第168話 ヴァイス・エマ国強化

 竜人との戦闘訓練の翌日からは千尋と朱王は武器の加工をする事になった。


 竜人も自分の武器が加工されるのであればと、武器の魔力寄せ係として助手をする。

 まずは昨日戦闘をした相手をという事で千尋はフィンを、朱王はエリオッツの武器を加工する。

 どちらも鞘は必要ないので表面の加工のみで、今ある形を元に綺麗に整え装飾を施すだけ。

 ミスリルではないので着色の魔石も使えないのだ。

 蒼真の精霊刀も朱王は半日程度で完成させているので、今回の真竜武器に関してもそれ程時間はかからないだろう。

 ミスリル工具を当てて加工を始める。






 昨日と同じくエマの洞窟から亜空間へと移動した蒼真達と竜人六人。


 ミリーとアリー、朱雀とリュカは別行動での全力戦闘を行うようだ。

 ミリーの場合は全力での戦闘でもアリーの巨斧を矯正出来るだけの実力がある。

 ところどころ武器の振りや体捌き、足の運びなどをアドバイスしながら訓練を積むのだろう。

 一撃が必殺ともなる二人であれば、危機的状況から集中力も高まる事で成長も早いだろう。


 朱雀の強さはよくわからないが、朱王と同じく並外れた能力を発揮しているだろうと予想する。

 普段から遊びと言いながらも真面目に剣を振るう朱雀だけに、その剣術は超一流と言ってもいいだろう。

 蒼真が以前教えた時の覚えの早さ、そして自分の体に合わせた調整の能力には舌を巻いた程だ。

 リュカも朱雀との戦闘であれば間違いなく上達するだろう。


 午前中は昨日の続きとして技の再確認。

 リゼとアヴァも蒼真の訓練に参加しており、全員集中力を高め、一振り一振りに気合いを込めて武器を振るう。

 棍を持つルエや巨槍のアヴァも、剣ではなくとも蒼真の知識から聖騎士達の技を教えてある。

 双剣のマヌエルは同じく双剣を持つアイリの超高速の剣技を見せてもらっている。

 リゼは直剣のテオの指導をしているが、自分の防御の事はいいのだろうか。

 まだ精霊魔導師として未熟なエレクトラには蒼真が直々に指導をする。






 昼食を摂って午後になるとエリオッツとフィンが亜空間へとやって来て訓練に混ざる。

 交代でマヌエルとアヴァが千尋と朱王のいる城へと戻って武器の改造だ。

 しかし昨日、蒼真の訓練を受けていないエリオッツとフィン。

 朱王の大太刀による剣技や千尋の四刀流に圧倒されはしたものの、自分の剣技に何の問題があるのかよくわからない。


「蒼真の訓練を受ければ強くなるというのは何となくわかる。だが剣術とは我々の振るう剣とそれ程違いはあるのか?」


「まあただ振るう剣とは全然違うな。昨日の午後からずっと訓練しているルエとテオがいるし試しに戦ってみたらどうだ? 二人も自分の上達が見えていいだろう」


「ルエもテオもまだまだ俺達には届かんはずだがな。いいだろう、俺はテオの相手をしてやろう」


「私はルエか。この磨かれたルゥを相手にどれだけ戦えるか楽しみだな」


 綺麗に整えられ、装飾を施された真竜剣を見つめて嬉しそうにルエに向かうエリオッツ。

 フィンも巨剣を手にテオと向かい合う。




 リゼ達が離れたところで蒼真が開始を宣言する。


「じゃあ始め」


 剣を構えたエリオッツに一瞬で間合いを詰めたルエからの突き。

 体を捻り両手で引いた状態からの突きは棍の長さを不明確にし、体を駆使しての突きはこれまでの速度をさらに高める。

 エリオッツは頬を掠めながら棍の先端を左に躱し、右袈裟に振り下ろすもルエは回転するように左側へと回り込み、そのまま棍を引いて右薙ぎに打ち付ける。

 ガードも間に合わずに棍を受けたエリオッツは転がりながらも起き上がり、続くルエの攻撃に備えたところで額に衝撃が走る。

 距離を詰めたルエからの二度目の突き技。

 後方に仰け反るエリオッツに棍を持ち直しての左右の殴打。

 右の石突で下顎を打ち上げ、最後に棍を持ち直しての唐竹割り。

 全ての攻撃がこれまでとは比べものにならない程に早く、そして重い。

 ルエもエリオッツを圧倒した事に驚いているようだ。

 元々動作の速い雷竜だが、腰を入った棍術はその速度をさらに引き上げた。

 そして軽量とはいえ体重の乗った攻撃は、魔法を発動しない状態でも充分な威力を持つ。


「エリオッツ様大丈夫ですか!?」


 容赦なく打ちのめしたルエがエリオッツに駆け寄る。

 手を取って起こし、顔中から血を流すエリオッツは完全に防御が間に合わなかったのだろう。

 頭を狙われた事で超速回復も遅い。


「むぉぉ…… これ程とは思わなかっ…… た」


 パタリと倒れるエリオッツは回復に専念するためか、リルフォンで見ると放出する魔力量が高められている。




