第97話 超級魔獣に挑む

 これまで帰るタイミングを逃し続けた勇飛達。


 役所の職員が朱王の邸を訪れ、デンゼルの方で指名依頼があるとの呼び出しが掛かった。

 あまりに贅沢過ぎる生活で帰りたくはなかったのだが、渋々デンゼルへ帰る事を決意した勇飛達。

 飛行装備については今後完成したら連絡する事にし、デンゼルへと車で送って行った。




 帰り道の車の中。


「そろそろ超級魔獣を討伐に行かないか?」


「オレもやりたーい!」


「うん、良いけど超級魔獣はかなり強いよ?」


 というわけで明日超級魔獣討伐に行く事にし、デーモンの説明を簡単に受ける。

 後部座席のメンバーも話を聞く。


 超級魔獣デーモン。

 実はデーモンはデモンロードの眷属だ。

 デモンロードは複数の眷属を持ち、それら全てがデーモンとなる。

 デモンロードは無駄な魔力の消費を減らす為に眷属を作り、デーモン全てがS級魔獣を超える力と強力な再生能力を持つ。

 デモンロードはデーモンよりも強く、全てを吸収する事でデヴィル化する事も可能だ。

 デヴィル化とは魔力消費を気にせず、本来の超強力な個体へと戻った状態となる。

 デヴィル化したデモンロードも本来デーモンと呼ばれる個体なのだが、その天災とも言える程の強さからデヴィルと呼ばれる。


 朱王はかつてザウス王国付近に住まうデモンロードとデーモンを討伐している。

 その時の眷属の数は三体。

 誕生しておよそ四百年程のデモンロードだった。


 しかし今回のクイースト王国にいるデーモン。

 その存在が確認されたのは数百年前と噂されるが、およそ六百年前の文献にも記されている事からもっと古いデーモンの可能性がある。

 眷属のデーモンの数にもよるが、ザウス王国のものより遥かに強力な個体である事が予想される。

 デーモンの数はそのままデヴィル化した時の強さとなる。

 そして眷属であっても、デーモンはその力を増す。

 デモンロード、デーモン共にどれ程の強さを持つか想像がつかない。


 予定では全員にデーモンと戦ってもらうつもりだが、もしその強さが予想を超えた場合には早々に殲滅する必要がある。

 もし仮に千尋や蒼真が苦戦するレベルであれば全滅の可能性も出てくる。

 朱王も強敵を複数相手にした場合、他のメンバーを守りながらの戦闘では確実にやられる。

 その為勝てなくても自分の身は自分で守ってもいたい。


 厳しいようだが朱王ははっきりとその事を伝えた。


 やる気を見せるのは朱雀。

 どうやら朱王の精霊として戦うつもりは無さそうで困った精霊である。


 この日は特に予定もないので午前は明日の準備をして午後からはプールで遊んだ。

 準備といってもお菓子を買ってきただけだが。






 翌日、車に乗り込んで北へ向かって走り出す。


 途中何度も難易度10クラスの魔獣に襲われたが、今から超級魔獣を倒そうというパーティーの敵ではない。

 全て一撃のもとに叩き伏せていく。

 どう見ても上位魔獣といったものも複数倒した。




 三時間程走り続け、車内ではお菓子を貪りながら映画を観るといった緊張感のなさ。


 しかしその時は突然やってくる。

 前方から飛翔して向かってくる翼を広げた魔獣デーモン。


 相手は一体、車から降りて迎え討つ。

 強さを確かめる良い機会だ。


 蒼真が風を纏って走り出す。

 デーモンは人型の魔獣で、筋肉で膨れ上がった体に頭部から背中にかけて長い体毛が生えている。

 ワイバーンに似た大きな翼を生やし、身長はおよそ3メートル。

 巨大な魔獣相手に右袈裟に全力の風刃を飛ばす。

