第74話 ある意味観光

 リゼとアイリが向かうはカルハ南東にある洞窟だ。

 千尋達が向かった鉱山も山々で繋がっている。

 そしてこの洞窟の地底湖はかつての観光スポットとしても有名だったらしく、だいぶ荒れ果てているが道もある。


 魔獣モンスターが襲って来てもいいようにリゼがルシファーを振るいながら歩いていく。

 ついでに邪魔な草木も同時に切り裂く。


 リゼとアイリの組み合わせも初めてだが、大人ぶった態度のリゼと大人のようなアイリ。

 アイリから見ればリゼは可愛い妹のような感じ。

 リゼはいつものように千尋トークと恋愛話。

 今日はアイリの恋愛感情について追求したいリゼだった。

 アイリは巧みな話術でリゼを翻弄し、現在の恋愛については語る事はなかった。


 しかし簡単には引かないリゼ。

 リゼから見てもとんでもない美人のアイリ、モテないわけがないのだ。

 ゼスで恋人はいなかったのか、何度告白されたのかなどの質問には答えるアイリ。

 恋人はこれまでいなかったようだが、告白された回数は数え切れない程らしい。

 ほぼ毎日のようにアイリは告白されていたそうだ。

 組織の中にもアイリに好意を抱く者も多く、ゼスの街人や豪商、貴族からも求愛やら求婚があったそうだ。

 その全てを丁重にお断りしたアイリ。

 自分は朱王様一筋ですからと断っていたそうだが、現在はどうなのだろう。


 朱王にはミリーという恋人ができて、そのミリーともアイリは仲が良い。

 そして朱王の相手にはミリー以外あり得ないとまで言う。

 しかし朱王一筋と言っていたアイリが簡単にそれを受け入れられるのか?

 今のアイリの実力であれば朱王の相手としても充分な強さを持つだろう。

 ミリーとも対等の強さを持つと予想する。

 美人で組織内でも幹部というポジションにつけるだけの能力。

 容姿端麗、頭脳明晰に加えてに強さまで身につけたアイリ。

 スペックを考えればミリー以上。

 略奪だってできるだろう。

 リゼも朱王とミリーの仲を引き裂くような事はしたくはないが、アイリだって朱王に対する強い想いがあったはずだ。

 自分だったらそんな簡単には割り切れないと思う。

 リゼは早速思った事を聞いてみた。


「私は皆さんに会えた事で確かに能力が向上しました。朱王様の横に立つだけの強さも得られたと思います。それでも朱王様の隣にはミリーさんがお似合いだと思います。私ではあれ程朱王様を笑顔にして差し上げることはできませんから」


