第73話 心霊スポットと観光

 翌日も朝から役所を訪れた一行。

 今日も高難易度クエストを受注するようだ。


 残っている高難易度クエストは難易度9が二つ。


 クエスト内容:スペクター討伐

 場所:カルハ東部鉱山

 報酬:一体につき650,000リラ

 注意事項:物理攻撃が効かない

 報告手段:魔石を回収

 難易度:9


 スペクターはゴーストの上位にあたる魔獣モンスターとの事だが、アルテリアの街では見た事がない。

 受付の女性から詳細を聞いたところ、ゴースト系の魔獣は魔石に還らなかった複数の死体がゴーストを産み出すとの事。

 この世界では魔石に還されない死体は十日程で大気中の魔力に還るが、側に他の死体があるとそこに魔力が留まる。

 その死体も魔力に還り、死体の魔力が複数重なった場合にゴーストとなるそうだ。

 今回のクエストは鉱山となるが、何処からともなく鉱山内に入り込んだゴーストが働いていた鉱夫達を殺害。その死体の山がまた新たなゴーストを生み、鉱山内に迷い込んだ魔獣をも取り込んで数を増やし、現在に至るという。




 クエスト内容:ブルースライム討伐

 場所:カルハ南東部洞窟内地底湖

 報酬:一体につき500,000リラ

 注意事項:粘液状。物理攻撃が効かない

 報告手段:魔石を回収

 難易度:9


 ブルースライムは以前戦ったスライムの上位魔獣だ。

 見た目はスライムの色が違うだけだが、色ごとに属性を持つスライムとなる。

 ブルースライムは水属性のスライムで、水の中に生息している為戦いにくい。

 水の中では発見も難しく水に飛び込んだ途端に包み込まれ、消化吸収されながら死亡する場合もあるという。

 ブルースライムは水の中に潜んで、他の魔獣が水を飲みに来たところで襲い掛かるそうだ。

 そして本来であればブルースライムは難易度8の魔獣となるが、地底湖にいるブルースライムの数や大きさが不明な為難易度9になるとの事。




 話し合った結果、千尋と蒼真はスペクター討伐、リゼとアイリがブルースライム討伐に向かう事にした。

 以前朱王が作ったホラー動画を見たリゼとアイリ、ミリーは、恐怖のあまりその日は三人で一つのベッドに寝た。

 ホラーが苦手な女性陣は心霊スポットには行きたくないそうだ。


 朱王とミリー、朱雀はクエストを受けずにこの日は観光をするとの事。






 千尋と蒼真二人でのクエストは…… よく考えたら初めてかもしれない。

 弁当を買ってカルハ東部へと向かう。


 鉱山は現在閉鎖しれているが、以前は運搬などの必要があった為今でも道ができている。


 千尋と蒼真は地球での思い出話をしながら洞窟へと向かっていく。

 洞窟まで向かう間に多種多用な魔獣と遭遇し、片っ端から葬り去る。

 千尋は得意のサイレントキラー。

 蒼真は訓練も兼ねているのか型にはまった素振りのような攻撃で倒していく。相変わらず真面目である。




 鉱山に辿り着いたが内部は明かるく、光の魔石も必要ない。

 役所の受付で聞いていたので魔石も用意していないが。


 鉱山内は広くてひんやりと涼しい。

 少し心配していたが、腐臭などもなく蒼真も気分良さそうだ。

 鉱山内の地図を広げて奥へと歩き出す。

 まずは右側から順に進み、すぐにゴーストと遭遇した。


 たぶんゴースト。

 幽霊のようだが人か魔獣のゴーストなのか判別はつかない。

 ゆらゆらと揺れる霞のような魔獣だ。


【物理攻撃が効かない】


 試しに蒼真が一息で距離を詰めて斬り裂く。

 斬られた体はすぐさま元に戻る事から、物理攻撃は確かに通用しないようだ。


 ゴーストからの火属性魔法が放たれ、蒼真は横に飛び退いて回避する。


 今度は風魔法を刀に纏わせてゴーストに斬り込む。

 グォォォッと悲鳴をあげるゴーストだが、口がないのに悲鳴をあげるのを不思議に思う蒼真。

 ダメージがあっただろうと、さらに斬り込んでいくがなかなか倒せない。

 風刃を放ってようやく倒す事ができた。


 ゴーストは魔力の塊のような魔獣の為、高威力の魔法でないと倒せないようだ。


 ゴーストの死骸…… 肉体すらないのに死骸? に地属性魔法を流し込むと魔石に還った。

 この辺は他の魔獣と同じらしい。

 魔石を回収してさらに奥へと進む。




 またすぐに他のゴーストが現れた。

 今度は千尋が炸裂弾を放つ。

 小規模な爆発とともにゴーストは崩れ落ちた。

 千尋は魔力球は使わずに300ガルド程の炸裂弾を放ってみたが、威力は充分だったらしくあっさりと倒す事ができた。




 さらに奥へと進むと、複数のゴーストが集まってくる。

 千尋と蒼真は魔力量を調整して一撃の下に葬っていく。

 右側に進んで一番奥まで辿り着いたがスペクターに遭遇する事はなかった。


 一旦引き返して別のルートを進む。

 どの坑道を通ってもゴーストがいるようだが、はっきり言ってゴーストでは敵にならない。

 いろいろと属性魔法を試しているが、地属性以外は倒す事が可能なようだ。


 しばらく坑道を彷徨っていると、ついにスペクターと遭遇した。

 半透明だが姿形がはっきりとしたゴーストだ。

 人のような形をしているが、顔はぶくぶくに膨れ上がっていて鼻も埋もれており、眼球がなく、口を開いて歯を剥き出しにしている。

 ボロ切れを羽織って宙に浮いていて足は見えない。


「結構醜いね」


「見た目はあれだが臭くないから許せる」


