第20話 聖騎士長

 闘技場の中央に立つロナウドと千尋。


 ロナウドは剣を中段に、左足を前に右腕を引いて構える。

 千尋は掌を開き、半身に構える。

 宣言通りの無手。


 お互い魔力を練り、先手を取るロナウド。

 唐竹に斬り込まれる剣を千尋は左に躱し、そのまま逆袈裟が襲うも距離をとって躱す。


 ロナウドは強襲を続ける。

 横薙ぎの剣に対し千尋は前に出て柄頭に右手を当てて爆破。

 爆破で動きが止まったロナウドに、左掌底で風玉を脇腹へと打ち込む。

 わずかに怯むロナウドに千尋の爆破を乗せた後ろ回し蹴りが炸裂する。


 距離を取ったロナウドは身体に風を纏って構える。

 一瞬で間合いを詰めたロナウドからの左袈裟斬り。

 千尋もロナウドの魔法発動とともに準備していた魔法を発動させる。

 右前方からの石の散弾。

 攻撃の瞬間だった為、ガードできずに大量の石を浴びるロナウド。

 石を浮かせたまま肉薄する千尋。

 攻撃一つに石弾をいくつも乗せていく。

 ガードするロナウドも突風を発生させて千尋ごと吹っ飛ばす。


「ぬぅ。口先だけではないな。確かに強い」


「じゃあ認めてくれるかな?」


「ふっ。そう簡単には認められんな!」


 炎を纏うロナウド。

 これまでの聖騎士とは違う。

 赤くはない、青い炎。


 千尋は得意のサイレントキラーを発動し、青い炎を消す。


「ん? なに!?」


 再度発動させるも一瞬にして消えてしまう炎。


「小僧。貴様がやっているのか?」


「もちろん!」


 楽しそうに答える千尋。




 見学している蒼真とミリー、そしてリゼ。


「千尋さんはどうやって火を消してるんですか?」


「いつものサイレントキラーだろ」


「ええ!? 下手したらロナウドさん死んじゃいますよ!?」


「千尋はそんなミスはしないだろ」


 全く千尋の心配をする様子がない蒼真とミリー。


「ねえ蒼真、ミリー。千尋はいつも戦う時あんな感じなの?」


「まぁ基本そうですね」


「そうだな」


「なんか…… 心配いらなかったみたいね。ロナウド様相手にあんなに楽しそうに戦うなんて…… 」


  苦笑いするリゼだった。




 次は地属性魔法を発動するロナウド。


 石の弾幕を千尋目掛けて叩き込む。

 同じように石でガードする千尋だったが、その隙をついてロナウドは逆袈裟に切り上げる。

 千尋は躱しきれずに右腕で流すようにガードし、ミスリルウォーマーからは火花が散る。

 魔力でミスリルを強化していた為切られる事はなかったが腕に痛みと痺れが残る。

 さらに追い討ちを仕掛けるロナウド。

 千尋の腕の痺れを把握しているのか、左を攻められて攻撃に転じる事ができない。

 徐々に攻撃が身体を掠め始め、防戦一方の千尋。

 それでも千尋の表情からは笑顔が消えない。

 この状況でも楽しんでいるようだ。


 千尋は止むを得ず、ロナウドの死角から石の弾丸を肩に直撃させる。

 何が起こったかわからないロナウド。

 距離をとり体勢を立て直した千尋は、右腕の痛みに耐えつつも動く事を確認し、両手から放電を始める。


「さっきのはなんじゃ?」


「オレの保険だよー!」


「どういう意味かは知らんが面白い事をする。その雷魔法といい、儂を相手に素手でその余裕といい…… リゼが冒険に出たいと言うのもわかる気がする。じゃがな、そう簡単には納得するわけにはいかんのじゃよ」


「なんでリゼを冒険に出したくないのかな?」


「儂の友が命がけで護った子じゃ。その友が儂に託した子じゃ。儂の手の届かぬところで死なせるわけにはいかん!」


「んー、でもリゼはロナウドさんより強いと思うけどね!」


「なに!?」


 驚きの表情のロナウド。


「もちろんオレよりも強いよー」


「まさかそんなはずは……」


「リゼの戦いを見た事ないでしょ?」


「確かに無いが……」


「リゼの強さも見た方が良いよ?」


「では、試すべきはリゼという事か…… ?」


「そろそろ止めにする?」


「…… いいや、面白いからもう少し付き合えぃ」


 全身に風を纏うロナウド、剣には風の渦を巻く。

 千尋も同じく全身に風を纏う。

 お互いに土煙をあげて一瞬で間合いを詰める。

 ロナウドの突きを躱した千尋だったが、風に絡め取られて吹っ飛ばされる。

 突きを放ったロナウドも右腕を押さえて追い討ちをかけれない。


「雷魔法など初めて受けたが…… まともに腕が動かんな」


 左に剣を持ち替えて構えるロナウド。

 起き上がった千尋がロナウドに向かい、風を纏って物凄いスピードで駆け寄る。

 千尋の右手にも風魔法。

 ロナウドの剣を右腕で受ける千尋。

 風の回転方向を合わせた為弾かれる事はない。

 千尋の左掌底を動かない右手で払うロナウド。

 地属性魔法で籠手を操作しているようだ。

 魔力を込めて打ち合う千尋とロナウドは、互角の戦いを繰り広げて徐々にダメージを蓄積させていく。

 距離をとらないロナウドは千尋の遠距離魔法を警戒する為だ。

 千尋も下手に距離を取る事ができない。

 油断した瞬間に勝負は決まってしまう。

 全力で戦いながらもお互いの表情は楽しそうだ。




 十分以上も続けられる攻防だったが、ロナウドの横薙ぎの一閃と千尋の蹴りによる爆発で距離が開く。

 お互い荒い息を整えながらも視線をぶつけ合う。


 魔力を練ろうとしないロナウドに気付いた千尋が問う。


「まだ認めてくれないかな?」


 それを聞いて魔法を解くロナウド。


「ふぅ…… 強いのぉ千尋。これだけ戦えるのなら認めぬわけにいかんだろう」


 千尋も魔力を収める。


「ふぅ…… ロナウドさんも強いねぇ」


「ところで千尋、リゼは本当に強いのか?」


「試してみたらいいじゃん」


「うーむ…… 儂はリゼには手加減してしまうじゃろうからな。力を試す事ができん」


「それならここの聖騎士を全員ぶつけてみたら?」


「んなっ!?」


 ここにいる聖騎士は王国の最大戦力。

 それを個人相手にぶつけるなど、千尋の発言を正気とは思えないロナウド。

 