 アイリは悲観しすぎではないだろうか。


「朱王さんはアイリとも楽しそうに話しをしていると思うわよ?」


「そ、そうですか? しかしですねぇ、朱王様がミリーさんと仲良くしているのを見ていても悪い気がしないんです。たぶん私の心の中ではすでに納得しているんだと思います」


 リゼの言葉を聞いて頬を赤らめて嬉しそうにしていたが、朱王とミリーの仲を笑顔で話すアイリは本心で言っているのだろう。

 リゼもこれ以上は言うまいと納得する事にした。

 それと同時にアイリの相手には蒼真が良いなと思うリゼ。


 リゼから見た蒼真はこれ以上ない程にいい男。

 カッコいいだけでなく頭も良いしとんでもなく強い。

 無愛想にも見えるが実際はすごく優しい。

 そして時々可愛気もある。

(あれ? 評価が高すぎないかしら?)と自分でも思ってしまうほどにリゼの中での蒼真の評価は高い。


 リゼにとって千尋はどうか。

 とにかく可愛い。

 よくわからない強さを持つが、欠点は多い気がする。

 何を考えているかわからないところもあるし、優しいといえば優しいがただ単に甘い人間とも言える。

(あれ? 蒼真の方が評価が高いわね…… でも千尋はおもしろいしすごく可愛いわ)との評価。


 そしてアイリ。

 美人で強くて頭も良い。

 そして優しくて笑うととても可愛い。

 リゼの話しをいつまでも聞いてくれる大好きなお姉さんだ。

 アイリには是非とも幸せになってもらいたいと思うリゼ。

 蒼真ならアイリの相手として文句なし、むしろ蒼真以外は認めたくないとさえ思っている。

 でも恋愛は本人達次第。

 リゼが口を挟める事ではない…… 口を挟むけど。




 リゼは恋愛話が楽しくて、あっという間に目的地に着いてしまった。

「もう少しここでお話ししましょう!」と言いたいところだが、何をしに来たのかわからなくなる為洞窟内へ入る事にした。


 洞窟内はほんのりと明るく、青白く輝く魔石が辺りに散りばめられている。

 観光スポットだった頃に埋め込まれた魔石だろう。未だに光を放つのはどういうわけか。


 地底湖を目指して奥へと進む。

 途中緑色のスライムがいたので倒していく。

 明るさは充分あるので進んでいくと、大きく拓けた場所へと到着する。


 幻想的な風景がそこにはあった。

 天井が高く、200メートル以上はあるだろう拓けた場所に、青白く光り輝く魔石と広大な湖。

 高い天井にはぽっかりと穴が空いており、そこから差し込む太陽光が透き通った湖を照らす。


 美しい景色に言葉を忘れて魅入る二人。


 しばらく景色を楽しみ、ブルースライムの討伐を思い出す。

 場所は地底湖となっていたがブルースライムの姿が見えない。

 少し嫌な予感がしつつも湖へと近づいていく。




 嫌な予感は的中した。

 湖の全面にブルースライムが広がっている。

 さてどうしよう。


「ブルースライムは水の浄化をするとされています。ですので水自体は綺麗だと思いますが、私達が入った瞬間に食べられてしまいますね」


「じゃあアイリの魔法で倒していって私が氷で足場を作ろうかしら」


 というわけでアイリが魔力を練る。

 魔力に反応したブルースライムが湖から大きく立ち昇る。

 全長およそ10メートルのブルースライム。

 さすがに大き過ぎる。普通の冒険者では倒せないだろう。


「イザナギ、イザナミ」


 顕現する雷狼。

 アイリの魔力を受け取り、クラウが振るわれると同時にイザナギがブルースライムに飛び掛かる。

 直後迸る電流とともにブルースライムが崩れ去る。

 核が電流によって破壊されたようだ。

 蒼真から聞いていた通り、水属性には雷属性の魔法は効果抜群のようだ。


 スライムが居なくなった部分を凍らせるリゼ。

 リゼが全て凍らせて倒す事もできるが、湖とブルースライムの区別がつかなくなる為やめておく。

 先程と同じ事を繰り返して次々とブルースライムを討伐していく。

 一つ一つの魔石が大きく、ブルースライムとしても最上位クラスの大きさだろう。

 十二体討伐したところで最奥まで辿り着いた。


 他にもいるかもしれないので、念のためリゼがルシファーを水に入れる。


「シズク。ブルースライムがまだいるか確認してきてくれる?」


 ピンク色のシズクが水の中に飛び込んで元気に泳ぎ出した。

 氷の上で待つのも寒いので陸地へと戻る二人。

 氷を解除してシズクを待つ。


 しかしシズクはなかなか戻ってこない。

 時々すぐ近くをピンク色が通り過ぎるので泳ぎ回っているのは間違いない。


 待つ事およそ二十分。

 ようやく戻ってきたシズクは嬉しそうにルシファーに戻った。


