第182話 幹部到着

 真っ白に輝いていた太陽が色を変え始めた頃、朱王邸にやって来た五人の男女。


 剣士の女性と聖騎士の男性、スーツを着た女性が三人。

 クリムゾンウェストラル支部の幹部達だろう。


「ミューラン=ピアーヌ、ただいま到着致しました。朱王様…… こうしてお会い出来る喜びを…… どう表現すればいいのか……」


 跪いた剣士の女性ミューランは涙を流しながら朱王を見つめる。

 ミスリルの胸当てを装備し、両手剣を腰に下げた凛々しい女性なのだが。

 黄緑色の長い髪と凛とした黄緑色の目をし、身長は千尋と同じくらいはありそうだ。


「やあミューラン。君は少し大袈裟だなぁ」


 涙を流すミューランに朱王も苦笑い。

 他の四人も跪いて挨拶をする。


「ご招待頂きありがとうございます朱王様。ウェストラル王国聖騎士ハリー=クラウザー。ただいま参上致しました。お連れの皆様、どうぞお見知り置きを。皆も挨拶を」


 ミスリルの重厚な銀の装備に、背には巨剣を思わせるような槍を提げている。

 長身に大きな体躯、鈍色の髪に碧眼をした迫力のある男性だ。


「はじめまして、クリムゾンウェストラル支部社長のリナと申します」


「クリムゾンウェストラル支部マネージャーのユフィと申します。よろしくお願いします」


「クリムゾンウェストラル支部施設長のシェリルです。皆様にお会い出来るのを楽しみにしておりました」


 リナとユフィ、シェリルはスーツを着た女性達。


 リナは凛とした表情を見せながら、まだ少し幼さを残し、澄んだ青色の髪と紫色の目をした女性だ。


 ユフィは眼鏡を掛けており、若いながらも落ち着いた雰囲気の女性だ。

 アースガルドでは強化によって視力も上昇するのだが、何故か眼鏡。

 伊達眼鏡の可能性もある。

 色は真っ赤な髪に赤色と黄色のオッドアイ。


 シェリルはふわふわおっとりとした感じの可愛らしい女性だ。

 鮮やかな黄色の髪にインナーカラーのピンクが映え、目はピンク色にした派手な印象を受ける。

 雰囲気と髪色は対照的だが可愛らしく映る。


 千尋達もプールから出て自己紹介。

 美男美女揃いのパーティーに驚く幹部五人。

 とりあえずミューラン達は仕事上がりだし、朱王達もプールで遊んでいたのでまずはお風呂に入る事にする。




 朱王とミリーとで話し合い、この日は男性陣は二階の露天風呂、女性陣は地下洞窟温泉を楽しむ事にした。

 ミリーやリゼも地下温泉がお肌に良いと聞いては入らずにはいられないだろう。


 部屋割りだが、ハリーは千尋達と同じく洞窟部屋、女性達は四人でリゼ達と同じように二人部屋に四人で寝泊まりする事となった。




 この邸の露天風呂は使用人達の部屋の上にあり、三方を木々に囲まれ、開かれた景色は海側を向く。

 いつも通り魔法の洗剤で体を洗って、夕日を見ながら景色を楽しむ。

 ニコラスが酒を運んでくると飛び上がるように敬礼するハリーだが、今日は客人という事で朱王に湯船に浸かるよう言われていた。


「聖騎士達はどうだい? 近々訓練場に顔を出しに行くけど」


「も、もしかして武器の強化に来てくださるんですか!? あの遠距離魔法だけだったガネットがとんでもない強さになってましたが!?」


「ハリーとミューランは明日にでも精霊魔導師になってもらうつもりだよ。リナ達はまだ練度が足らなさそうだけどね」


「それは嬉しいですね! あの三人は今必死で魔力制御の訓練してますし!」


 リナとユフィ、シェリルも魔力練度さえ高くなれば精霊魔導師となってもらうつもりだ。

 クリムゾンで育っている為かなり高い練度を持つ三人だが、まだ精霊契約できる程までには至っていないのだ。

 訓練次第ではウェストラルへの滞在期間中に精霊契約もできるようになるだろう。

 とりあえず明日の強化はハリーとミューランだけとする。

 湯船に浸かりながら千尋や蒼真ともウェストラルの話をし、お酒を飲み交わして夕焼け空の景色も楽しむ。

 久し振りの露天風呂を存分に味わう男性陣。




 洞窟温泉へとやって来た女性陣。

 元々ミューラン達は朱王邸に何度も来ているので、以前にもこの温泉に入った事はある。

 服を脱ぎ、脱衣所から温泉へと足を踏み入れると、ウルハとエイミーがお酒やジュースの準備をしてくれているようだ。


 魔法の洗剤で全身を洗い、やはりこの洗い心地に女性陣全員が大絶賛。

 ウルハやエイミーも気になったようで、試しに手を洗ってそのすごさを実感。


「ウルハも入りたいなら一緒に入らない?」


「ご一緒したいのですが私は仕事中ですから我慢します。ミリー様からのご命令であれば従いますが」


「む? でしたらウルハさんもエイミーさんも入ってください!」


「ありがとうございます。ではご一緒させて頂きます」


 本当は許されない事なのだが、朱王の妻となる予定のミリーの命令とあらば、ニコラスも怒るまいと考えたウルハ。

 二人とも魔法の洗剤で全身を洗いあげ、その洗浄力、滑らかさ、艶めきに満足そうだ。


