第72話 コカトリス討伐

 コカトリス討伐に向かうミリーと朱王、そして朱雀が北東部へと向かう。


「ミリーも朱王も手を出してはならんぞー! 我が戦ってみたいからのぉ」


「朱雀が危なかったら助太刀しますよ!」


「朱雀は毒とか大丈夫なのかな?」


「我は毒など食らわん! 全て浄化できるのじゃ」


 確かに毒性の魔法は熱による浄化は可能だ。

 朱雀は炎の精霊フェニックス。問題はないだろう。




 北東部にも農村があるらしく、野菜を積んだ荷車が通れる道ができている。

 しかしコカトリスが現れてからは回り道をしてカルハの街まで来ているそうだ。

 さらに千尋達が討伐に向かったハーピーのせいで、安全に行き来する事はここ最近ではできなかったという。


 朱雀が嬉しそうに先頭を歩き、朱王とミリーは少し様子を見ようと後ろを歩く。


 ガサガサと歩み寄るのはゴブリンの群れ。


「おお! 魔獣モンスターが来たな! 楽しみじゃのぉ!」


 嬉しそうにゴブリンを待つ朱雀。

 そして朱雀の横を通り過ぎて朱王とミリーに襲いかかるゴブリン。


「なんじゃ!? 我の相手をせよ!!」


 追い掛けてゴブリンを一撃で斬り伏せる朱雀。

 他にも襲い掛かるゴブリンを次々と斬っていく。

 ミリーや朱王に倒される前に自分が倒そうと必死だ。

 十体のゴブリンはすぐに倒され、死体が転がっている。


「ミリー。私や朱雀の魔力では魔石に還せないからよろしくね」


「そうなんですか!? でも私は魔石を集める魔法は使えませんよ?」


「うん。魔石を集めるのは私がやるから問題ないよ」


 朱王の魔力は魔族と同質の魔力。

 地属性魔法は人間と同様に使えるが、魔石に還す事は出来ないのが魔族の魔力。

 朱雀は炎の精霊である為、地属性魔法は使えない。


 ミリーがゴブリンを魔石に還し、朱王が魔石を集めて先へ進む。

 何度もゴブリンの群れに遭遇するが、その度に朱雀が大奮闘。炎を使わず剣技のみで切り倒していく。




 しばらく行くと今度は一角の馬、ユニコーンに遭遇する。

 小さなうちは角の生えた只の白い馬程度のそれ程危険性のない魔獣だが、大きくなると難易度9もの強力な魔獣となる。


 目の前にいるこのユニコーンはまだ白い個体だ。

 危険性も低くその肉は食用にもなる。

 朱雀が攻撃しようとしていたが、あえて逃す事にした。

 そのうち誰かが食用として捕獲するだろう。




 またしばらく進んで行くと魔獣の叫び声が聞こえてくる。

 もしかすると人間と戦闘をしているのかもしれない。走って声や音のする方に向かう。


 コカトリスがいた。

 複数のゴブリンが横たわり、悶絶しながら叫んでいる。

 コカトリスの毒を食らったのだろうと予想する。

 全長4メートルはあろうという巨大な鳥型の魔獣。

 嘴を持った翼のある爬虫類。背中には羽毛が生えており、なんとも半端な生物に見える。


 そしてその背の高さから、ミリー達を発見するとすぐにブレスを吐いてきた。

 朱雀はジェイドを振るい、紫炎を放ってブレスを切り裂く。

 ブレスが切り裂かれた事に驚くコカトリス。

 駆け寄る朱雀に嘴で噛み付こうとするが、左に跳んで回避。

 ガチン! という嘴の閉じる音がした直後、顔目掛けてジェイドを振り下ろす朱雀。

 首を振り上げて嘴をジェイドに打ち付けるコカトリス。

 朱雀は紫炎を放つが、コカトリスの質量に押されて弾き飛ばされる。


「なかなかやるのぉ。速いし大きいし強い!」


 まだ人型での戦いに慣れない朱雀。

 本来の姿であれば炎で押し切る事で、塵も残さない程に焼き付くせるだろう。

 しかし今は人型で剣技を使って戦いたい。

 朱雀はコカトリスとの戦いを楽しむ。


 再び放たれる毒のブレス。

 上段から振り下ろした紫炎の刃で切り裂き、また距離を詰める。

 コカトリスの足元から胸に向かって斬り上げる朱雀。

 その動きを見ていたコカトリスも、右脚を上げて爪でジェイドと打ち合う。

 交錯する瞬間に火力を上げる朱雀。

 コカトリスの爪に切り傷とともに炎が燃え移る。

 悲鳴をあげて飛び退くコカトリスは、ブレスを放って脚の炎を消す。


 追い討ちを掛けようと駆け出す朱雀に、嘴での攻撃をするコカトリス。

 ジェイドで正面から受けると同時に横から尻尾の一振り。

 防御が間に合わず弾き飛ばされる朱雀は10メートル以上も弾き飛ばされた。




「あら。そろそろヤバいですかね?」


「大丈夫だよ。朱雀は全然本気じゃないみたいだし。出力を微調整してるんじゃないかな?」


 観戦しているミリーと朱王。

 朱雀はまだ自分の魔法の威力がわかっていない為、下限側から調整しているのだろうと判断する朱王。

 上限側からの調整となれば一瞬で決まる。




