第62話 聖騎士達の武器
今日はザウス王国へ向かう。
昨夜作ったガトーショコラは全部で十二個と、お土産に大量に作った。
ミリーの家に二つ。
ロナウド邸に二つ。
聖騎士達も食べるだろうと二つ。
朱王の部下への差し入れに二つ。
王宮に二つだ。
残りの二つは宿屋エイル用。
さすがに朱王もこんなに作ったことはなかったが、大人数でのスイーツ作りは楽しかった。
千尋とリゼはヴェノム、蒼真とアイリはゼノン、朱王とミリーはバギーに乗って向かう事にする。
ちなみに二台のバイクには名前があるのにバギーに名前はない。
バギーをもう一台作るとしたら名前を付けるそうだ。
移動中は空を飛べる精霊達は好き勝手に飛び回ってついてくる。
八時に出発し、レースでもしているのかという程のスピードを出して九時前には王国についた。
まずはいつものように武器屋へ向かう。
今回も武器屋の店主ナーサスはバイクの音が聞きつけて外で待っていた。
「また武器を持ってきたよー」
「おぅ、待ってた。まずは前回の売り上げを支払わないといけないんだが、あんな大金を店に置いとくわけにいかなくてな。小切手渡すから役所で受け取ってくんねーか?」
笑顔で言うナーサス。
魔力印付きの小切手があれば役所で受け取れる。
「帰りに役所寄るから大丈夫。とりあえず今日持ってきた武器を店に置きたいんだけど値段付けてくれる?」
ゼノンの荷台から五本の武器を取り出してカウンターまで運ぶ。
前回の最高値は長槍の1億6千万リラだったのだが、今回はこれまでの最高額、大剣で1億8千万リラの値段がついた。
この超高額武器は、千尋が調子に乗って装飾過多にして鏡面まで磨き込んである。
武器というよりは宝飾品のような作りだ。
リゼから見てもやり過ぎと思えるのだが、派手好きならこれくらいで丁度いいと千尋は言い張る。
前回の超高額の槍はルーファスが買ったそうだが、とても満足していたらしい。
「今日のもすごい出来だな。またすぐに売り切れ間違いなしだ。それより来る度に仲間が増えてるんだが……」
千尋達を見ると誰もが変わった武器を持っている。
その装備が気になるナーサス。
「少し武器屋としての興味でなんだが千尋達の武器を見せてくれないか?」
「いいよ。ほい」
千尋はエクスカリバーとカラドボルグ、ベルゼブブをカウンターに置く。
エンヴィとインヴィは店売り武器の為出さない。
「どれも値段がつけれない程だな。いつもの武器と装飾や輝きは変わらないが…… なんだ? この吸い付くような感覚は。魔力が流れ込むのがわかるな。それとこれは何だ? 装飾は素晴らしいがどう使うんだろう」
魔剣をじっくりと眺めた後にベルゼブブを見て首を傾げている。
「銃っていって金属の弾を発射するんだよ」
なるほどなーとあらゆる角度から眺めている。
次にリゼがルシファーをカウンターに置く。
「鞘から抜いたら剣を放しちゃダメよ?」
ナーサスが剣を抜く前に忠告する。
大剣と思って抜いたはずの剣は、シャラシャラと音を鳴らしながら曲がるように鞘から抜ける。
鞘を払うと曲がる剣。
「何だこれは!? これで戦えるのか?」
驚きを隠せないナーサス。
「その刃一つ一つが魔力で繋がってるの。振ると伸びる剣なのよ」
リゼが簡単に説明する。
唾を飲み込んでじっくりと眺めるナーサス。
美しい仕上がりと、見たこともないような武器に感動しているようだ。
鞘に収めてふぅと息をつく。
次に蒼真の孫六兼元を置く。
「これは魔力が流れないな。ミスリルに魔力が流れないのは初めてだ。それに見たことのない形の剣だがシンプルながら美しい」
この世界に日本刀など存在しない。
弧を描いた片刃の剣は引き込まれるような魅力を持っていた。
じっくりと観察して蒼真に返す。
次にミリーがミルニルをカウンターに置く。
「これはメイスか。ミスリル製にしては軽いような…… しかしまるで宝飾品のようだな」
あらゆる角度からメイスを見て目を閉じる。
頷いてミリーに返す。
次にアイリのクラウ・ソラスを置く。
「少し今までのと違う気がするな。完成度に優劣はつけられないが…… なんだろう、作り手が違うような気がする。装飾に深みがあってこれもまた美しい」
作り手が違う事までわかるあたり、さすがは貴族街の武器屋店主。
しっかりと目利きができるようだ。
刀身の薄さや軽さを確認しながら両方の剣をじっくりと観察する。
最後に朱王の朱雀丸を置く。
「さっきの剣と似ているが長くて重いな。これも魔力が流れないが…… 刀身が熱い。なんだこれは…… 能力を持っているのか?」
驚きの表情で観察しながら朱王に返す。
全員分の武器を見終えて唸るナーサス。
「どれもすごい武器だった。見せてくれてありがとうよ。それでこれが前回の分の小切手だ」
小切手を受け取って武器屋を後にする。
「私はミリーの家に寄って来るけどいいかな?」
「オレ達は騎士団のとこ行くから後で来てねー」
朱王とミリーはミリーの家、魔法医院に向かった。
千尋達もバイクを走らせて王国騎士団の訓練所へと向かった。
「こんにちわー! ロナウドさんから呼ばれて来たよ」
警備をする男に挨拶をして手紙を見せる。
手紙を確認すると門が開かれ、中へとバイクを走らせる。
バイクのエンジン音を聞いて駆けつけたのはダルクだった。
