第112話 魔剣作りとお仕事
ハクアの武器作り。
上級精霊の器にする武器だし、それなりの魔力量が欲しい。
目標は6,000ガルド以上だが、ハクアの魔力量で大丈夫だろうか。
薙刀のデザインをいろいろと考えた末、薙ぎと突き両方に良さそうにと片刃の槍を作る事にした。
とりあえず魔剣、槍だから魔槍になるのか? が完成したらミリーに稽古をつけてもらえばいいだろう。
以前は迫害を受けてきた子だ。
できる事なら強く、そして今のまま優しさを忘れずに育って欲しいと思うのは朱王の親心。
ミスリルの魔力を溜め込める部分を集めた箱から素材を選び出す。
まずは柄部を作るのだが、魔力を溜め込める長い素材などなかなか存在しない為、接着の魔石で作るしかない。
魔力を溜め込めるミスリルの塊もミスリル板から切り分けられている為切断面は平らだ。
幅はバラバラだが、長さを出す為に一つ一つくっ付けていき、ハクアと朱王で両端から加圧して接着した。
そして幅を整えて円柱になるように加工していく。
ハクアの魔力練度は以前のアイリと同程度。
充分な練度の為朱王の手伝いも問題なくできる。
サクサクと進んでいく加工は見ていても面白い程だ。
円柱が削り出せたら刀身を作る。
ファンタジー色の強いものをという事で、刀身を装飾したミスリルで挟み込む事にする。
刀身には大きめの素材を使用し、しっかりと魔力の方向を合わせて切り出していく。
厚めの素材だが、最も魔力の溜め込める部分を残して削り込んでいく。
この段階で一度魔力量を測定する。
魔力を満たしてリルフォンの測定器で確認すると、今現在で5,500ガルド程。
次に刀身の磨き込みと刃付けを行い、続けて柄の磨き込みもしたところでお昼となった。
ミリーはまだ眠っているので朱王とハクアで食事を摂り、午後にはまた作業を再開する。
このペースなら明日の昼には完成しそうだ。
午後からは刀身と柄部の接着をし、続いて装飾部を作る事になる。
装飾部を両面分同じように作り込み、平らにした裏面に接着の魔石粉を水に溶いた接着剤をしっかりと塗って接着。
位置もしっかりと合わせ込み、グラビティを使用して加圧。
反対側も同様に接着する。
そして石突側には台座付きの円環を取り付ける。
ここまで完成したところでこの日の作業を終えた。
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千尋達は幹部達と一緒に貴族街にあるクリムゾン訓練場へとやって来た。
訓練場もザウスやクイーストと変わらない大きな建物で、東区訓練場と書かれている事から他にもあるのだろうと思われる。
朱王城はゼス王国王宮から東南東方向にある為、最も近い東区の訓練場に案内されたようだ。
訓練場の東区を任されている区隊長のアルドに案内され、会議室へと通された。
朱王から指示があったらしく既にミスリル各種が揃えられている為、組み立てと魔石の組み込み、あとはイメージを織り交ぜて調整をすればモニターとして画像を映し出す事が可能だ。
東区は千尋とダンテに任せる事にして、蒼真はサフラと西区へ、リゼはデイジーと北区へ、アイリはガネットと南区で作業する事にし、完成したら騎士団訓練場に集合という事になった。
千尋はイアンを連れて、東区が終わり次第騎士団訓練場のモニター設置をする予定だ。
千尋は訓練場にいた朱王の部下達、クリムゾン東区メンバー数名に指示を出し、ミスリル板の設置と固定をしてもらう。
明日以降は東区の貴族街広場、市民街の中央広場、南東部の広場への設置も予定されている為、クリムゾンのメンバーにも覚えてもらう必要がある為だ。
また、今後管理や修繕なども行なっていく必要がある為、できるだけ多くのメンバーに覚えてもらいたいところだ。
そしてダンテとイアン、アルドには朱王の魔石によるチューニングの仕方を覚えてもらう。
千尋達は朱王から全て教え込まれている為問題なくできるが、魔力による接続や周波数の調整などは簡単ではない。
知識と魔力の微調整が必要で、朱王であれば脳内で全て処理できるが、教えられる側では何をしているのか全くわからない。
リルフォンを繋いで魔力を視覚化しながら調整方法を説明していく。
ただし、この魔力の微調整は魔力練度に直接関わってくるのだが。
東区のモニターのチューニングも終わり、映像の表示や音の確認を行う。
集まったクリムゾンメンバーは驚愕するのは当然の事。
問題なく動作する事を確認して、適当に選んだ映画を流して設置を完了とした。
もちろんコピーした映画の魔石も置いていく。
千尋はイアンを連れて聖騎士訓練場へと向かう事になるのだが、イアンは映画に釘付けだ。
とりあえず引っ叩いて連れ出した。
聖騎士訓練場へと降り立った千尋とイアン。
空からの訪問に聖騎士達全員が驚きと共に警戒の色を見せる。
「皆んな、すまない。驚かせてしまったようだな」
「イアンか! その翼は何なのだ!?」
「バルトロ聖騎士長様。これは飛行装備といってこの千尋に作ってもらった空を飛べる装備です。朱王様の客人ですので出来る限り配慮をお願いします。それよりも会議室にミスリルの機材は運んでありますか? これから設置したいのですが」
「あ、ああ…… 先日クリムゾンから運び込まれている。あれも何をするのかわからんが必要の無いと判断すれば撤去させてもらうぞ」
「必要無いとはとんでもないです! 誰もが度肝を抜かれますよ! それとこの後他の仲間もここに集まりますが、聖騎士の武器の強化をしてくれるそうです。全員一級品武器を持ち寄るようにとの事です」
「ふむ、武器の強化とはどれ程のものなのだ?」
「そうですね。全員が精霊魔導師になれますし、たぶん今のオレならここの聖騎士全員相手にしても勝てると思います」
自身たっぷりに言うイアンだが、実際に精霊魔導を発動して戦えば問題なく勝てるだろう。
そしてバルトロや聖騎士達もイアンがこのような冗談を言う男ではない事を知っている。
その言葉は充分に信じられるのだが、やはり見てみたいと思うのが人間だろう。
「少しその強化した実力を見せてくれぬか?」
「はい、では全員離れて見てください」
下級魔法陣を発動したイアンの横に下級精霊シルフが顕現する。
両手直剣を左に構え、魔力を練り上げた瑠璃色の風の剣を左逆袈裟に斬り上げると、視覚化された風の渦が爆風として空へ向かって突き上がる。
聖騎士長ですら発動できない程の風魔法の威力に、誰もが言葉を失った。
「これよりもさらに上の魔法があるんですけどね。強化してもらってから自分で試した方が楽しいと思います」
口を開いて驚く聖騎士達を見て、自分も同じ気持ちだったなと思い返すイアン。
訓練場の会議室に向かい、ミスリルの機材がある事を確認する。
バルトロと上位騎士数名もついて来たので手伝ってもらおう。
騎士達にはミスリル板の設置と固定を指示して、イアンは千尋から習いながら魔石の組み込みとチューニングをする。
リルフォンで視覚化しながらのチューニングであれば、イアンでも時間はかかるが魔石同士の同調も問題なくできた。
そして映像と音の確認をし、ここでも映画を流して今日の設置は終了とした。
バルトロや上位騎士達はここでも驚愕し、しばらく呆けたと思ったら映画に釘付けになっていた。
まぁイアンも同じく見入っていたが。
しばらくすると蒼真やリゼ、アイリも集まる。
クリムゾン幹部は全員設置したモニター前で映画を観ているはずだ。
「じゃあ通信を確認しようかー」
という事で幹部達にコールする。
観ていた映画を一旦中断する事になるが、この確認作業は必要なのだ。
映画を中断する事を告げ、通信の確認作業を行う。
イアンの視界から映像を送信し、全画面に千尋達が映し出される。
リルフォンで通話中の幹部達は二重音声のように聞こえるようだが、しっかりと通信ができているようだ。
確認作業を終えて通信を切る。
訓練場で待たされている残りの上位騎士達を会議室に集めて映画鑑賞してもらう。
朱王の魔剣を持って来ていないし聖騎士長であるバルトロもとりあえず放置だ。
一級品の武器を手に持ち、訓練場に戻ってきた聖騎士達の武器を強化しよう。
「よーし、じゃあ聖騎士の皆んなは契約したい精霊を教えてねー」
それぞれ属性ごとに別れてもらったが、ゼス王国の聖騎士達は思ったよりも均等だ。
火属性はハーベストという三十歳前半と思われる男性と、糸目が特徴的な二十台中頃の男性ケビン。
風属性はオーレリア。
オーレリアは二十代前半と思われる綺麗な女性だ。
イアンも風属性だ。
水属性を選んだのはブルータスとシンディ。
ブルータスはまだ若く、二十歳前半と思われる男性。
千尋と蒼真が「お前もか!」と言ったのは何故だろう。
シンディは二十代後半の女性らしいが見た目は若いく、歳下と言われても納得できそうだ。
氷属性はユリウスとデューイ。
ユリウスは三十歳前半くらいの男性で、千尋と蒼真が「ブルータスには気をつけろよカエサル!」と言っていたが当人は意味がわからない。
「カエサルって誰だ! 私はユリウスだ!」と言い返すが千尋も蒼真も首を傾げていた。
誰も使う事ができていなかった雷属性を選んだのはジョシュアとコーネリア。
二十歳前後と思われる男女だ。
聖騎士まで上り詰めながら、新しい魔法で強くなろうとするのは若い二人だからこそできる選択かもしれない。
地属性はオズワルドとライナス。
千尋の全部盛りをされるであろう二十代後半と思われる男性二人だ。
剣盾と槍盾の似たような二人だが、ライバル同士でこれまで頑張ってきたのだろうと思われる。
千尋は全部盛りをする地属性二人。
蒼真は風属性のオーレリアと火属性二人。
リゼは水属性二人と氷属性二人を担当する。
アイリは雷属性のジョシュアとコーネリア。
それぞれ訓練場の四方に別れて強化をする事になる。
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