第56話 それぞれの課題

 魔剣が完成した千尋はクエストに行きたいと言い出した。

 冒険者であるのにも関わらず、武器作りばかりしていた為、しばらくはクエストに行こうと言うことになった。




 久々に役所を訪れる千尋とリゼ。

 蒼真達は時々来ているのでいつもの風景だが、まずはお手軽にケンタウロス討伐を選択。


 クエスト内容:ケンタウロス討伐

 場所:アルテリア南東部森林

 報酬:一体につき100,000リラ

 注意事項:群れで生息する

 報告手段:魔石を回収

 難易度:5


 多少距離があるが森林の為歩きで向かう。

 弁当やお菓子を買い、水袋とは別に全員サイダーを入れる為の小さな水筒も購入して冒険に向かう。




 五人での冒険は初めてだ。

 アイリも五人での冒険が楽しみらしく、テンションが少し高い。


 東門から出て少し行ったところからは森林地帯となっている。

 人が通る道ができており、しばらく進んでいくと南東方向への別れ道がある。

 南東へと歩みを進め、このまま道なりに進んで行くだけの旅だ。


 途中複数のワーウルフと遭遇するが、千尋のサイレントキラーで瞬殺、魔石が回収されていく。

 千尋の強さは朱王との戦いでよく知ったつもりのアイリもさすがに驚いた。

 強さの種類が違う。

 蒼真やミリーという規格外な強さを持つパーティーの中にありながら、その中でもまた規格を外れた千尋。

 朱王が言う危機感が足りないと言うのが当然と思えた。




 しばらく行くと、武器を持ったワーウルフが現れる、コボルトだ。

 この世界のコボルトはワーウルフとゴブリンの混成体。

 ワーウルフの力を持ち、武器を使う知能を持つ。

 ワーウルフは素早さや力があるが魔力の察知能力が低いく、ゴブリンは魔力を察知し知能も高いがそれほど運動能力の高さはない。

 その両方を受け継いだ混成体コボルト。


 千尋のサイレントキラーを察知して飛び退く。

 アオーン! と一声鳴くとガサガサと仲間のコボルトが集まり始める。


「誰やる?」


「私やります!」


 アイリが名乗り出る。


 スラリと抜くサーベルは魔剣クラウ・ソラス。

 淡い紫色の刀身は見るものを惹きつける。

 魔力の強化を施し、風を纏う。

 刃から全身へと広がる風の奔流は紫色に輝き、淀みなくアイリを包み込む。


 ゆらりと体を傾かせたアイリ。

 コボルトの真横まで一瞬で移動して横薙ぎに切り裂く。

 ザクザクと一撃の元に切り伏せ、集まっていた七匹をわずか数秒で葬った。


「どうでしたか?」


 戻って来たアイリが問う。


「綺麗な竜巻だね」


「周りの木も切ってるわね」


「その剣が羨ましいです……」


「今後は勉強やめて訓練だな」


 課題が残ったらしい。

 褒めて欲しかったアイリは少し残念そうな表情をするが、蒼真から飴ちゃんをもらって喜んでいた。

 