 直撃したがデーモンの体表は硬く、風刃でも斬る事は出来ない。

 飛んで来たデーモンの右の拳が蒼真に向かって振り抜かれ、蒼真はデーモンの懐に潜り込んでその拳を回避。

 懐から右薙ぎに再び風刃を放つが傷をつける事が出来ない。

 地面に着地したデーモンは蒼真に向き直る。




 車を降りて蒼真の戦闘を見守る一行。


「なんだかグレンデルに似てますね!」


「そうですね。グレンデルを大きくして翼を生やしたような見た目です」


「じゃあ今日戦うデーモンはグレンデルの進化したものかもしれないね」


「魔力幅が攻撃の瞬間に1万5千ガルド超えてるよ」


 デーモンとは魔獣が精霊を取り込んだ事で進化した状態とされている。

 通常、難易度10クラスの魔獣が長い年月をかけて成長し、S級魔獣まで到達するのに数百年かかる。

 しかし強い魔獣が何かのきっかけで精霊を体内に取り込んでしまった場合に、半精霊化した状態となる。

 この半精霊化した魔獣がデーモンだ。

 半精霊となった魔獣は竜族と同じように尋常ならざる力を手にし、その本能性質のままに餌を喰い漁る。

 多くの魔獣を喰らいながら長い年月をかけて成長し、ある一定の魔力まで達すると一体の眷属を作り始める。

 デモンロードとなった魔獣は再び成長する事で眷属を増やしていく。

 眷属として生まれたデーモンは眷属を作る事はない。

 それでも成長する事で、新たな眷属を作ったばかりのデモンロードを超える強さを持つ場合さえある。


 今ここに来たデーモンはその中でも下位の個体だろう。

 千尋達のパーティーの中で一番強いのは蒼真だと朱王は考えるが、その個体に蒼真がどれくらいの力で勝てるのかが重要となるだろう。




 デーモンの左右の攻撃が連続して蒼真目掛けて振り下ろされ、それを躱し受け流しながら攻撃手段を考える。

 やはり風刃も刃に乗せて斬り付けた方が威力は高い。

 リーチが短いがなんとかなるだろうと、風刃を圧縮して兼元を覆う。

 拳を受け流して、伸びきった腕に斬り付けると体表に浅く傷が付く。

 これなら倒す事も可能だろう。

 次々と繰り出される攻撃に蒼真も反撃を繰り出す。

 蒼真の反撃の速さはミリーもよく知るところ。

 デーモンの体に少しずつ浅い傷が付いていく。

 攻撃が当たらない事で苛立ちだしたデーモンが大振りに右の拳を打ち付ける。

 完全なる隙。

 振りかぶった瞬間に魔力を高めた蒼真は、攻撃を回避するとともにその腕を斬り落とす。

 直後に砲弾のような風のブレス。

 直撃するとともに爆発するブレスは、蒼真の風の鎧を破壊する程の威力。

 デーモンの大振りの攻撃は自分の腕を犠牲に蒼真の隙を作るための布石。

 超速再生を持つデーモンはメリメリと新たな腕を生やす。


 風の鎧を破壊され、衝撃で吹っ飛ばされた蒼真。

 立ち上がって新たに風の鎧を纏う。

 風の鎧がなければ一撃で致命傷となっただろう。

 上級精霊ジンを使役する蒼真でさえ苦戦する眷属のデーモン。

 このままでは勝ち目がないので下級魔方陣ウィンドを発動。

 一回り大きくなったランと、風の鎧が強化される。


 グッと屈伸し、一瞬で距離を詰めた蒼真。

 飛び上がると同時に左逆袈裟に斬りあげる。

 その速度に反応が遅れたデーモンは体を捻り、急所を回避するが胸から肩にかけて深い傷を負う。

 空中で体を翻した蒼真は重力操作グラビティで落下速度を上げて着地。

 すぐさまデーモンへと距離を詰める。

 振り向くデーモンの脚を右薙ぎに刈り、振り返りざまでバランスを崩したデーモンの左腕を逆風に斬りあげる。

 左脚と左腕を斬り落とされたデーモンは翼を使って飛び上がる。

