第4話 魔法
翌朝、目覚めるとまだ六時前だった。
たぶん昨夜寝るのが早かった為かとも思う。
顔を洗って歯を磨き、外のテラスに出てみる千尋。
「早起きだな、蒼真」
また魔力の練習をしている蒼真がいた。
「おはよ、千尋も起きるの早いじゃないか」
蒼真は魔力球を遠くに置いたまま、顔だけこちらを向いて応えた。
そして手元に魔力球を引き戻す。速くはないがブレずに戻ってくる。
「いくら速く動かそうと思っても動きが速くならない。オレは遠距離の魔法は向いてないのかもしれないな」
そう言えばリゼが言っていた。
魔力の移動速度は魔法の速度であり、そこから考えると千尋は遠距離魔法が向いてるという事か。
まぁ近距離魔法も遠距離魔法も魔力の制御はこのやり方が効率的との事だったので問題はない。
千尋も魔力制御の練習をして、しばらくするとリゼが起きてきた。
「おはよう、早起きね。朝練なんて頑張るじゃない」
リゼは二人の練習を見て魔力の制御がしっかり出来ていると判断し、次のステップに進もうと判断する。
朝食を終えて一休みしてから文字の勉強を始めた。
今後は午前は文字のを勉強し、午後から魔法の練習というスケジュールだという。
文字の勉強を一通り終え、昼食をとっていたところにコーザ達がやって来る。
また昨夜同様いろいろな情報交換をし、千尋達の言葉をリゼも興味深く聞いていた。
午後からは魔法の練習だ。
「ん? 魔法?」
「魔力制御じゃないのか?」
「それだけ制御出来ているならレベル2になっていてもおかしくないわ。はい、これ。測ってみて」
魔力測定器を受け取って、少し待つ。
千尋:レベル2 422ガルド
蒼真:レベル2 454ガルド
「うーん、やっぱり低いわね。でも魔法は使えるから頑張りましょう」
あまり気にせずいこうと思う。
「魔法はイメージ力よ。呪文を唱える魔術もあるけど、魔術はイメージを明確化させて威力を高める為に呪文を唱えているの。誰もが使う魔法はイメージだけだから、たぶん地球人ならイメージ力の高さならアッサリ……」
言い終える前に手から火を出す二人。
「熱くないんだな」
「…… 自分の魔力をイメージで燃やしてるわけだからね。本人は熱くないわよ」
そっと蒼真が千尋に手を近づける。
「ぎゃーーー!!」
熱かった。
叫ぶ千尋と手を見つめる蒼真。
「なるほど」
「なるほどじゃねーよ!」
呆れた顔でリゼは見ている。
「他の属性も試してみて」
蒼真は風属性魔法を試し、千尋は池まで魔力球を飛ばして水属性魔法を試す。
風属性や水属性は少しイメージしづらかった為時間がかかった。
水属性魔法は水に魔力を溶け込ませるイメージで操作でき、大きなの水の玉を作って自分の目の前にフヨフヨと浮かせている。
風属性魔法は魔力球を大気の一部と見立て、回転させる事で風の玉を完成させた。
千尋の作った水玉に蒼真の風玉を当てて飛び散らせて遊んでいる。
火に比べればかなり難しかったのだが。
「ほんと、あなた達には驚かされるわ」
「なんで?」
「普通魔法をイメージするのに時間がかかるのよ。だいたいあなた達はまだ魔力に目覚めて二日目よ? イメージを魔力に乗せてそのまま発動するなんてなかなか出来ないものなのに」
イメージ力というのがやはりこの世界の人間とは違うらしい。
例えば地球では火が燃える事の仕組みくらいみんな知っている。
物体が燃えるのではなくガスが燃えているとし、魔力をガスに見立てたイメージをすればすぐに可能だった。
それからも全ての属性魔法を練習し、あっという間に三時間が過ぎて十六時になっていた。
今日は服を買いに行こうと誘われたが、お金を持ってないと告げると研究所で出してくれるとの事だった。
まぁ、理由は昨日聞いた通りだ。
服を買いに来たのだが、この世界に来て初めての街。
店の並んだ通りと反対側には屋台が並んで様々な食べ物が売られている。
服屋に向かう三人。
初めて見る世界に感動する千尋と蒼真。
冒険者であろう鎧を着た者やローブを着た者もいる。
他の人達は普通の服を着ているようだが、装備を着けている人はやはり目立つ。
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていてすごく見られている事に気がついた。
それも当然、地球から来た千尋達は制服を着ているわけで、自分達の方が目立たないわけがない。
