第21話 婚約

 一連の出来事を見守っていたレオナルドとレミリア。


「あっはっはっはっ! 本当に面白いよね彼等。リゼの強さにも驚かされたけどね!」


「面白いではありませんよレオナルド様!」


「んん、まぁ私達も彼等の元に行こうか」


「おかしな事は言ってはいけませんよ?」


 観戦席から出て闘技場の中央へ向かうレオナルドとレミリア。




「父上! いかがでしたか? 彼等は」


「レオナルドか。うーむ、リゼの件は認めざるを得んな。しかしのぉ…… リゼをレオナルドの妻にと考えていたんじゃがな」


「「「「ええ!?」」」」


 驚く四人。


「だからそれはお断りしたじゃないですか! 私にとってリゼは妹のようなものだと」


「むう、リゼはどうなのじゃ?」


「え!? あのー…… その、私は…… お断りさせて戴きます!」


 頭を下げるリゼ。


「何故じゃ!? レオナルドは儂が言うのもなんじゃがなかなかの男前。それに騎士としても儂と肩を並べるほど強い。レオナルドは十九歳。リゼも十六歳じゃろう? そろそろ結婚もせねばならん!」


「父上。私は心に決めた相手がおりますのでお断りしたのです」


「なんじゃと? それは誰じゃ?」


「はい、このレミリアです」


 サラッと答えるレオナルド。


 ……


 ……


 ……


「ええ!? レオナルド様! 突然何を!?」


「そう言えば直接言ってなかったね」


 跪いてレミリアに向き直るレオナルド。


「私と結婚してくれないか? レミリア」


 固まるレミリアだったが。


「わ、私などでよろしいのですか? 身分も違いますし…… ロナウド様のお許しは頂けませんよ?」


 顔を真っ赤にし、俯きながら答えるレミリア。


「儂は構わんがの」


 目を見開き涙を流すレミリアだったが一言。


「はい。レオナルド様……」


 顔を赤くして二人を見つめるリゼとミリー。

 嬉しそうに見ている千尋と蒼真。

 ロナウドも嬉しそうだ。


「見ましたかリゼさん! お二人が結婚を約束しましたよ!?」


「もぅ、レミリア! 良かったわねー!」


「あははっ、いいね!」


「お似合いだな」






「千尋君!」


 突然レオナルドから声をかけられる千尋。


「え? なぁに? 」


「君達が冒険に出る事となるのはわかってはいるんだが…… お願いがあるんだ」


「なんだろう?」


「私に剣を、レミリアにスタッフを作ってくれないか?」


「ええ!?」


「私はレミリアを護る剣が欲しい。是非とも君に作って欲しいんだ。私達を祝福するつもりで頼めないかな?」


 他の三人を見ると頷いてくれた。


「喜んで作るよ!」


「おお。千尋が作ってくれるのか! そうじゃな、それならば儂が素材と場所を提供しよう」


 二人揃ってありがとうと礼を言う。


 嬉し涙を流しているレミリアに駆け寄るリゼとミリー。

 リゼは良かったーとレミリアに抱きついている。


「レミリアさん! レオナルドさんの事どうおもってたんですか!?」


「想っても仕方がない事だと…… でも諦めようとしても諦めきれず…… ずっとお慕いしてました」


 涙が止まらないレミリア。


「きゃー! もうレミリアさんてば可愛いー!」


 テンションが上がりまくるミリーだった。

 リゼもそんなレミリアを見て涙がこみ上げてくる。


「おめでとう、レミリア」


 言うとリゼも涙が溢れ出す。




 レオナルドに近づいていく千尋と蒼真。


「レオナルドは男だな。さっきのを見ていてカッコいいと思ったよ」


「だよねー! カッコ良かったよ!」


「初めてを強調したのはわざとか!?」


「あははっ、おめでとう!」


「んん、儂も嬉しい! 今夜は宴にしよう!」


「父上がこんなにあっさりと認めてくれるとは思いませんでしたけどね」


「ああ、息子の幸せを願うのは当然じゃろう。お前が選んだのなら文句は言うまいよ。それにレミリアなら儂も大歓迎じゃ」




 涙を拭いながらもレミリアは言う。


「リゼ。あなたもロナウド様から言われたんだからはっきりさせないとダメよ?」


「ほえ!?」


 矢面が自分に向き焦るリゼ。


「そうじゃリゼ! お前は何故断ったのじゃ?」


 涙が止まり、代わりに汗が流れるリゼ。


「え、えー…… あ…… そのー」


 俯いてしまうリゼ。


「なんじゃリゼ! はっきりせんな。男子たるものビシッとせい!」


「リゼは男ではありませんよ父上」


 赤面して俯いたままのリゼを見てレオナルドが嘆息しつつ助け舟を出す。


「リゼにももう少し時間を与えてあげてはいかがですか? ずっと研究所にいたわけですし」


「そ、そうですよ! 好きだけどそう簡単には言えない乙女心を少しは察してあげてください!」


 と、何かを踏み抜くミリー。


「なんじゃと!?」


「ええ!? リゼは好きな人がいるの!?」


 驚くロナウドと千尋。


「あ!! いや! ナンデモナデス!  ってこの男マジかぁ!?」


「千尋…… まじか……」


 そんな千尋に驚くミリーと蒼真。


「んん、そうじゃな。この千尋みたいのなら儂も許すが…… こんな男なら良い。まぁ女のような見た目にはこの際目を瞑ろう」


「なんて言った!? このおっさん!」


「千尋、お前から見てどうじゃ? リゼは」


「えー、オレはリゼ好きなんだけどねー。好きな人いるのかー……」


「「「「「!?」」」」」


 千尋は別に気持ちを隠す気はないようだ。


「おお! そうなのか! 千尋はなかなか見所があるのぉ!」


「でもねー、まだリゼの方が強いからね。今のままじゃダメなんだよ」


「ぬぅ。確かにそれはいかんな」


 ふと振り返るとリゼは泣いている。

 リゼがボロボロと涙を流しているのを見て、ミリーが口を開く。


「あの!! そろそろお話しは終わりにしませんか!? レオナルドさんとレミリアさんのご結婚が決まったわけですし!!(リゼさんこの後部屋行きます)」


「ロナウド様。レオナルド様と私をお許しくださりありがとうございます!(私もリゼの部屋に行きます)」


 二人とも最後の一文だけ早口でボソッと言った。


「君達は本当に面白いね!」


「ふむ、とりあえず宴の準備じゃ」


「ロナウドさん、その前に修理の手配もお願いします」


「ぬぅ…… そうじゃった……」


 騎士を呼んで修理の手配をさせるロナウドだった。






 この日からしばらくの間、ロナウドの邸宅に泊まることになった。

 レオナルドとレミリアの武器を作るまでの間、空いている部屋を使わせてもらえる。

 空いている部屋は多くあり、別に四人が何ヶ月泊まろうが問題ない程の豪邸だ。



 

 リゼの部屋に行く女性三人。


 泣き続けるリゼ。


「もぉ、リゼさん! 泣きすぎですよ!? 千尋さんが好きって言ってたじゃないですか! もう言うことないですよ!」


「そうよリゼ。両想いって事じゃないの。どうしてそんなに泣いてるのかわからないわ」


「ヒック…… グスン……  だって。ミリーが急に言うから…… ヒック……」


「あわわ 。スミマセン!」


「…… グスン。それに…… ロナルド様が千尋なら良いって」


「そう言ってたわねぇ」


「そ…… そのあと。千尋がすっ…… すすす…… 好きって言うから!」


「言われましたね!」


「…… ヒック。ビ…… ビックリして涙が止まらないのよー」


「んもぉ! リゼさん可愛いーーーーー!!」


 ガバッと抱きつくミリーと微笑むレミリア。




 しばらくして落ち着いたリゼ。


「ごめんね。二人ともありがとう」


「私こそゴメンなさいです……」


「でもあれはあれで良かったんじゃない?」


「あははっ。そうね。いろいろスッキリした。それよりー、レミリア! おめでとう!」


「レミリアさんおめでとうございます!!」


「本当にありがとう。私も……  こんな事になるなんて……」


  また泣きそうになるレミリアだったが。


「もう泣くのはやめましょうよレミリア」


「何言ってるの? リゼが泣きすぎて私の涙が止まっちゃったのよ?」


「お二人共幸せそうでいいですねぇ!」


 むふふーと嬉しそうに見ているミリー。


「ちょっと待って。ミリーはいくつなの?」


「え? 十八歳ですけどそれが何か?」


「それが何か? ではないですよミリーさん。あなたはどうなんですか?」


「何の事ですか?」


「ミリーは好きな人とかいないの?」


「ああ、そういう話ですか!? 考えた事もなかったです!」


 ガクッとするリゼとレミリア。


「蒼真さんなんてカッコいいと思いますけどどうなんですか?」


「仲も良いわよね?」


「蒼真さんですかー? 良い人だとは思いますけど私なんて相手にしませんよー」


 手をパタパタと振って笑うミリー。


「ん? あれ? レミリア。ミリーってすごく可愛いわよね?」


「そうね。私が知る中でも一、二をを争うほど可愛いわよ?」


「そんなわけないですよーあっはっはっ」


 笑うミリーを見て不思議に思うリゼとレミリア。


「ミリーは自分の事をどう思ってるの?」


「え? 自分の事ですか? 私は子供の頃から近所の男の子にブスって言われてましたからね! 身の程をわきまえてますよ!」


「あー……」


「それは……」


「できれば美人に生まれたかったですよー」


 笑いながらいうミリー。


「ちょっとミリー。千尋と蒼真に自分の事を聞いて来なさい!」


「ええ!? 私だって傷付きますよ!?」


「いいから聞いて来てください!」


 部屋から出されてしまうミリーだった。




 渋々と千尋と蒼真の部屋に向かうミリー。


「はぁ…… あの二人にブスとか言われたくないな…… さすがに泣いちゃいますよ」


 そう思いながら歩いて行くと廊下でしゃがみこんでいる千尋を見つける。


「千尋さん?」


「あ、ミリー。リゼは大丈夫だった?」


「はい! 落ち着きましたよ!」


「なんかオレのせいで泣いたのかなーと思ってさ、リゼ好きな人いるって言ってたしなー……」


「千尋さんはたまーに頭悪いですよね? あれはビックリ泣きだそうなので大丈夫です!」


「驚いて泣いたって事?」


「はいそうです。むしろグッジョブです!」


「なんでグッジョブ?」


「気にしないでください。それより…… あのですね…… できれば聞きたくはないんですが……」


「聞きたくないのに聞くのかな?」


「はい…… あの、私って千尋さんから見てどう見えますか?」


 俯いて地面を見つめるミリー。


「え、見た目かな? 可愛いと思うけど?」


「ええ!? 可愛い!?」


「え、うん。蒼真も可愛いと思うよね?」


「ああ、ミリーは可愛いだろ」


 後ろから歩いてきた蒼真が答えた。


「そうなんですか!?」


「蒼真が言うんだよ? 可愛くないもんには絶対言わないんだよ? 間違いないよ!」


「そうだな」


「じゃあロナウドのおっさんは可愛いか?」


「全然」


「レオナルドは可愛いか?」


「全然」


「ライルは可愛いか?」


「普通だ」


「レティは可愛いか?」


「まぁまぁ」


「オレは可愛いか?」


「可愛いとは思う」


「ぎゃーーー!! 合わせろよ蒼真!!」


「思った通り言ったまでだ」


 蒼真に可愛いを否定させてカッコいいと言わせたかった千尋。

 蒼真は基本嘘は言わないが、時々頑張って嘘を言う事もある。千尋をカッコいいと言う時などはしっかりと言葉を選んでいる為棒読みになる。


「いいえ、よくわかりました」


「ええ!?」


「私ってそこそこ可愛いんですね?」


「ああ、自信をもっていい」


 やったー!! と言いながら走って行くミリーだった。


「何をしに来たんだろね?」


「さあ?」




 リゼの部屋に戻ったミリー。


「私も可愛いって言われました!」


「でしょう? だから好きな人はいる?」


「それは追々と言う事で!」


「ミリーさんらしいですね」


「んもぉ……」


 その後もご機嫌なミリーだった。






 夜の宴。


 聖騎士や魔術師長も呼んでお祝いとなった。


 呼ばれたのは良いが酷く落ち込んでいるダルクやテイラー。

 ルーファスやハイドはリゼを見てビクついている始末。


 魔術師長マールもレミリアとレオナルドの婚約を祝いに来ていた。


 ロナウドの妻エリザもとても嬉しそうだ。

 レオナルドやレミリアを見てはロナウドに話しかけている。

 仲のいい夫婦なのだろうと見てとれる。


 二人の婚約のお祝い。

 聖騎士達も仲間であるレオナルドの婚約とあれば嬉しく思い酒もすすむ。

 落ち込んだり怯えたりしている今日の聖騎士被害者達も、次第に千尋達とも打ち解けていった。


 明日からしばらくお世話になる事と、蒼真とミリーが訓練に参加するという事もあっさり受け入れてくれた。

 蒼真の魔法論を聞き、落ち込んでいたはずのダルクが最も興味を示していた。


 ミリーはテイラーから次々と注がれる酒をグイグイ飲んで気分が良さそうだ。

 酔いが回ってくる度回復魔法をかけるのはどうかと思うが。


 千尋やリゼも主役であるレオナルドやレミリアと酒を飲み交わし、ロナウドはベロベロになる程飲んでいる。

 エリザはそんなロナウドを怒るでもなく一緒に酒を楽しみ、レミリアやリゼとも飲み交わしながら数えきれない程のボトルを空けていた。


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