 フィンとテオは同時に動き出して剣を振るう。

 巨剣を振るうフィンの唐竹斬りを受け流し、左右で握り締めた真竜剣を右袈裟に振り下ろすテオ。

 咄嗟に後方に引いて切っ先を躱そうとするが、普段のテオの斬撃とは違い半歩前に出た一振りはフィンの左腕を斬り付けた。

 後方に上体を仰け反るフィンにさらに迫るテオは、腰を低く安定させて左薙ぎの剣を振るう。

 腰の入った斬撃はフィンの巨剣を弾き、優にその巨体ごと弾き飛ばす程の重さがある。

 このたった二振りの斬撃でわかるテオの上達にフィンも驚きより嬉しさが込み上げる。

 以前は自分よりも劣っていたテオが、たった一日程度の訓練でこれ程までに実力を身に付けたのだ。

 横を見たテオの視線を追ってそちらを見るフィン。

 エリオッツとルエの戦闘が終わったようだ。

 剣を振るうテオだが、フィンを倒さずともその実力は見せる事が出来ただろう。


「テオもルエもたった一日で随分と強くなったのだな…… これなら本当に千尋の四刀流にも対抗できるようになるかもしれん」


「フィンさんならもっと強くなりますよ」


 同じ地属性の竜人であるフィンとテオ。

 その実力は古竜であるフィンの方が高かったのだ。




 一分程で戦闘を終えてエリオッツの回復を待つ。


「蒼真! わたしの棍術はどうだった!?」


「ルエが真面目に訓練した甲斐あってすごく良かったな。この調子で頑張ろうか」


 やったー! と嬉しそうに飛び跳ねるルエだが歳はいくつなのだろう。


 蒼真はフィンの巨剣を確認しつつ、剣術を教える。

 巨剣で千尋の四刀流に対抗したいと言うフィンの要望はなかなかに難しいと思うが、身体能力が高く地属性強化も得意なフィンであれば何とかなるかもしれない。

 まずは剣速と体捌きを鍛える意味でも、全員と同じように型に嵌った剣術を身に付けるべきだ。

 リゼのルシファーを巨剣として参考にしてもらおう。

 リゼの剣を真似るように振るい、蒼真が指摘してフィンの癖を修正していく。

 これまで振るい続けた剣の癖を取るのは大変だが、自分が上達すると考えれば苦痛でもなんでもない。

 蒼真から十数カ所も指摘されてしまったが、指摘された箇所を意識して振るう斬撃は普段よりも速い。

 力まずに集中力を高めて癖を修正するよう真面目に取り組んだ。


 エリオッツも回復を終えて蒼真から剣術を習う。

 ルエもあれ程の上達を見せたのだし、自分も今とは比べものにならない程の実力を身に付けられるだろうと期待する。

 同じような直剣を持つテオを手本にエリオッツの癖を修正する。

 テオもまだ完璧とは言えないが、蒼真が指摘すると微調整してテオの斬撃がまた僅かに鋭くなる。

 エリオッツは癖だらけなのでテオを手本にしても大丈夫だ。

 ひたすら修正しながら反復練習を繰り返す。

 斬撃一つにも時間を掛けて修正し、練習していない斬撃との違いに驚くエリオッツ。

 剣速が明らかに違うし体の力の入りが全くの別物だ。

 一つ一つの斬撃に集中力を高める竜人達だった。






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 翌日の夕方には武器の加工を終えた朱王。

 千尋は午後からクラウディア女王の武器作りを始めている。

 ルエの武器が棍だった為、表面を磨き込むだけで加工を終了したので早く終わったのだ。

 不満そうなルエだが、朱王から魔力色のブレスレットを貰って満足そう。

 ルエに色を込めさせてもよかったのだが、敢えて朱王がイメージを込める。

 赤雷にしたいとの本人の希望を踏まえて組み込んだイメージ。

 魔力を練ると赤く光る棍となり、本人の意思で光量の調整を可能にした。

 光を放つ棍で打ち込む中に、時折光らない棍での攻撃を交える事で錯覚を生めるだろうとの朱王の狙いだ。

 この仕掛けにはルエも喜び、棍の光のオンオフを瞬時に行う事で実際にオフ状態が見え辛く感じる事を確認した。

 それを見た千尋は(蛍光灯じゃん)と思ったが口には出さなかった。


 他にもブレスレットは作ってあったので、夜に全員に配って魔力色を決めていった。

 ルエの光る棍の人気が高く、全員武器の刀身部分や装飾のところどころを光らせたいなど、要望に応えながらイメージを組み込んだ。






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 それから数日。


 ノーリス王国に住むクリムゾンの隊員達四名、教師として五名、そして暗部六名がエーベルハルトと共にヴァイス・エマに到着した。