 湯船に浸かってお酒を飲むのは客人であるリゼ達とミューラン達の八人。

 ウルハとエイミーはジュースを飲みながら洞窟温泉を楽しむ。


 十人で会話を楽しみながらいつものリゼの恋愛トークが炸裂し、場を仕切ってそれぞれの好きな異性を問い詰める。


 ウルハとミューランは迷う事なく朱王一筋。


 リナはお客さんのヒューゴという男性が気になると顔を真っ赤にし、シェリルは考えた事もなかったとポカンとした表情。


 ユフィは顔を隠して必死で答えないようにしていたが、複数の男の名前を出していくとすぐに反応した。

 どうやらハリーの事が好きなようだが、目の悪い自分に自信が持てないと悩んでいるとの事。

 眼鏡も伊達ではなく、度の入った高級品らしい。


 そしてエイミーは千尋が気になると言い出したところでリゼも固まった。

 今朝の光輝く千尋に心を奪われたと頬を赤く染める。

 その仕草は本当に綺麗で、リゼは動揺を隠せない。


「そういえばエレクトラさんはどうなんですか? 好きな男性はいないんですかね?」


「わたくしは元々朱王様と結婚するよう言われておりました。それ以前にも婚約者はいたのですが、そちらはお父様がお断りしています。ですので恋愛というのがよくわからないのです」


「…… 朱王はダメですよ!」


「私は側室になりますよミリー様!」


「むおぉお!! 私がダメと言えないのが辛い!!」


 頭を抱えるミリーに寄り添うウルハ。


「…… ん? という事は私にもチャンスが?」


「ぬおぉぉぉお!? ミューランさんまで!?」


 追い込まれるミリーだった。

 恋愛トークを楽しむ予定だったリゼは危機を迎え、ミリーはさらに追い込まれるという展開。


「あれ? アイリはどうなの?」


 リナから問いかけられるアイリ。

 アイリがすぐに答えなかったのでリゼが答える。


「アイリはゼス王国のダン……」


「違います!!」


 リゼの言葉を遮るように否定する。

 アイリの表情が少し固い。


「どう違うのよ」


「実は…… ゼス王国を出る前にダンテにはお断りさせて頂きました。ダンテへの気持ちは恋ではなく、友愛であると……」


「どうしてそう思ったの?」


「あの…… お風呂で答えないといけませんか?」


 全員が興味津々といった表情でアイリににじり寄っている。

 このままでは感情とお酒と湯船の熱で完全にのぼせてしまう為、今夜女子会を開催する事にしてお風呂をあがる事にした。

 この女子会にはウルハとエイミーも参加するそうだ。

 自由な使用人達である。




 風呂上がりにはいつものコーヒー牛乳を一気飲み。

 そして千尋や蒼真、朱王によるブロー魔法でフワッフワのツヤッツヤのいい香りに仕上げてもらい、ミューランとリナ、ユフィとシェリルも大喜び。

 ウルハとエイミーもこの仕上がりに大満足だ。

 二人が一緒に風呂を楽しんだと聞いたニコラスは頭を抱えて呆れていたが。




 この日も昨日とは違うメニューで魚介のフルコースを堪能し、お酒を飲んで楽しむ。

 明日のミューランとハリーの強化の話や、現在のリナ達の魔力練度を見せたりしながらあーだこーだと盛り上がる。

 朱王はシルヴィア用の魔剣は作って来たのだが、現役を引退しているはずのニコラスも欲しいという。

 ウルハやエイミーも魔剣を渡してもいい程に魔力練度が高く、ニコラスの鍛え方が相当なものだった事が窺える。

 今後魔族との関係がどうなるかも不明な為、実力者は多いに越した事はない。

 すぐに作るのは難しいが、天気を見ながら魔剣作りをしていこうという事になった。




 食後にはこの日完成させたモニターで映画鑑賞会だ。

 蒼真と朱雀でいつものようにポップコーン魔法。

 ミリーとエレクトラでフライドポテッツ作り。

 そしてリゼとアイリで甘い炭酸水を作って、千尋が果実を搾ってジュースにする。


 映画用にと用意した部屋は地下の一室。

 元々何か催しものでもあればと作った舞台部屋に設置した為、見た目はそのまま少し小さな映画館だ。

 椅子もテーブルを設けてあるので、全員がポップコーンとフライドポテッツ、ジュースを持って好きな席に着く。

 映画を流し始めると、これまで観た事がなかった使用人達は驚き、訓練場で何度も観ている幹部達もまだ観ていないこの日映される映画を楽しんだ。


 この日はリゼの希望で恋愛ものの映画だが、そのストーリーや設定、切なさの表現力。

 その全てが心を動かす作品となっていて、恋する女性陣にとっては涙を流すような素晴らしい物語だった。

 男性陣も感じる印象は違うものの、心揺さぶるストーリーに緊張や哀しさ、嬉しさを感じながら映画を楽しんだ。


 食後だというのに映画を観ながらのポップコーンやポテッツはどんどん進む。

 全員が空になるまで食べ続け、物語にもお腹にも満足して頂けただろう。

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