 刀を抜いてスペクターと向き合う蒼真。

 魔力を練って様子を見る。


 蒼真の魔力に反応したのかスペクターも魔力を練り、両手を広げて直径1メートルほどもある火球を左右に二つ作り出す。

 そして右手を蒼真に向けて火球を放つ。

 前に踏み出すとともに火球を逆袈裟に斬り裂く蒼真。

 刀を振り上げたところにスペクターの左手の火球が放たれ、蒼真は唐竹に刀を振り下ろす。

 他の魔獣に比べて高い戦闘能力を持つスペクターだが、蒼真の速度であればその攻撃を捌くことも容易い。


 そのままスペクターに肉薄する蒼真は右からの横薙ぎに風刃を放つ。

 風刃が直撃しようというところでスペクターが消えた。

 そして蒼真の後方に現れて再び両手から火球を作り出す。


「瞬間移動か!?」


「すごいね! 魔法でできるのかな!?」


 スペクターから火球が放たれ、両断する蒼真の表情は嬉しそうだ。


 千尋は顎に手を当ててスペクターを見ながら瞬間移動の魔法を考えている。


 駆け込んだ蒼真がまた横薙ぎに風刃を放つと、スペクターは瞬間移動して躱す。

 すぐに振り返った蒼真は、火球を作り出す前にスペクターに詰め寄って逆袈裟に斬り裂く。

 胴を両断されたスペクターは絶叫とともに倒れ伏した。

 スペクターもゴーストも普段は浮いているが、倒すと地面に落ちるのは何故だろう。


「千尋。瞬間移動の方法はわかったか?」


「うーん…… 火球を放った方向に移動したくらいしかわからなかったよ」


「ふむ。もしかしたら火球に仕掛けがあったのかもしれないな。今後オレ達も練習してみよう」


 坑道を再び歩き出す。

 あと少しで全部回れる。




 鉱山の入り口まで戻って来た千尋と蒼真。

 昼を過ぎているので手を洗って弁当を食べた。


 今後鉱山の採掘が再開されるだろうと予想し、周辺の魔獣も掃討しながら街へと帰る。




 役所でクエスト達成の報告。

 報酬4,250,000リラを受け取った。

 ゴーストは難易度7の魔獣で、一体につき15万リラ。十六体討伐した事で結構な金額となった。


 役所の所長も交えて報告と今後の話しをした。

 鉱山の採掘を再開するにあたり、周辺の魔獣を定期的に討伐する事、採掘中は入り口に見張りを配する事にする。

 また、緊急用に抜け道も作ってもらう事にした。






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 ミリーと朱王は朱雀を連れて観光だ。

 朝食を食べたのにもかかわらず買い食いをするミリーと朱雀。

 肉の串焼きや甘く味付けされた揚げパン。果実を絞った100パーセントのジュース。

「「美味しいーーー!」」と幸せそうな一人と一精霊。

 朱王は冷たい紅茶に果実を絞って飲んでいる。




 その後はお土産を昨日買い漁ったにもかかわらずまた見て回る。


 途中見かけた武器屋や防具屋も見て回り、鞄屋を発見したところで新しい魔石袋を買う事にした。

 ミリーと朱王で選んだのは白い毛皮のバッグだ。

 毛足の長い毛皮で、フサフサとしていて手触りがすごくいい。

 高級なバックらしく、ショーケース内に入っていて、お値段はなんと250万リラ。

 まぁそれ程高くは感じないかもしれないが一般的な人々からすれば高級品だ。

 装備よりもはるかに高いし。

 朱王がイエティの毛皮と書いてあるのを見て寒い地方の魔獣だと説明する。


 ミリーだけが買うつもりだったが朱王の分も購入した。

 ミリーがお揃いじゃないと嫌だとわがままを言った為だが、似合わなくもないのでまぁいいだろう。

 朱王の装備の上着には首周りと手首にファーが付いている。

 今は街中なので着ていないが。


「お菓子を入れる袋が欲しいのぉ」


 朱雀にも購入したいが強化のできない朱雀ではバッグも袋も本人の魔力で燃えてしまう。


「ぬぅ…… では朱王。袋を出してくれ」


 なかなか無茶振りをする朱雀。

 朱王は目を閉じてイメージを膨らませる。

 朱雀の腰元で一瞬炎があがると、そこにはバッグが装備されていた。


 実は朱雀が持つジェイドも強化ができない。

 また、固定する為の固定プレートも溶けてしまう為装備する事ができない。

 それを可能にしたのは朱王のイメージ力。

 まずはジェイドを朱雀専用にする為、イメージで朱雀の魔力とジェイドを結合させた。

 ジェイドは朱雀の魔力に溶け込み、イメージの中の剣となった。

 次にジェイドを固定する為のプレートをイメージ。

 背中に背負う形で装備が可能となった。

 そしてイメージの中の剣となった事で、朱雀の意思でジェイドの出し入れが可能となり、普段はジェイドを装備していない。

 ジェイドは朱雀の魔力と結合した事により、魔法剣のようなものになったのだ。

 地属性強化は必要なく、魔法の強度がジェイドを強化する。


 そして今回作ったバッグは内部を温度変化しないようにイメージした。

 普通に作った場合、朱雀の魔力で全て溶けるか焼けるかしてしまう為、お菓子を入れても悲しい結果になってしまう。

 温度変化をなくせばお菓子を守れるだろう。


 朱雀は大喜びしながらお菓子をパンパンになるまで詰め込んでいた。


 そんな朱王と朱雀を見てミリーは思う。

 なんでもありだなと。


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