 蒼真の追撃は続く。

 飛び上がったデーモンに続いて蒼真も跳躍し、デーモンの右胸を斬り裂きながら頭上へと抜け、そのまま唐竹に兼元を振り下ろす。

 咄嗟にブレスを吐き出すデーモンだが、蒼真の風刃が砲弾の如きブレスを両断。

 刀を振り抜いて隙ができた蒼真にデーモンの右の拳が襲い掛かる。

 強化された風の鎧はデーモンの拳から蒼真をフワリと流し、風の流れで蒼真がデーモンに背を向ける。

 完全に隙だらけの蒼真にデーモンの右の横薙ぎの蹴りが向かう。

 重力操作と風魔法を利用して一気に地面へと降りる蒼真。

 着地した蒼真はデーモンを見上げる。

 やはり空中では体の方向転換ができない。


「千尋! オレと代わろう!」


 突然蒼真が千尋と交代しようと声を掛ける。


「ん? どうした?」


「今は一体だけだし全員強さを確かめるのに丁度いい! 本番は飛行装備が完成してからにしないか?」


 どうやら飛行装備が欲しいようだ。


「オーケー! じゃあオレやるよ!」


 交代でデーモンの相手をする事になった。

 予定とは違うが危ない橋を渡るより確実に勝てる方がいいだろう。


「朱王さん、オレが言い出したのにスマン。今日はこの一体だけでもいいか?」


「うん、強さを確かめれたしいいんじゃないかな? 私はデヴィル化したら飛行装備で戦う予定だったし」


「空中戦では勝ち目がないからな。こっちは飛び上がったら隙だらけだ」


 デーモン程の実力の魔獣相手に地上戦ならなんとかなるが、空中戦になれば確実に負ける。

 一方的に嬲られる可能性さえある。

 飛行装備での初戦闘にデーモンというのも考えものではあるが、改良した飛行装備であれば意のままに操る事が可能だ。

 デーモン相手でもなんとかなるだろう。




 このままでは逃げられるかもしれないと、千尋はリクとシンをデーモンの遥か頭上から落とす。

 下級魔方陣グランドを発動し、重力操作を乗せた魔剣の一撃は空中浮揚するデーモンを叩き落とした。

 千尋の複数の魔力球で強化した一撃だというのに斬る事は出来ないようだ。

 蒼真の風刃が通用しない程の魔獣なのでわからなくはないが。

 左の手脚を再生したデーモン。

 千尋は強化と物理操作、重力操作を駆使して攻撃するが、デーモンは怯む事なく向かってくる。

 四刀流で一撃一撃が尋常ではない重さとなるはずだが、デーモンの攻撃を受けるのがやっと。

 千尋からの攻撃ではダメージがほぼないような状態だ。

 ある程度のダメージは蓄積されるだろうが、超速再生ですぐに回復してしまう。

 だが千尋にはまだ使える攻撃がある。

 リクとシンが持つ魔剣とエンヴィ、インヴィを持ち替え、千尋が魔剣を持つ。

 エクスカリバー、カラドボルグに付与した能力は激震。

 実は精霊であるシンやリクが持った場合には発動しない能力だ。

 シンとリクで防御に徹し、千尋の右薙ぎの一撃がデーモンの腹部へ激震を与える。

 強化された表皮に爆発が起こったかのような衝撃が走る。

 続く激震での連撃にデーモンも攻撃の手を止めて防御に徹する。

 さすがは激震。

 恐ろしい威力だなと自分でも感心しながらリゼと交代する。




 リゼ、アイリ、朱雀と順番に交代していき、全力で戦えばなんとか勝てそうだと判断。

 上級魔方陣エクスプロージョンを発動したミリーが頭を粉砕してとどめを刺した。


 デーモンの死体は数秒で消滅する。

 どうやら死ぬとデモンロードへとその力が回収されるようだ。


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