 ノーリス国王とのリルフォン会談の後に朱王がクリムゾンに指示を出していたのだ。


 荷車に積んで運ばれてきたものは、ミスリル製のダガー各種と調味料を大量に持って来てもらっている。


 まずは竜人やクラウディア他直属の部下達と挨拶を交わし、彼らの今後の任務について伝える。


「教師五名のうち二人には女王付きの彼等の教育に当たってもらう。他三名はエルフ族の教育だ。守護者達も一緒に学んでくれ。ラルスは最年長だし君が校長とし指揮を取れ」


「はい! 尽力を尽くします!」


「次に暗部と隊員達はレオニーが指揮を取れ。レオニーは女王付き、暗部の他五名は直属の部下達…… 他の呼び方ないのかな…… うん、まあいいや。彼等に一人ずつ付いてくれ。仕事内容は諜報とこの地域周辺の調査と彼等のサポートかな。今後人間領に入る際には護衛も頼む」


「了解しました。命を賭して全うします」


「うん、死ぬな」


「はい」


「クリムゾン隊員四名は守護者の四人と共に行動してくれ。それとエルフ族の戦闘教育も頼む。彼等は怪我の治りが遅いから注意するように」


「「「「はっ!」」」」


 クラウディアや竜人達の許可も得ず勝手に決める朱王。

 彼等の仕事が決まったのでそれぞれの人員の割り振りをしてもらった。




 その後は教師達にダガーを配り、千尋の魔石で魔力を溜め込めむ仕様にエンチャント。

 それぞれ好みの下級魔法陣を組み込んだ。

 暗部や隊員達はミスリル製の武器をそれぞれ持っている。

 全員の武器にエンチャントと魔法陣を組み込んだが、精霊契約はまだ彼等には不可能だ。

 魔力練度が精霊と契約するにはまだまだ足りない為、今後この地で訓練してからとなる。

 それでも擬似魔剣があれば高難易度魔獣相手でも戦えるし問題はないだろう。


 フローリアン達女王直属の部下達にもダガーを配り、エンチャントと魔法陣を組み込む。

 そしてミリーとエレクトラが担当して精霊契約を結んでもらう。

 ものの数分で守護者達を上回る実力となるのだから誰もが驚くのは仕方がない。

 あとは慣れるまでは自分達で訓練してもらうだけだ。


「では私もダガーを貰っても良いのか?」


 嬉しそうに荷車に近付くクラウディア。


「ん? ダメだよ?」


「な、何故だ!?」


「ほい、これ。女王様の武器だよ」


 と千尋が手渡したのは木と金属で作られたこの世界では珍しい武器。

 クラウディアから受け取った魔木を加工し、朱王の車に積んであった魔力の溜まるミスリル素材を組み込んだ長めのライフル銃だ。


「むうぅぅぅぅ…… これは…… なんだ?」


「これは銃といって遠距離攻撃を可能とする武器だよ。本来は金属の弾丸を撃ち出す武器なんだけどこれは魔法を撃ち出す武器として作ったんだー」


「ど、どうするのだ!? ちょっと試してくれ!」


「じゃあわかりやすいように火属性で」


 と山の方に銃口を向けて魔力を流し込んでトリガーを引く。

 銃声と共に炎の弾丸が撃ち出され、当たった岩に衝撃を与えると共に豪と燃え上がる。

 二発、三発と撃ち出すと当たった岩は砕けていき、通常の銃よりも威力が高い事がわかる。


「こんな感じの武器だよ。ただの魔法であれくらいだから精霊魔導なら威力も凄そう」


「…… 凄いなんてものではないではないか!! こんな武器見た事ないぞ!?」


「うん、でもこれでいいでしょ?」


「あ、ああ、うん…… これを貰っても良いのか?」


「これ女王様の杖を改造したやつだからいいよー」


 嬉しそうに受け取るクラウディアに竜人達も集まる。

 全員でその銃を撃っては驚き、竜人達が物欲しそうにこちらを見るがとりあえず無視だ。


 同じように守護者達からも魔木を受け取っていたので全て銃を作っている。

 女王の魔杖ほどの大きさはなかった為、少し短めのライフル銃だが性能面では全く問題はない。

 多少の魔力量の違いがあるだけだ。


 クラウディア女王始め守護者も含めて精霊や魔法陣を組み込んだ。

 弾丸を撃ち出すわけではないので火と風、雷に限定したが。

 もちろんこの銃にも魔力色の魔石を組み込んであり好きな色をイメージしてもらえばいいだろう。

 ダガーの数を確認するとエルフ達から少し余りそうなので、この五人にもダガーを一つずつ渡し、上級魔法陣も組み込んでいざという時の大魔法とした。




 その後はエルフ族を集めて全員にダガーを配り、ひたすらエンチャントと魔法陣の組み込み、精霊契約を行い、竜人とエルフ族しかいなかったこの地は精霊溢れる国となった。

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