 さらに進むと少し開けた場所がある。

 日も差し込んで景色の綺麗な場所だ。


 時刻は十一時、少し早いが昼食を摂ることにした。

 今日の弁当はサイコロ状のお肉が入っており、おかげでミリーがとてもご機嫌だ。

 アルテリアに来て半月程になるが、最初はミリーに対してよく思ってなかったアイリ。

 今ではすっかり懐いてよくくっ付いている。

 ミリーが嬉しそうにすると自分も嬉しくなるようで、ミリーにつられてご機嫌なアイリだった。

 食後にはサイダーとお菓子も食べる。




 昼食を終えてさらに先へと進んで行く。


 途中魔獣モンスターに遭遇するものの敵にはず、昼食から一時間ほど歩いたところで目的地に着いた。


「ケンタウロスってあの…… 何でしょう。あれですか?」


「そうだ。あの変な馬だ」


「オレ達の知るケンタウロスって馬の頭のところが人間の上半身なんだけどねー」


「オークやゴブリンなのよね……」


「色合いが不自然ですよね!」


 この世界のケンタウロスはユニコーンとオークやゴブリンの混成体だ。


 少しずつ近づいて行くと風を切る音とともにミリーの範囲魔力が爆発。

 矢を爆発で阻止した。


 こちらを向くケンタウロス。

 そしてケンタウロスに囲まれている事に気がついた。

 全員背を向けて円陣を組む。


「たくさんいるわね!」


「じゃあ皆んな正面のを倒していこう!」


「リゼさん私達を巻き込まないでくださいね!」


「たぶん大丈夫よ!!」


「アイリは怪我するなよ」


「頑張ります!」




 千尋はエクスカリバーとカラドボルグを魔力球でチャージし、ケンタウロスに射出。

 回避するケンタウロスに風を纏って駆け寄る千尋。

 千尋を迎え撃つケンタウロスの背後から突き刺さるカラドボルグ。

 馬の体にはエクスカリバーが突き刺さる。


 まずは一匹。




 蒼真は普段通りに一瞬で間合いを詰めて斬り裂く。

 薄暗い森林地帯での青い風刃はいかにも必殺技という斬撃で蒼真も満足だ。




 アイリは蒼真同様風を纏って疾走する。

 勉強して得た知識からの雷属性魔法。

 ケンタウロスの剣を叩き切り、剣術とは程遠い乱れ切り。

 放電する斬撃にケンタウロスも身動き取れずに悲鳴をあげながら絶命した。




 ミリーは相変わらず強い。

 歩きながら進み、向かってくるケンタウロスを一撃で粉砕する。

 七色の爆破はキラキラと綺麗な魔法となった。




 リゼは木々が乱立するような場所での戦闘は少し苦手だ。

 ルシファーの能力が範囲での破壊力を引き上げていたのだが、無駄に周囲を破壊してしまう。

 朱王に指摘されたリゼの戦闘方法は、ルシファーを剣としても使用できるようにする事だ。

 如何に遠距離魔法が使えたとしても近距離からの最大魔法の方が威力が高い。

 武器の破壊力、魔力の密度ともに近距離のほうが強いのだ。

 ルシファーはリゼの魔力で繋がっている為、剣として使用する事も可能で今日はそれを試す良い機会だ。

 ルシファーをかざしてケンタウロスに向かって走り出す。

 ケンタウロスの剣を受けて弾き、数度切り結んで横にルシファーを薙ぐ。

 回避するケンタウロス。

 難しい…… どうしても自分の速度が遅い。


 魔力量6,000ガルド。

 全てルシファーの強化に回してケンタウロスに切り込む。

 交錯した瞬間にケンタウロスは弾かれて蹌踉めく。

 リゼが上段からルシファーを振り下ろしてケンタウロスを真っ二つにした。




 その後はリゼ以外の全員がサクサクと倒していき、数分で戦闘は終わった。




「ねぇ蒼真。私にも剣の使い方教えてくれない?」


 リゼが自分の課題を見つけたようだ。


「別に構わないが千尋が…… あぁ、剣の使い方は無理か」


「千尋さんは剣を手に持ちませんからね!」


「えー。じゃあオレも習う!」


「皆さんで訓練しましょう!」




 帰り道は訓練も兼ねて走る事にした…… が、ミリーは風の魔法が使えない。

 顎に手を当てて少し考える。


「このままでは私が置き去りにされるのでは……」


「ミリーさんをここに置いて行けません!」


 アイリが涙目で訴える。


「ミリーならいけるいける」


 蒼真が適当な事を言う。


 ミリーは自分の限られた魔法の中で、最大限走る事に活かす方法を考える。

 ミリーは全身から魔力を放出できる。

 それならばと足の裏から放出して爆破してみる。

 ボンッと跳ね上がる体。


「むふふー。いけそうですね!」


「ほんとですか!?」


「じゃあ魔獣が出てきたら止まらずに倒そう」


 走り出す蒼真。

 風を纏っての超加速は魔力の消費が激しい為全力での長距離は走れないだろうが、ある程度の速度で走るのならば体力次第だ。


 走り出した蒼真は時速30キロは超えている。

 普通に走っても時速30キロは超えられるだろうが、如何に魔力があっても100メートルを十二秒台で走り続ける事はできない。


 振り返ると千尋、リゼ、アイリも走って来ている。

 ミリーは…… 余裕で着いて来た。

 ダンッ! ダンッ! と足元を爆破して余裕もありそうだ。




 最初に力尽きたのはリゼ。

 魔力の消費よりも体力が続かなかった。

 息があがるのは皆同じのはずなのにミリーだけは元気だ。

 全員に回復魔法をかけている。


「ミリーの体力はどうなってるの!?」


「疲れると自動で回復されるんですかね?」


「さすがミリーさんです!」


 ミリーの回復も体力だけなのですぐに終わる。

 あとはそれほど距離もないので歩いて帰る事にした。




 役所でクエスト達成の報告し、報酬は1,224,000リラ。

 全員で山分けして端数は明日の弁当代に回す。






 いつものように西の岩場で訓練を始める。


 まずリゼはルシファーを剣の状態に維持する訓練だ。

 ただ強度を上げて衝撃にも耐えられるように維持するだけだが、地味に見えてかなりキツい。

 普段通りの維持ならどうという事はないが、当たっても曲がらないように維持するのはかなりの魔力強度が必要だ。

 蒼真の風刃を受けても曲がらないレベルでの強化。

 気を抜くと蒼真が気付き、風刃を打ち込んでくるので必死だ。

 ミリーはこんな訓練を受けていたのかと思うと少し同情した。




 千尋とアイリは左右の武器を持つ。

 アイリは前回防御の訓練をしていたので、攻撃側の説明をする蒼真。

 先に千尋が攻撃側、アイリが防御側。

 ゆっくりではあるが、あらゆる角度から剣を繰り出す。

 アイリは全て受け続け、徐々にスピードも上がっていく。

 十分続けて五分休憩、攻守入れ替えて再開を何度も繰り返していく。

 器用と書いて千尋と呼べそうなくらいに器用な千尋は、この日のうちに物凄いスピードで剣を捌けるようになっていた。


 アイリも飲み込みは早いがまだまだ戦闘に慣れていない。

 千尋の上達を見て少し落ち込んでいたが、蒼真から見れば褒めるところしかない。

 アドバイスをしながら良いところを褒めると喜んでいた。


 リゼは気を抜かずに強化していたらしく、蒼真も風刃を放っていない。

 蒼真の風刃を受けるのが怖いリゼだった。




 二時間程して、リゼはルシファーの強度を維持したままミリーの攻撃を受ける訓練になった。

 ミリーは手加減しているが、普段防御をする事がないリゼにとっては恐怖が大きい。

 怯えるリゼを見て、ミリーは近寄って抱き締める。


「リゼさんには絶対に当てませんから安心してください。怖がらなくても平気ですよ」


 リゼを安心させる為に優しく言うミリー。

 少し落ち着いたリゼを見て一旦距離をとる。


 再び攻撃を仕掛けるミリーはガンガン攻めてくる。

 リゼが受け切れるかどうかというギリギリの速度で襲いくるメイス。

(安心!? 恐怖でしかないわ!!)と心の中で叫びながら必死で受け続けるリゼは涙目だった。


 訓練が終わってから自分の恐怖を訴えるリゼだがミリーは涼しい顔で答える。


「私はリゼさんがしっかりと受けられるように攻撃してますよ? 蒼真さんのは受けるだけでは済みませんから……」


 受けるだけでは済まない? どういう事だろう? それは後日知る事になる。

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