第6話 千尋と蒼真の武器
十三日目の朝。
今日も早起きだ。
レベル4になるのが嬉しくて、いつもより早起きした事は秘密にしておこうと思う千尋。
(まさか五時に起きるとは……)
二度寝する気もないので身支度をする。
そしてテラスに出て伸びをしながら朝の冷んやりした空気を吸い込む。
椅子が朝露で濡れていたのでタオルで拭いてから座る。
そこへコーヒーを二つ持ったリゼが出て来た。
なぜか笑っているのを訝しげに見る千尋。
おはようとお互いに挨拶をして、千尋はコーヒーを受け取った。
「レベルアップが嬉しくて早起きしたのね」
顔を赤くした千尋を見てまた笑うリゼ。
リゼこそ早起きじゃないかと言うと、千尋が早起きするのを予想してたとの事。
(ほんと恥ずかしい)
「千尋、冒険者になるのよね?」
真剣な表情で問われる。
「そうだよ。この世界を見てみたいからね」
「危険な
「もっと強くならないといけないね」
「千尋達の魔力はこの世界の人達より低いってわかってる?」
リゼは拳を握り締めている。
きっとそんな事は言いたくはないんだろう。
「安心して、リゼが認めるまではここを出たりはしないよ」
リゼは以前パーティーが全滅したと言った。
目の前で仲間が死んでいったのだろう、その悲しみは計り知れない。
過去を聞くこともできずに、ただ彼女を千尋は笑顔で見つめていた。
涙目で俯くリゼを見て、強くなりたいではなく強くなろうと心に決める千尋だった。
午前は筆記テストとなった。
文字は全て覚えたので特に苦もなく全問正解。
次に魔力測定をし、二人ともレベル4となっていたのだがやはり低い。
千尋:レベル4 1,674ガルド
蒼真:レベル4 1,820ガルド
魔力測定が終わってもまだ十時を回ったところだ。
リゼから冒険者としての知識を一通り聞かせてもらい、必要な物が出てきた。必須と言ってもいい。
それはもちろん武器である。
魔法である程度戦えるとはいえ、魔力はいずれ枯渇する。魔力量の少ない二人なら尚更だ。
リゼは自分にどんな武器が必要か、戦いのイメージはあるのかを聞いてきた。
千尋は持っていた袋からジャラジャラと石を取り出した。
それは一定の大きさに揃えられた魔石。
その魔石に火属性魔法を込め、火薬として使用するという。
蒼真は剣が欲しいと言う。
時々街に出かけた際に見た武器屋。
しかし蒼真が求めるような剣は無く、作る事は出来ないかと考えているらしい。
二人とも武器を作るという選択をする。
この研究所では武器の開発もしている事を聞いていた。
その為、売っているものではなく作るという選択をしたわけだ。
リゼに連れられて開発室へと向かい、二人の武器を作成する事となった。
開発室は思ったより狭く、鍛治は出来ない。
素材は多く、魔法で加工するだけならここでできるそうだ。
リゼは開発担当のラトに二人の武器を作りたいと頼むと、千尋達が作る武器を参考にしたいので図面を貰うという約束で了承された。
まずは設計である。
千尋が作るのは銃だ。
趣味でサバゲーをしていたこともあり、銃にもある程度は詳しい。
本物とモデルガンの違いはあるが、興味のある事は一通り調べてある千尋には問題なかった。
イメージを図面に書き出し、寸法も書き込む。
作るのはあえてリボルバーにした。
精密に書き込まれていく図面を見てリゼは感心する。
一方、蒼真は剣ではなく刀を作ってもらうとの事。
この世界での一般的な鋼鉄の剣は鋳造となるが、街で見た剣はどれも諸刃の剣で、必要以上の厚さのある剣に全く惹かれなかった。
そして刀鍛冶などこの世界にはいるはずもなく。
しかし、ミスリルを素材として作る場合は削り出すだけでいい。
ミスリルは魔力の流れが速く、武器素材として優れているのだが加工が難しい素材との事。
だがその程度の事を蒼真は心配していない。
何故ならば蒼真の隣には無類の器用さを誇る千尋がいる。
ある程度自分の要望を伝えれば間違いなく最高の物を作ってくれるはずだと、完全に他力本願である。
リゼは仕事があるからとラトに頼んで開発室を後にした。
千尋が一息つくと、蒼真が声をかける。
「千尋。オレの持ってる居合刀覚えてるか? あれを作りたいんだが」
千尋は以前蒼真が説明してきた事を思い返しながら寸法を書き出す。
二人はお互いに得手不得手がわかっている。
物を作るのなら千尋が作る。
千尋に足りない知識は蒼真が補い、作業もサポートに徹する。
ミスリルの加工方法は調べてあったので把握している。
加工の仕方は二人で行うそうだ。
ミスリルは魔力が流れやすく、若干の魔力が入っている。
まずはミスリル素材に自分の魔力を流し、魔力を操作して端に寄せる。
完全に魔力を失ったミスリルは加工がしやすく、魔力で強化したミスリル工具を当てて加工するのだ。
加工するのはもちろん千尋。
蒼真はミスリル素材の魔力操作を行っている。
この作業は思いの外手早く進み、高い魔力制御の二人だからこそ可能な早さだった。
ミスリルの素材となる板から刀に必要な分だけ切り出して加工していく。
工具を使ったことのない千尋も、持って生まれた器用さで問題なく加工できた。
加工の仕方について書かれた資料を読みながらの作業だったが、工具その他は良いものばかり揃っていた為それほど苦労はない。
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作り始めて六日目には刀が完成した。
蒼真の刀。
銘は【
刀身は紫、刃は薄紫の日本刀。
実際には日本刀ではないのだが、蒼真が異世界に来る前に使用していた居合刀を模して作ってみた。
薄いミスリルの削り出しだが、魔力を通せば相当な強度と硬度となる為問題はない。
刃もミスリルの粉末に魔力を通して磨き込んだ甲斐あって切れ味は抜群。
刀身は鏡面、刃紋は千尋が必要以上のこだわりを見せて研磨と色で再現し、孫六兼元を思わせる美しい三本杉となっている。
柄はミスリルの刃と同じ薄紫、柄糸は濃い紫で仕上げた。
鍔は黒と金で着色され、和を思わせる桜模様として、他の拵えも金と黒で装飾と着色をされている。
鞘もミスリルで作ってある。
着色魔石を粉末にし、青と黒を混ぜて風魔法でブラストする。
鏡面ながらラメが入ったような仕上がりの鞘になった。
全て鏡面まで磨き上げた為、どこを見ても顔が写り込む。
銘は千尋がふざけて付けたのだが蒼真は気にしていない。
次に千尋の銃を作り始める。
そのうち魔法弾を撃ち出す予定な事と、構造が簡単な物という事でリボルバー式。
基本的には鉛の弾を使用する。
火薬代わりに魔石にファイアを込める。
バレルとシリンダーは硬度の高い金属を使用し、他は全てミスリル製。
全てミスリル製にすると魔法弾が暴発する危険性がある為との理由。
もちろん銃弾の直進安定性を高める為にもライフリングをしっかりと丁寧に加工してある。
銃は完成してからが時間がかかった。
理由はやはり千尋のこだわりの装飾の為だ。
黒地に金の装飾銃で、金の縁取りに草花の彫刻。
鏡面と艶消しで黒の中にも深みを持たせた。
そして弾丸を作る為のミスリルの型も作った。
鉛は弾が減ったらその都度購入し、ミスリルの型に熱を加える事で鉛を溶かして作る。
溶けた鉛にまだ魔法を込めていない魔石を乗せて型から外し、魔石にファイアを込めて完成となる。
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二人の武器が完成するまで十五日程かかったが、その甲斐あって性能も上々。
ラトは自分の分も欲しいと言っていたがスルーした。
お礼を言い図面を渡して武器の作成は終了した。
千尋が装飾や着色にこだわった為、暇を持て余していた蒼真は刀の素振りをしていた。
剣道や剣術は人間を相手取ったものだが、冒険に出れば戦うのは
敵は違えど訓練しておくに越したことはない。
現在十五時。
千尋の銃が完成し、研究者達を集めてのお披露目となった。
リゼが冒険者として千尋と蒼真を送り出すなら、それ相応の力を研究者全員に示して欲しいと言った為だ。
千尋達の魔力は他の人に比べて極めて低い。
まだ子供並みの魔力しか持たない彼等が
力を示す。
それならばと、研究者達はゴーレムを二体作り出した。
このゴーレムはレベル4の冒険者が数名のパーティーでようやく倒せる強さだ。
それを二体。
研究者達から見ても千尋達に勝ち目はない。
彼等の魔力の低さから、まだ冒険者として送り出せないという気持ちからだった。
しかし、研究者達の予想とは全く別の展開。
ほんの一瞬の出来事だった。
蒼真はゴーレムを正中から真っ二つに斬り裂く。
千尋は一発の弾丸をゴーレムの胸元に撃ち込み、ゴーレムはアッサリと崩れ落ちた。
二人は胸元に魔力が集中している事を見抜いていたのだ。
お披露目どころか一瞬だった為、研究者達も唖然としていた。
その後は精度の確認という事で、千尋は数発の弾丸を撃ち出した。
夜はテラスで話をする。
明日は冒険者として登録する事や、宿を探す事をリゼに指示される。
そしてパーティーメンバーを探す事。
二人では囲まれた時に対処しきれなくなる為だ。
リゼはまだ心配をぬぐいきれないが、千尋も蒼真も当分はこの街を拠点に冒険するというので少し安心した。
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