「…… ね、ねぇシズク。ブルースライムはいたの? いなかったの?」


 ルシファーから顔を出したシズクが不思議そうにリゼを見つめて首を傾げる。


「ブルースライムはいたの?」


 手槌を打つシズクは再び湖に飛び込んだ。


「ふ…… ふふふ…… ちょっと千尋みたいで可愛いわね」


 シズクのおとぼけ感が千尋と被ったのだろう、リゼはなんだか嬉しそうだ。

 アイリから見たリゼは…… 少し不気味だった。


 五分程で戻ってきたシズクは、手をバツにしてブルースライムがいなかった事を伝えてルシファーに戻った。


 とりあえずブルースライム討伐は完了。


 この美しい景色を見ながら買ってきた弁当を食べる事にする。

 アイリは魔法の洗剤を取り出して手を洗う。

 リゼもそれに習って手を洗うが、少し笑ってしまう。

 アイリもだいぶ蒼真に毒されてるなと。

 綺麗に手を洗う事は良い事だとは思うが、魔法の洗剤を小瓶に入れて持ち歩くのはいつも蒼真だ。

 アイリも同じように持ち歩いているとは思いもしなかった。




 綺麗な景色を見ながらの弁当はとても美味しかった。

 そしてアイリからお菓子とジュースを渡されるリゼ。

 お菓子を食べながらジュースを飲む。

 ジュースは昨日購入していたフルーツを絞ったもので、甘酸っぱくてとても美味しい。


 お菓子を食べた後も景色をしばらく楽しんだ。

 今度はみんなで来ようと思いながら街へ戻るリゼとアイリ。

 次に来る時は観光スポットとしてこの地底湖は人が賑わっているだろう。

 最後にもう一度振り返って景色を目に焼き付ける。


「帰ったら朱王さんの魔石に記憶を残しましょう!」


「そうですね! こんな最高の景色なら何度でも見たいですから!」


 二人で「いい思い出になったね」と街へ帰った。






 役所に着くと千尋と蒼真が待っていた。

 どちらのクエストも距離にそれ程違いがないので、そろそろ来るだろうと待っていたそうだ。


 今回の報酬は6,760,000リラ。

 結構な金額となったが、役所の方でもまた地底湖を観光スポットにできると盛り上がっていた。

 ブルースライム討伐はお早めにと伝えて役所を後にする。




 その後は昨日話していたように鞄屋に向かう。

 四人で蒼真とアイリの鞄選び。

 各々一つずつ選び、自分の選んだ鞄以外に一票ずつ投票して多数決で決める事にする。

 そして一票も獲得できなかった人はこの後喫茶店で全員分を奢る事となる。

 お金は充分あるので支払いくらい痛くも痒くも無いが、単純にゲーム感覚で鞄選びをする。




 しばらくして鞄を持って集まった四人。


 まずは蒼真用。


 千尋が選んだのはやはりスタッズのついた黒いロック調のバッグ。

 昨日自分用に選んだ物よりも一回り大きいが、単に自分が欲しいだけかもしれない。


 蒼真が選んだのは焦げ茶色のヌメ革バッグで、使い込む程味が出そうなバッグだ。

 蒼真の紺色の装備に合わせても良さそうだ。


 リゼが選んだのは茶色に着色されたサンドリザードマンのレザーバッグ。サンドリザードマンの外皮が使用されており、魔力を流すと強度が上がる高級品。


 アイリが選んだのはワーウルフの毛皮を使用したバッグ。シルバーと黒の毛皮がなかなかにカッコいい。


 投票の結果、千尋0、蒼真1、リゼ3、アイリ0となった。




 次にアイリ用。


 千尋が選んだのは手提げのバッグ。

 なんというか蒼真から見るとブランドバッグにこんなのがありそうだ。

 確かにお洒落だし、アイリが持ってたら似合いそう。


 蒼真が選んだのは黒地に紫色のカバーが付いた綺麗なバッグ。少し小さめだがアイリの装備には似合いそうだ。


 リゼが選んだのはシルバーに着色された花柄の型押しされたバッグだ。

 所々に紫色が入り、アイリの装備に似合いそう。


 アイリが選んだのは先程蒼真用に出していたワーウルフの毛皮のバッグ。

 単純に自分が欲しかったようだ。


 投票の結果、千尋0、蒼真2、リゼ1、アイリ1となった。


 サンドリザードマンのレザーバッグと紫色のカバーのバッグを購入し、装備して店を出る。

 二人共自分のバッグに満足そうだ。




 その後は喫茶店へ向かい、千尋の奢りでコーヒーとパンケーキを食べた。


 四人で街を見て回り、途中でミリー達とも合流。


 この日は夜も街に出て酒場で食事をした。

 朱雀以外は酒を飲み、酒場ならではの料理を味わいながらカルハ最後の夜を楽しんだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る