第174話 謁見《カミン視点》

 翌朝。


 いつものように朱王様に定時連絡をし、我々の身を案じてくださるお言葉と期待のお言葉を頂きました。


「マーリン、メイサ、レイヒム、フィディック。今日の我々の言葉一つ一つが朱王様の夢へと繋がります。心して掛かるように。呉々も気をつけて行動しましょう。特にマーリン! 間違ってもディミトリアス大王様に無礼を働かないようにお願いします」


「私ですか!?」


「はい。悪気はないのでしょうけど時々スタンリー候の頭を撫でたりしています」


「…… はっ!? もしかしてヤキモチですか!?」


「…… 全然違いますよ」


 やはり危険です。

 メールでメイサにお願いしておきましょう。


カミン[マーリンが不敬を行わないよう注意していてください]


「む? マーリンが不敬を行わないよう注意してください?」


メイサ[わかりました。任せてください]


 口に出したらダメでしょう……

 レイヒムも苦笑いしている場合ではありませんよ!


フィディック[オレがお二人をなんとかします]


 フィディック、貴方だけが頼りです。

 お願いしますね!




 スタンリー候のお目覚めが遅く、昨夜日付が変わるまで映画を観ていたのが原因でしょう。

 朝食の時間が八時を過ぎていました。

 レイヒムと宿の料理人とで作った朝食との事で、とても美味しかったです。

 昨夜観た映画はアイザック卿にも観て頂いたものでしたので、お二人とも楽しそうに内容について話し合っていました。




 十時前に大王城へと我々は向かい、大王城にいる使用人に連れられて玉座の間へと案内されました。

 外から見てもわかる巨大な城でしたので、玉座の間も沢山の柱が立ち並ぶ広大な一室です。


 玉座に座るのはディミトリアス大王。

 その両隣にまだお会いしていなかった魔貴族の方、アリス王女とマーシャル候が立ち、我々の背後に守護者四名とアイザック卿が立ちます。

 魔人領での礼節は心得ておりませんが、人間領の習わしのまま挨拶で構わないとアイザック卿から聞いております。

 まずは片膝をついて跪き、大王の言葉を待てとの事でした。


「よく来た、人間領の使者よ。俺がこの北の国大王ディミトリアス=ヘイスティングスだ。昨日、アイザックとフィディックから話は聞いている。が、其方らの口からも聞きたい。顔を上げよ」


「人間領から参りましたカミン=リープスと申します。我が主人、朱王の命を受け参上致しました」


「同じく、マーリン=スタインと申します」


「メイサ=グラスと申します」


「料理人のレイヒム=フラーレと申します」


「フィディック=パーダと申します」


 楽にせよとの仰せでしたので立ち上がり、朱王様の望む人間と魔人が共存する世界について語りました。

 ここ北の国では実際に人間と魔人が共存し、仲良く暮らしている事に驚いた事や、今後の関係性への展開などについても話させて頂きました。

 昨日スタンリー候が驚いていた魔石の使い方や、人間領の技術についても説明し、今後良い関係が築けるようであれば技術提供、物資があるとすれば貿易も出来る事などを説明しました。




 およそ一時間程も説明したでしょうか。

 話し合わなければならない事は多くあるのでしょうが、まず重要なのはお互いが歩み寄る事。

 外交に関しては今後人間領との関係を築いてからとすればいいでしょう。


「ふむ、なるほどな。まあ元々北の国では人間と魔人が共存している国だ。人間領と手を組むのは構わない、と言いたいところだが、他の国が黙っていないだろう。下手をすれば戦争になる」


「朱王様は人間と魔人の戦争を望んではおられません。しかし…… いえ」


「よい。言え」


「朱王様は先代魔王ゼルバード様の意思を継ぎ、人間と魔人が共存する世界を作る為なら…… 次代の魔王になってでもその理想を果たすと……」


「貴様!!」


「待て、アリス。その朱王という者はなかなか面白い男だな。魔王となるにはそれ相応の力がいる。朱王はそれに値するだけの強さはあるのか?」


「ディミトリアス大王陛下。私は朱王殿と一度リルフォンを介してお会いしております。朱王殿の強さはおそらくは守護者の皆様に届く程かと……」


 アイザック卿から見て朱王様はそれ程にお見えでしたか。

 我々も朱王様の強さの全てを知りませんからね。

 守護者の方は確かにお強いでしょう……

 私も少し戦ってみたい気もします。


「どういう事だ? りるふぉんを介して会った?」


「はい。朱王殿からの手土産にと頂いた物です」


「陛下! 早く貰おうぜ! 絶対とんでもねーもんだか…… 間違いなく素晴らしい品です!」


 スタンリー候やらかしましたね。

 大王様の前でその物言いはダメでしょう。


「まあ待て。要件は聞いたしまずこちらも名乗っておくべきだろう。アリス、お前からだ」


「…… アリス=ヘイスティングスだ」


「侯爵のマーシャル=クルツだ。なかなか面白い話を聞けた。よろしく頼む」


「…… 何をしている。守護者も名乗れ」


「私は同行して来たのですが…… スタンリー=ティスデイルだ。今後もよろしくな!」


「スタンリーは仲良くし過ぎではないか? エルザ=フローレス。昨夜は世話になったな」


「グレンヴィル=カイザーだ。昨日は最高に面白かったぜ」


「私はセシール=ローゼンだ。料理も美味かったし映画も面白かった」


 守護者の方々は昨夜の料理と映画に満足して頂けているようですね。

 嬉しそうに名乗ってくれています。


「む? お前達は会っているのか。それよりも面白かった? よくわからんが少し楽しみだ」


「朱王様からの贈り物です。まずはこちらをどうぞ」


アイザック[全員に配ってくれ]