訓練所の場所を知っているのでダルクを蒼真の後ろに乗せて走り出す。
いつになくダルクも楽しそうだ。
「まだ騎士達の訓練中だから少し待っててくれ」
訓練所の側にある待合室に案内された一行。
紅茶を飲みながらしばらく待つことにする。
少し待つとロナウドが来た。
「久しぶりじゃな。元気にしとったか?」
「ロナウド様! お久しぶりです!」
リゼはロナウドに会えて嬉しそうだ。
「はて? ミリーがおらんがそちらの娘は初めて見るのぉ」
「はじめまして、ロナウド様。クリムゾンゼス本部のアイリと申します」
深々と頭を下げて挨拶するアイリ。
「儂はロナウドじゃ。よろしく頼む」
笑顔で答えるロナウド。
「ロナウドさんこんちわ! ミリーはねぇ、朱王さんを連れて実家に行ったよー」
ミリーの件は千尋が答える。
「んん? 朱王も来とるのか? なぜミリーの家に朱王が行くんじゃ?」
「あの二人は付き合ってるんですよ」
リゼが嬉しそうに言う。
「朱王がミリーとか…… さすがに儂も予想せんかったわ。ところで千尋はどうじゃ? その後の進展はあったか?」
「オレもリゼと付き合う事になったよ!」
笑顔でピースする千尋。
「そうか! でかしたぞ千尋! これでお前も儂の息子同然じゃ」
ガシッと抱きつき背中をバンバン叩くロナウド。
とても嬉しそうだ。
喜んでいるので千尋は背中を強化して笑顔で耐える。
後ろでは赤面したリゼが顔を押さえている。
その顔を覗き込んだアイリは、とりあえずリゼに抱き付いて頭を撫でてみる。
「昼飯は食べたのか? まだなら儂らの食堂で食べよう。そろそろ昼時じゃし騎士団の訓練も終わる頃じゃ」
騎士団の食堂で昼食を摂ったが、なかなかというかとても美味しかった。
騎士団は貴族も多い為、一流の料理人が複数抱えられているそうだ。
昼食が終わり、待合室で聖騎士が来るのを待つ。
しばらくするとダルクが迎えに来て訓練所へと向かう。
魔術師団団長マールも来ており、手にはスタッフと腰にはダガーを二本装備している。
「では千尋。2,000ガルドで皆の剣を頼む」
ロナウドがエンチャントをするよう促す。
「すみません! ロナウド様! 先に一つよろしいでしょうか」
ワットが前に出る。
「む? なんじゃ?」
「千尋! 千尋が来たってことは武器を卸してきたのか?」
「うん。五本卸してきたよ。大剣もある」
「ロナウド様! 買いに行っても良いでしょうか」
「そうじゃな。せっかくだから好きな武器を強化するべきじゃな」
「私もよろしいでしょうか! 千尋! 今回も槍はあるか?」
ハイドも問いかけてくる。
前回槍は一本だけだった為、ルーファスが購入したので買えなかったようだ。
「槍も一本あるよ」
大剣ほどの値段にはならなかったが、以前ルーファスが購入した槍に負けない程の装飾をした槍を今回も作ってある。
千尋が答えるとワットとハイドは武器屋へと走って行った。
蒼真の袖を引っ張るアイリ。
「エンチャントって私にもできるんですか?」
小声で問いかける。
「魔石を作れるのは千尋だけだが、エンチャントの施工はオレやリゼもできるぞ」
「どうやるんですか? 私もやってみたいです」
簡単に蒼真から説明を受けてやってみることにした。
重要なのは集中のようだ。
ダルク以外の聖騎士の武器に魔力2,000ガルドでエンチャントを施す。
千尋が全員分やっても良いのだが、蒼真とリゼにも魔石を二つずつ渡し、アイリも受け取った。
アイリの前に並んだのはバランとテイラー。
バランはアイリがクリムゾン隊員という事をロナウドから聞いていた為、とりあえず並んでみた。
テイラーは初めて見るアイリに少し興味があったようだ。
アイリのエンチャントも問題なく施工することができ、喜ぶバランやテイラーを見て嬉しそうにしている。
しばらくしてワットとハイドが戻って来る。
二人の手には千尋の作った大剣と槍。
千尋の好みで作ったド派手な装飾を施された武器だ。
二人とも気に入ったようで嬉しそうに戻ってきた。
ワットとハイドのエンチャントはアイリが施工する。
アイリが自分からやると言っているので任せた。
これで聖騎士全員が2,000ガルドの武器となり、各々性能を試してその威力に驚いている。
「よし。では皆に精霊を宿していこうと思う。各々得意な魔法を思い浮かべるが良い」
しばしの沈黙。
「え!? ちょっとお待ちくださいロナウド様! 我々は精霊魔術士になれるのですか?」
驚いたダルクが質問し、ロナウドは千尋に説明させようと目線を送る。
「精霊と契約するには器が必要なんだけど、魔力量2,000ガルドになったみんなの武器は器として使えるようになったんだ。そんなわけでみんなには下級精霊と契約してもらおうと思う。それと精霊魔術士ではなく精霊魔導士にしようと考えてるけど…… ロナウドさんも良いよね?」
ロナウドに問いかける千尋は魔法陣の事をまだ話していない。
「構わんがそんな事が可能なのか?」
「朱王さんが来ないとできないんだけど、武器に魔法陣をエンチャントするんだよ」
「なるほどのぉ。彼奴も千尋と一緒で変な事ができるのぉ」
「変じゃないし!」
というわけでそれぞれ自分が契約したい精霊を決めていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます