最初はその訓練風景を白い目で見ていたウルハとエイミーだが、あっという間に泳げるようになったエレクトラに二人も驚きは隠せない。

 見た目はアホだが効率的な訓練だったのだろうと納得するしかなかった。


 バタ足だけでも泳げるようになった事で浮き輪を取り払い、また全員で水遊びをする。

 カクテルや甘味を楽しみながら優雅で楽しい一日を過ごした。






 翌日は海へと出掛け、午前はスキムボードで遊びつつ、ビーチバレーやビーチフラッグなどアグレッシブに海を楽しむ。


 昼食にはまた浜焼きが食べたいという事で魚介や肉、野菜を焼いて熱々の食材を頬張る。

 そして一気に冷たいエールやカクテルで流し込んでこの海での食事を満喫する。


 そして午後からはシュノーケルとゴーグルとフィンと呼ばれる足ひれを付けて浅瀬を遊泳するシュノーケリングを楽しむ事にする。

 シュノーケリングは青く澄んだ海の中の景色が楽しめると市民達も楽しむ人気のマリンレジャーだ。

 青い海の中には美しい珊瑚礁や彩りを豊かにする海藻類、そして自由に泳ぎ回る色彩豊かな魚達を見ながら海の魅力を満喫する。

 ゆっくりとフィンを動かしながら海に潜っては魚達を見つめ、美しい景色をしっかりとその目に焼き付ける。


 ちなみに酸素ボンベはこの世界にない為、スキューバダイビングなどは無いとの事。

 酸素ボンベが無くとも魔法を駆使すれば深く潜る事も可能だとは思うが。

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