 メールが届きました。

 大王様に武器を下げたまま近付いては失礼でしょうし、メイサにティルヴィングを預けてリルフォンを配ります。


「おお…… なんと美しい器だろう。中にある宝飾品がりるふぉんという物なのか? これ程美しい宝飾品も始めて見るな」


「はい、リルフォンは耳に付けるアイテムですが、付けると同時に脳内に映像が表示されます。設定を終えると遠く離れた相手と連絡を取る事を可能にするアイテムです」


「皆様! 驚くべき宝飾品ですのでお覚悟を!」


「ふんっ。そんな馬鹿な事が…… うおぉお!?」


「すっげーーーー!!」


「きゃぁぁあ!!」


「「うわぁぁぁあ!?」」


「「ぬおぉぉぉお!?」」


 アイザック卿がご注意くださったのですが、みなさん耳に付けると同時に叫び出しました。


「皆様大丈夫ですか? では時間の設定と表示されていると思います。今現在十一時十…… 八分です。後程時間については説明しますのでご了承ください。では次に魔力登録を行います。全員と握手して下さい」


 まず私はディミトリアス大王様と握手をしました。


「ぬおぉぉぉお!? カミン殿の顔が目の中に出て来た!? まっ待て! 心の準備がっ! できれば個別に説明してはくれぬか!?」


「…… では全員との魔力登録は後程という事で。魔力登録は握手して登録を許可すればできます。顔と名前が表示されますので皆様個別に分かれてお願いします」


 こちらはアイザック卿を含めて六人、大王様方は七人おりますからね。


 私がディミトリアス大王様とアリス王女のお二人を担当しましょう。

 親子ですし新しい物を覚える時間を共有して頂くのもいいかもしれません。

 スタンリー候はアイザック卿を捕まえていますから任せましょう。

 マーリンはセシール候、メイサはエルザ候、レイヒムはマーシャル候、フィディックはグレンヴィル候を担当してくれるようです。




 私はアリス王女とも握手して魔力登録を行い、まずはメール機能から説明しました。

 脳内に名前と相手の顔や文字が表示されて、考えるだけで言葉を交わす事ができます。

 この便利さにも驚き、最初はこちらを睨んでいたアリス王女も笑顔を見せてくれました。


 続いて写真機能や動画の撮影も説明し、見た景色が切り取られて視界に映る事にまた驚いておりました。




 そして私達は玉座の間から出てコールします。

 私からの着信を受けた大王と王女は驚きの声をあちらであげておりました。


 そしてテレビ通話設定に切り替えます。

 悲鳴をあげる大王と王女でしたが、遠く離れた相手と会う事が出来る機能だと告げると、アイザック卿が言っていた言葉を思い出し理解して頂けたようです。


 また、私達もよくお世話になっている機能、音楽機能は、私のリルフォン内のデータを転送して聞いてもらいます。

 これにも驚きながらも感動しておられましたね。

 王女は涙を流し、大王はご自分の立場を忘れてはしゃいでおられました。

 それは守護者の方々やマーシャル候も同じ。

 その機能、性能に感動して涙を流す者もおりました。


 全員で魔力登録を行ってリルフォンの説明は終了です。

 しばらくは七人で通話や機能を堪能して頂きました。




 さあ、お次は本題である朱王様へとお繋ぎしないといけませんね!


「ほんとすげーなアイザック。神器っつーのも納得したぜ。よーしカミン。次は映画観ようぜー」


「おや? 次は朱王様にお繋ぎする流れでは?」


「だってあのモニターってのもお土産なんだろ?」


「まあそうですが……」


「守護者全員が面白いと言っていた物か?」


「…… そうです陛下。私もこの世にこれ程面白い事があるとは思いませんでした」


 スタンリー候は言葉を正しましたね。

 油断するとすぐに戻ってしまいますからそのままでもいいかと思いますが。


「ではカミン殿。まずはそのという物を見てから朱王殿との話を考えようと思う。すまんが見せてくれぬか」


「それとレイヒムの料理を陛下にも食べてもらいたいですね。ちょーうめ…… とても美味しい料理ですので」


 スタンリー候…… 自由過ぎますよ……


「ではレイヒム殿も頼む」


「はい、お任せください」


 使用人に案内されてレイヒムは厨房へと向かいました。




 我々も場所を移動して客室に案内され、モニターを設置して映画を映しました。

 皆様食い入るように見つめていますので、話し掛けても無駄でしょう。


 私は部屋から出て朱王様に連絡。

 朱王様は笑っておられましたが良いのでしょうか。


 映画一本観終われば朱王様との会談となるかと思いましたが、シリーズ物のドラマを観始めた為この日は無理でしょう。


 夜になれば観るのを辞めるのですが、朱王様にもご都合がありますからね。


 それから数日映画を観続ける大王様方でした。

 何を観ているのかと思えば海外ドラマシリーズという長編物……

 海外の意味はよくわかりませんが、終わりの見えないシリーズ物でした。


 朱王様は大王様方が満足してから連絡を取れればそれでいいと仰いましたが、いつ満足して頂けるのでしょうね。

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