第123話 夢ってよくわからない

「蒼真さん、私のケーキも食べてみますか? はい、あーん…… 美味しいですか?」


「あ、ああ。美味いな。けどアイリ、頬にクリームがついてるぞ」


「え! もぅ…… もっと早く教えてください」


 頬を赤らめるアイリは綺麗で、その仕草は何とも言えず可愛らしい。




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「蒼真さん! 高難易度クエストありますよ! 早く行きましょう!!」


「よし、行くか! …… んん、ミリー。あまりくっ付くな、歩きにくいだろ」


「いいじゃないですか減るもんじゃないですし!」


 腕を絡ませるミリーに少し戸惑ってしまうのだが。




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「ねぇ蒼真! 訓練なんてしてないで遊びに行くわよ! ほら早くっ!」


「遊びに行くってどこにだ? それよりその服似合ってる、可愛いじゃないかリゼ」


「そう思う!? 嬉しい蒼真!」


 嬉しそうに笑顔を見せて、手を取るリゼはやはりとても可愛い。




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「ねぇ蒼真ー。刀磨きばっかしてないでオレの事も構ってよ」


「まったくしょうがない奴だな千尋は。こっち来い」


「わーい! 蒼真大好き!」


 飛びつくように抱き着く千尋だった。




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「蒼真君。あれから随分と身体を鍛えたんだね」


「朱王さんに負けていられないからな」


「いつもそんな風に努力をしている君は素敵だよ。抱きしめてもいいかい?」


 朱王に抱き締められ、優しさの中に力強さを感じた。




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「うわぁぁあ!? …… なんだ…… 夢…… か……」


 ものすごく落ち込む蒼真だった。


 昨夜のダンテの告白とアイリの返事。

 自分が多少なりとも好意を覚えたアイリは、今後迎えに来たダンテと付き合う事になるかもしれない。

 自分が元の世界の恋人である美春の事を今でも想っているのは事実だ。

 しかしアイリの事を素直に祝福できない自分もいる。


「なんだか、気持ちが整理できないな…… 自分の事がよくわからなくなってきた……」


 だが何かあれば自分はアイリを護る。

 いずれはダンテが迎えに来ると言うのだ。

 それまでは何があっても自分が護らなければ。

 デヴィル戦での自分の不甲斐なさを思い出し、更なる強さを求めて精進する。


 今日も幹部の朝練に参加するべく、朝の身支度を整える蒼真だった。






 今日の映画の日を最後に、明日の朝にはノーリス王国へと旅立つ予定だ。

 もうすぐ十月となり随分と涼しくなっている。

 ここアースガルドでも地球と同じく一年が十二ヶ月あり、十月は雨季となる。

 これ以上ノーリスへ向かうのが遅れてしまうと、雨季の影響でゼスからノーリスへの唯一の道である渓谷の道が水の中に沈んでしまうと言うのだ。

 そして十一月からは気温が下がり、冬が短期間ではあるがやってくるらしい。

 しかしこれから行くノーリスは高地にあり、気温もゼスよりも低い為十月には冬になるそうだ。


 そうなると防寒用の装備や服が必要となるだろう。

 服はまた朱王の邸に行商人を呼ぶという事で、防寒用の装備を買いに行こう。




 貴族街の防具屋にて。


「じゃあ自分の好きなの選んでまた皆んなで評価しよう」


「自分で選べばいいじゃん!」


「千尋のが一番問題なのよ!」


 という事で防具選びだ。

 飛行装備はそのまま使うのでコートは却下。


 各々選んで集まり、それぞれ自分の飛行装備に合った暖かそうなアウターを選んだ。

 耐火耐寒素材で出来たアウターの為、雪山でも寒さを感じにくいのだそうだ。


 下半身には同じ素材で出来た腰布を購入し、飛行装備の下に着用する。


 そして全員ミスリルウェアを購入する事にした。

 厚みがなくて防御力が高いミスリルウェアはインナーを買うよりも良いだろう。

 胸当てなどの防具も必要がなくなる為、厚めのアウターを着ても問題ない。


 やはり最初に持ち寄った際には千尋は鎧を持っており、似合わないからと即却下されていた。




 ついでにお土産を買い漁るべきだろう。

 ゼスの名産品であるお土産と言えばチョコレート。

 貴族街にあるお菓子屋さんに向かうと、チョコレートを売る店が其処彼処に溢れている。


 まず入った店はチョコレートのタルト専門店。

 チョコレートの味も甘さも各種取り揃えられており、様々な味が楽しめそう。

 スイートからブラックまで、そしてホワイトチョコのタルト。

 さらにはトッピングのフルーツも選べるのでその見た目も綺麗で可愛らしい。

 日持ちはそれ程しないだろうと思ったが、冷凍の魔石で長時間の保存も可能だそうだ。

 フルーツとタルトを別々に個包装してもらい、いつものように大量購入。


 次に入った店は純粋に板チョコ専門店。

 こちらも味が百種類と豊富に取り揃えられており、甘さやカカオの成分比率、ミルクの配合率など多くの味が楽しめる。

 さすがに百種類もあればその味の違いも素人ではわからないものもあるのだが、チョコレートはいつ食べても美味しいからと全種類を5セット購入。

 食べきるまで何ヶ月掛かるんだろう。


