第143話 スカイダイビング

 エレクトラとヴィンセントは今後の仕事や習い事があるからと、昼前には稽古はお開きとなった。


 帰りに仕立て屋のお店に寄って和服の注文をしてその後で昼食を摂る事にした。

 貴族街の広場中央にある服屋兼防具屋がその店だ。


 店内に入ると数多くの服や防具が取り扱われ、奥に行くと工房がありそこに昨日の仕立て屋がいた。

 こちらに気付いて向かってくる仕立て屋さん。


「これは朱王様。お渡しした装備に何か不具合がございましたか?」


「いや、とてもいい装備だったから私達の分もお願いしたくて来たんだ。複数注文していってもいいかな?」


「ありがとうございます! 仕立て屋冥利に尽きると言うものです!」


 この仕立て屋さんはフィアという名前らしい。

 千尋と蒼真、朱王とで絵を描いてデザインを決めて注文。

 女性陣は和服がわからないので全部お任せする。




 しばらくして全員分のデザインが決まり、数日中には作ってくれるとの事でお願いして帰る事に。


 朱王邸に戻ってもよかったが、同じ広場にある料理屋で昼食を摂る事にした。

 やはり和食ではない和食料理に首を傾げつつもノーリスの味を楽しんだ。

 リゼ達は和食に馴染みがないので美味しいと言って食べていたのだが。




 午後からは暇になってしまったがどうしよう。


「私はこの国でよく邸の崖からスカイダイビングをして遊んでたね。約2キロはそのまま落下できるからスリルもあって楽しいよ」


「いいね! 楽しそう!!」


「空は飛べるようになったけどスカイダイビングはした事なかったな」


「スカイダイビングってなんですか?」


「そこの崖から飛び降りるんだよー」


「なるほど! 飛行装備で戻ってくるんですね!?」


「そそ、楽しそうじゃない!?」


「こ、怖くないですか?」


「ね、ちょっと怖いわよね……」


「飛行装備に着陸機能も組み込んであるから大丈夫。気を失ってても着陸できるから心配いらないよ」


 という事で午後からは邸の崖からダイブする【ベースジャンプ】をして遊ぶ事にした。




 少し出張った崖の上。

 ここから飛び降りると岩肌に近い位置を滑空できるという事で千尋と蒼真が並んで立つ。


「じゃあ最初に私が飛ぶから続いてね! 怖かったら助走つけて飛び出しちゃえ!」


 朱王が軽く助走を付けて飛び出した。

 続いて千尋と蒼真も飛び降りる。

 千尋は前からのバック宙、蒼真は背面からのバック宙。

 初ダイビングだというのに無茶をする二人。

 そして嬉しそうにミリーも助走を付けて飛び出した。

 リゼとアイリも覚悟を決め、お互いに目で合図すると共に駆け出してジャンプ。


 浮遊感と何も聞こえない程の爆風のなか、普段では見る事のない絶景が待っていた。

 超高速で流れる岩肌と、眼下に広がる雪景色。

 耐寒装備のおかげもあって寒くはない。


 緊張によって弛緩していた体だが、飛んでしまえばその恐怖も一気に薄れて楽しさが込み上げてくる。

 手や飛行装備を微調整しながら体を左右に流す朱王と、それを真似して千尋と蒼真も方向を変え始める。

 負けじとミリー、リゼ、アイリも翼の強度を変えて方向を変える。

 普段の飛行とは違う落下での方向転換。

 翼を広げる事はなく強度と形状を変える事で右へ左へと方向を変える事が可能だ。


 次第に近付く地面に恐怖を覚え始めた頃、朱王が翼をゆっくりと広げ始め、同じように千尋と蒼真も翼を操作する。

 ミリーは何故か翼を広げず朱王に追い付こうとしているようだ。

 リゼとアイリも千尋達のように翼を広げていき、その落下速度を落として行く。

 翼が完成する頃には体は水平方向へと流れており、雪景色の広がる広大な山を見下ろしながら滑空する。

 翼を広げなかったミリーはというと、地面スレスレで翼が広がり、直角にその方向を変えて朱王の元へと追いついた。


「たっっっのしいーーーーー!!」


「すっげー楽しい! もっとやりたい!!」


「これは病み付きになりそうだな!」


「怖いのは最初だけだったわね!」


「すっごく楽しかったです!」


「これにスノーボード履いてたらまた楽しいんだけどね! 今度買いに行こう!」


「「スノボー!? やりたい!!」」


「私も!!」


 スカイダイビングからの着地後にこの広大な雪山を使ってスノーボードを楽しもうというのだ。

 サラサラの新雪の上を滑って行くだけでも楽しみだというのに翼を使って様々な遊びができるだろう。


 リゼがリッカとシズクを駆使すれば雪山を色々な形に改造する事も可能だし、ハーフパイプやジャンプ台を作って楽しむのもいい。

 遊びの幅があり過ぎて遊び尽くせるのかもわからないけど目一杯楽しもう。

 元々スノーボードもほとんどやった事がない千尋や蒼真だが、その抜群の運動神経があればなんだって軽々とこなしてしまうだろう。


「ねぇ朱王さん! スノーボードの映像を放送するのもいいんじゃない? ノーリス王国も他国との交流が深まりそうだし!」


「いいね! その為にも千尋君には上手くなってもらわないといけないよ!」


「まっかせてよ!!」


「いずれはウィンタースポーツの大会もあればいいな」


「そうだね! 今施設の子供達のスポーツにもプロを設けたいと考えてるからさぁ。今後いろいろ協力してよ!」


「魔法のあるスポーツなんて想像つかないけどな。それはそれで面白そうだからルールも考え直さないと」


 地球で実際行われているスポーツに魔法を追加する。

 攻撃魔法に関してはそのスポーツによっては有りかもしれない。

 球技の場合では攻撃魔法は不可とすべきだろう。

 球が破壊されるだけでメリットはない。

 しかし自己の強化や風属性魔法での跳躍、自分への様々な魔法を駆使するのは面白いかもしれない。

 今後いろいろと煮詰めていく必要があるだろう。




 飛行装備で真っ白な雪の山を見ながらまた上空へと方向を変え、再び朱王邸に向けて翼を羽ばたかせる。

 およそ2キロも落下したが、飛行装備で重力を操り、翼に上昇気流を受けながら一気に邸まで戻る。






 朱王邸に戻って早速二度目のスカイダイビング。

 こんなに簡単にダイビングができて良いのだろうかと思える程に気軽に行える。

 地球であればパラシュートの準備やヘリコプターの手配、その他危険に対しての様々な確認など、そう簡単にできるものではない。

 飛行装備一つで簡単にできてしまう事に、改めていい装備だなと思い直す。


 千尋とリゼ、アイリは天使の羽根となった飛行装備。

 触ってみればその質感はワイバーンの翼なのだが、見た目だけはフワフワとした天使の羽根だ。


 獣耳まで生やしてほんとなんでもありだなと思ってしまう。

 風を受ければ見た目だけなはずの獣耳まで風に靡く優れもの。


 そんな事より今はダイビングを楽しもう。

 今度は助走をつけて飛び出す千尋と蒼真。

 すぐに続いたリゼとアイリ、朱王とミリーも続く。


 楽しさのあまり何度もダイビングを繰り返す一行だった。

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