「それでもリゼには傷一つつけられないと思うからさぁ」


「リゼは研究所にいただけじゃぞ? 何故そんなに強くなるというのじゃ!?」


「オレが作った武器がね…… リゼを強くしすぎた」


 苦笑いで頬を掻く千尋。




 観客席で見守る蒼真、ミリー、リゼ。


「魔力を解いたな」


「何を話してるんでしょう?」


「なんかこっち見てない?」


「あ、戻って来ますね」




 リゼの元に来たロナウド。

 ミリーは千尋とロナウドに回復魔法をかける。


「千尋の力はよくわかった。そして妙な事を聞いてな、それを確認せねばならん。じゃからリゼ、お前も戦え」


「ええ!?」


「リゼの力見せた方がいいよー。ロナウドさんリゼが心配で絶対に冒険に出したくないって言うからさー」


「こ、これ! 千尋、そんな事は言ってない!」


「そういうわけだからリゼは騎士団と戦ってね!」


「はあ!? ちょっと千尋! 何を言ったのよ!?」


「リゼは騎士団より強いって言った! あははっ」


「嘘でしょ!?」


「間違ってはいないな」


「蒼真まで!?」


「リゼさんは化け物ですよ……」


「ちょっとミリー!?」


「この三人が言う程だ。試させてもらう」




 項垂れるリゼにミリーが耳打ちする。


「勝ったら千尋さんが褒めてくれますよ!」


「殲滅するわ!!」


 急にやる気を出すリゼだったが、殲滅まではしないでいただきたい。






 闘技場の中央に立つリゼと向かい合う騎士四十二名。

 さすがに騎士達もこの人数を一人で相手にするなどふざけていると怒りを露わにする者もいた。

 聖騎士ルーファス、聖騎士ハイドも言葉には出さないが表情に怒りが見てとれる。


 ロナウドは近くで確認すると審判を名乗り出た。

 やはり心配なのだろう。


 千尋は騎士全員と言ったが、上位騎士四十人に聖騎士を二人も加えればその力は確認できるだろうとこの人数となった。




「我が騎士達よ。手加減は許さんぞ。では始めぃ!」


 ルシファーを抜くリゼ。

 ゆっくりと舞うように流れる剣尖。

 そして魔力を練り、ルシファーを振るう。

 前列にいた騎士三名が弾き飛ばされ、剣尖が見えないほどのスピードで襲い暴れ狂う。

 さらにルシファーで魔法を発動している。

 シズクとリッカによる氷魔法。

 騎士相手に氷で貫くわけにはいかない。

 水魔法を放ち、対象に触れた瞬間凍らせていく。

 目で追えないほどの刃と氷魔法に翻弄され、騎士四十名はわずか数秒で地に伏した。


 ルーファスとハイドは炎を纏い、連携をとりながらリゼに向かう。

 必死で抗うもののリゼの操るルシファーに蹂躙され、武器を叩き落とされて二人とも凍らされてしまった。




「な…… なんという…… 」


 驚愕するロナウドだったが、リゼは汗一つ流さずロナウドに頭を下げた。


「ロナウド様。もう宜しいでしょうか……」




 こうなるであろうと予想していた千尋と蒼真、ミリーはすぐさま騎士達に駆け寄る。


 ミリーは騎士達の回復をする。

 蒼真は怪我の度合いを見て危険な状態の者がいない事を確認し、千尋は魔力の範囲を広げて熱風を放って全員の氷を溶かしている。


「リゼ、強くなったな……」


 顔を引攣らせながらも言葉を発するロナウド。


「ねっ! 強いでしょ? あははっ」


 笑いながらに言う千尋。


「リゼ、その武器はいったいなんなんじゃ?」


 不思議そうな表情でリゼの剣を見る。


「これは近中距離用武器として千尋に作って貰った魔剣ルシファーです。恥ずかしながらまだまだ使いこなせておりませんが……」


「千尋が作った? この小僧が?」


 驚きの表情で千尋を見つめるロナウド。


「四人の武器は全て千尋の手によるものです。私が知る限り最高の職人ですよ!」


 嬉しそうに語るリゼだが。


「オレは職人じゃない!」


「ふむ、レオナルドから聞いてはいたのだがお主らの持つ武器を見て儂も驚いた。これまで見た事もない武器、さらに宝飾品のような美しさを持つ武器じゃとな…… 実際見て納得いく物じゃった。しかしそれを千尋が作ったとはのぉ」


「ふっ。千尋の武器は凄いだろう」


「やっぱ蒼真さんが自慢するんですね!?」


「ところで三人の武器は見る事が出来たんだが、千尋のも見せてくれんか?」


 ロナウドと戦ったのは千尋だが、素手で戦ったので見ていない。


「ん? 銃?」


「ふむ、それはどんな物なんだ?」


  ドーン! と消音をせずに離れた壁目掛けて銃を撃って見せる。


「む? 何か飛んでいったな……」


「そそ、金属の弾が飛んで行ったんだよ」


「ふーむ、凄いスピードだな。ほぼ見えんかったぞ」


「すげーなおっさん! あれが見えるの!?」


「急におっさん呼ばわりか!」


「初めてすげーと思ったよ」


「失礼な小僧だな」


「ねぇ千尋さん、あれも見せたらどうですか?」


「何を?」


「ミスリル弾です」


「うーん、じゃあ五割でいいかな。地属性で良いよね?」


「はい!」


「ロナウド様。止めた方がいいですよ?」


「何をする気じゃ?」


「ロナウドさん、修理はお願いします」


「だからなんの事じゃ!?」


「ああ、危険なので騎士の皆さんにはお戻り頂きましょう!」




 千尋が魔力を練り、地属性魔法を発動する。

 地面から夥しい数の石が浮かび上がる。


 銃を先程撃った壁の方向へ向けて発砲。

 同時に壁が弾け飛び、爆音と土煙が立ち込める。

 壁や地面が直径5メートルほども抉られていた。


 壁を指差して蒼真が言う。


「こういう事だ」


「修理お願いしますね!」


「申し訳ありませんロナウド様…… 」


「ぐむむむ…… 。とんでもない小僧じゃな」


 顔を引攣らせるロナウドだった。


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