 さらに店を周り、チョコレートの購入した個数は三千個を超えるほどだ。

 いったい一日にいくつ食べる気でいるのか。

 購入した彼等は嬉しそうだが、箱詰めする店員さんはどこも大変そうだった。

 全て邸に配送を頼んでお土産買いは終了した。






 今日はどこに行っても人々で溢れ返っているので朱王城でくつろぐ事にする。

 クリムゾンの幹部達は今夜の映画上映や、街の警備で仕事に出ている。

 朱王も残りの仕事を片付けると書類と奮闘中だ。


 いつもの千尋達五人と朱雀がロビーでティータイム。

 お土産ついでに買ってきたお菓子を食べながら話しをする。


「アイリは明日ノーリス王国に一緒に行くって事でいいんだよね? あれ…… なんかまぶたが腫れてない?」


「私はこの旅を皆さんと続けます。腫れて見えるのは気のせいですよ……」


「女性なら時々ある事なのよ」


「ええ!? 私はそんな事ないですよ!?」


「ミリーはちょっと黙ってなさい!」


「むぅ…… あれ? 蒼真さん、それ精霊剣ですよね? 朱王から貰ったんですか?」


「ああ。兼元はダンテにやってしまったからな。朱王さんがこれをくれたんだ。ランは…… まだ寝てるようだな」


「私も精霊剣を使うかって聞かれたんですけど、ホムラがどうなるかわかりませんからねー。それに剣は使えませんし!」


「まぁ今朝使ってみたんだが、兼元に比べて重いから少し違和感があるな。だが魔力の流れは悪くないどころか体の一部みたいな感覚だ」


 テーブルに精霊剣を置いてみんなに見せる。

 鈍色で派手さはないが綺麗な刀剣だと改めて思う。

 装飾された鞘も黒地に鈍色の装飾と、落ち着いた雰囲気となっている。

 そしてこのミスリルで作られた鞘も魔力を溜め込める素材で作られており、今後どのように組み込もうか悩むところだ。


「あの! 蒼真さん!」


 立ち上がって蒼真に声を掛けるのはアイリ。


「ん? どうした?」


「いえ、その……」


「昨日の事か? オレの事はそう気にするな。これまでと何も変わらない。また一緒に冒険しよう」


「はい、ありがとうございます」


 泣きそうな表情で座るアイリは、蒼真との関係性が壊れるのを恐れていたのだろうか。


「むぅ…… 言いたい事は山ほどありますが今は我慢しておきます」


「ミリーが我慢するなら私も我慢するわよ……」


 ミリーもリゼも言いたい事はあるらしい。

 いつも堂々とした蒼真がはっきりとしないのだし、文句の一つも言ってやりたい。

 しかし蒼真の気持ちやアイリの気持ちもある。

 他者である自分達が口を出す事ではないだろう。

 口を出しそうだが。


「よし! この話はもう終わり! 蒼真もアイリも今まで通り! リゼもミリーも口出ししない! いいね!!」


 パンッと手を叩いて占める千尋。

「ぶー」と口を尖らせているリゼとミリーは、たぶん今夜また女子会でもするのではないだろうか。

 朱雀だけはお菓子を食べながら五人の様子を見守っていた。






 映画の日二日目の夜。

 各地モニターの前には昨夜を上回る程の人集り。

 映画上映開始を心待ちにし、誰もが期待に胸膨らませている。


 十九時まで残り五分となり、モニターにダンテとバルトロが映し出される。。


「皆さん、長らくお待たせしました。私、クリムゾン本部社長のダンテと申します。昨夜の映画は如何でしたでしょうか。楽しんで頂けましたか? …… ありがとうございます。楽しんで頂けてこちらとしても嬉しいです。今夜も是非楽しんでください」


「こんばんは。ゼス王国聖騎士長バルトロだ。映画は良い。心踊るような気分になる。今夜も皆と共に私も楽しませてもらおう」


「…… ちょっとバルトロ様、セリフを忘れたんですか? 打ち合わせ通りもっと引っ張ってくださいよ!」


 画面に映っていないイアンが注意する。


「仕方がないじゃないか、あんなに長い文章覚えられんし儂だって頑張った。このまま儂の顔を映し続けたら良いんじゃないのか?」


「おっさんの顔を見続けて何が楽しいって言うんですか!」


「なんじゃと!? おのれイアン、生意気な奴め! 明日の訓練では徹底的にしご……」


 映画が始まってしまった。

 今まで見た中で一番酷い内容だったと思うがまぁ良いだろう。

 良いのか? うん、良いだろう。

 本当に大丈夫なのか? 聖騎士長としての威厳が全く無かったような気もする。

 まぁ良いだろう。




 この日の映画も面白かったと大いに盛り上がり、朝まで続くお祭り騒ぎとなった。

 おかげでクリムゾン隊員は朝まで警備と巡回に追われるのだが。




 朱王はまた千尋と蒼真を誘って歓楽街に行こうとして、待ち構えていたミリーに見つかった。

 止むを得ずリゼとアイリも誘って酒場へと向かい、周りの客達と一緒になって酒盛りをして楽しんだ。


 悩める蒼真とアイリも酒のパワーで語り合う。


「アイリ…… オレはなぁ、まだ元の世界の恋人の事を、ヒック、想ってる。情け無いとは思うがまだ引き、ずってるんだ、ヒック」


「気付いてましたよ…… でも私が見てきた蒼真さんは頭もいいし強くてかっこいいです! そして優しくて時々可愛らしい。とても素敵な方ですよ」


「ははっ。アイリは優しいからなぁ…… いつも頑張ってて、優しくて、ヒック、綺麗で…… オレは、アイリに幸せになって欲しいんだ、ヒック。いつも笑って…… て…… グゥゥゥゥ……」


 普段では考えられない程に酔っ払った蒼真だったが、その言葉を聞けてアイリも満足そうだ。

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