 朱雀は魔力を練り、ジェイドに紫炎を纏う。

 正面から向かって走り出し、コカトリスの嘴とジェイドがぶつかり合う。

 同時に爆破。ミリーの爆裂魔法を模した一撃だ。

 コカトリスの嘴が割れ、血を噴き出すとともに悲鳴をあげる。


「ふむ。ミリーの爆裂魔法は強いのぉ。しかし我の魔力には向かぬ。やはり炎の刃が良いかのぉ」


 ブツブツと独り言を言いながら魔力を練る朱雀。

 コカトリスがこちらに向かうまで少し待つ。


 しばらく悲鳴をあげた後は怒りの咆哮をあげてブレスを吐き出す。

 朱雀は再び上段に構えてジェイドを振り下ろす。

 朱雀の放つ炎の刃。

 それは刃と呼べるものではない。

 およそ5メートルの炎の柱がコカトリスを覆う。


 ジュワッと焼かれたコカトリスの体は、表面が真っ黒に炭化していた。

 炎の柱に入りきらなかった尻尾のみがぼとりと地面に転がる。




 ミリーが地属性魔法を拡散すると魔石に還る。

 炭になる程焼かれても魔石には還るようだ。


「朱雀。初戦闘はどうだった?」


「少し戦い辛かったのぉ。この体では動きがどうしても遅いのじゃ。もう少し慣れが必要かもしれぬ」


「また機会があれば戦うといいよ。まぁ討伐できたしそろそろ帰ろうか」


「そうですね。お腹空きましたし帰りましょう!」


「む! ご飯を食べるのか!?」


 クエストも達成したので街に帰る事にした。






 役所で報告して報酬を受け取る。

 報酬が110万リラ。

 難易度9のクエストの割にはあまり稼げなかった。

 まぁ魔獣が一体だけなので仕方ないのだが。






 昼食はミリーの好きな肉系のお店。

 この店ではミンチの魔獣肉を調理しており、普通の焼肉とは違った美味しさがある。

 その名もカルハンバーグ。

 名前から考えても地球人が名付けたのだろうと考えれる。

 メインはカトブレパスの肉だが、他にも種類があって選べるようだ。

 カトブレパスの肉もただミンチにしただけでなく、トッピングで他の部位を混ぜる事も可能だ。


 いろんな食感を楽しみたいのでとりあえず三つ別のトッピングで注文した。

 ソースも三種類注文する。


 出てきたカルハンバーグは直径30センチほどもある大きなハンバーグだった。

 野菜やパンもテーブルに並べられ、ハンバーガーにして食べるのも良さそうだ。


 一枚目は軟骨が入っているようで、コリコリとした食感がアクセントになって美味しい。


 お酒も注文したが、朱王が飲みながら首を傾げている。


「カルパリ? これはカンパリオレンジじゃないのかな?」


 どうやら地球産のカンパリに似た味のようだ。名前の付け方からもかつての地球人が考えたのだろう。

 朱王はこのお酒が気に入ったらしく、お土産に買って帰るそうだ。


 二枚目のカルハンバーグは弾力のある肉が混ざっているようだ。

 ホルモンのような内臓系の肉だろう。



 三枚目はユニコーンのハンバーグだ。

 しっかりとした歯応えながら肉に甘みがあり、肉特有の臭みが一切ない。

 脂身が少ない為アッサリとしたハンバーグだ。


 ミリーも朱雀もモリモリと食べる。

 パンをスライスして野菜とハンバーグを挟み込んでかぶり付く。

 二人とも口の周りにソースをたっぷりとつけているが気付いているのだろうか。

 朱王はハンバーグを肴にお酒を楽しむ。

 ソーダも欲しいなーなどと言いながら十杯以上飲んでいた。


 最後にデザートも注文する。

 肉料理の店では定番のシャーベットだ。

 冷たくて甘酸っぱいシャーベットを大口で頬張るミリー。

 ミリーの真似をして食べる朱雀は火の精霊。

 冷たいシャーベットの刺激が頭を貫く。

 頭を押さえて悶絶する朱雀。

 隣ではミリーも頭を抱えていた。


 支払いをして昼食を終える。




 その後は少しカルハの街中を見て回る。


 ミリーと朱雀はお菓子を買い漁り、朱王は酒屋でカルパリを購入した。


 途中で蒼真とアイリを発見。

 何やらお菓子のようなものを食べている。

 ミリーと朱雀は店内に入り、カルハスターをパクリ。

「「おいしーーー!!」」と一声あげてから注文した。


 その後は蒼真とアイリも交えて街の観光をし、無駄にお土産を買い漁った。




 途中で千尋とリゼも合流し、二人は新しい魔石袋を購入していた。

 千尋のリュックとリゼのバッグを見て、可愛いと絶賛するミリーとアイリ。

 千尋は口を尖らせてブツブツ言っていたが。


「明日は私達も買いに行きましょう!」


「蒼真さん、また選ぶの手伝ってください」


「ああ。オレも新しいの欲しい」


 という事で明日はクエストと買い物のようだ。


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