服屋に着いて自分の好みの服を数着選び、下着もトランクスが売っていたので購入。
「今後冒険者として過ごす事になると思うけど、そうなると服以外に防具が必要になるわ。防具は洗浄魔法で綺麗にするけど、着替えとして防具を持つ人はいないわね」
洗浄魔法は是非とも覚えたい。
その後他の店も覗きながら、屋台で少し買い食いをして研究所に戻った。
何の肉かわからない串焼きだったが、塩加減が絶妙でとても美味しかった。
夜に買ってもらった服を着てみたのだがやはり仕立ては悪い。
しかし、魔力に目覚めた時点で身体は強くなっているらしく、着心地もそんなに悪くは感じられなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから数日の間は勉強と魔法の練習を繰り返す日々。
文字もある程度読めるようになり、魔法の発動もスムーズにできるようになってきた。
この世界に来て五日目にはレベル3になり、魔力測定で落ち込んだ。
千尋:レベル3 860ガルド
蒼真:レベル3 923ガルド
リゼは二日おきに魔法を見てくれている。
仕事もあるので二日おきでも見てくれるのはありがたかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この世界に来て十日目。
いつも通り今日も午前は勉強、午後から魔法の練習だがリゼが見てくれる日だ。
これまでいろいろ試してわかったが、魔力の放出の仕方もいろいろとできるようだ。
「魔力制御次第でいろいろできるよな。火とかなら簡単に」
不思議そうに見ているリゼ。
蒼真は右手人差し指から噴き出すように火属性魔法を放出してみせる。バーナーの要領だ。
それを見たリゼは驚いた。
この世界では見た事のない青い炎。
収束する炎を見るのも驚きだった。
千尋はというと、右手に火を出して手のひらで球状にする。
手に収まる程度の火の玉を圧縮する。
ビー玉ほどに圧縮された火の玉を遠くに飛ばすと、地面に当たって爆発する。
威力は大した事なかったが、これにもリゼは驚いていた。
リゼは火属性魔法を爆発させる場合に、魔力の密度を高めた火球を風魔法で覆っている。
着弾点で発火、そこに風を送り込み爆発力を高めているのだが、千尋は魔力量は高めてなかった。
手のひらに出した火球を圧縮しただけだ。
「そういやリゼ。魔力球もさぁ、魔力量を変えずに大きさ変えれるんだね」
「え? そんなの私できないけど?」
「あれ? 見てよ、こうだよ」
魔力量を多めにして頭の大きさほどの魔力球を出す。
千尋の魔力量の半分程の魔力球を、この状態から圧縮していく。
小さくなった魔力球は光量が上がり、とても眩しい。
そして……
光が消えて何かが落ちた。
「これは…… 透明な丸い石?」
拾い上げて見つめる千尋。
「ちょっ! ちょっと貸して!!」
リゼの声に驚きつつも石をリゼに渡す。
じっくりと石を見つめながらリゼが肩を震わせている。
「リゼ、どした?」
「どしたじゃないわよ! これは私達が研究してたうちの一つよ!」
魔力の結晶化らしい。
魔獣が結晶化するのと同じらしいが、人為的に作る事はこれまでできなかったようだ。
「リゼ、その結晶は千尋がただ魔力を込めたものだよな? どんな効果があるんだ?」
「んー…… たぶん無属性の魔石だと思うわ。この魔石に魔法や効果をイメージして持たせれば何にでも使えると思うんだけど…… 試してみたいけどまた作れる保証は無いわよね?」
「ん? あるよ?」
と、千尋はまた魔石を渡す。
話してるうちに作ったらしい。
いとも簡単に作る千尋に呆れるリゼだったが、コーザ達他の研究者にも見てもらいたいからちょっと待っててと駆けて行った。
待ってる間蒼真も試していたが作れなかった。
研究者達が話し合い、
代表としてコーザが魔法を込める事になった。
込める魔法は火属性で、結果が見てすぐわかるからとの理由だ。
コーザがイメージを込めると魔石が一瞬光を放つち、魔石に魔法を込める事ができたようだ。
発動実験をするその前に、一度込めた魔法を書き換えられるか試す事となったが、一度込めた魔法は解除されなかった。
ミスリルに魔石が触れると発動するが、
魔石を地面に置いて少し離れて見守る。
コーザが魔法名を唱える。
「ファイア!」
!!!!!!!!!!
爆発。
予想以上の爆発に一同唖然とし、そしてキーンという止まない耳鳴り。
何も聞こえないのに実験の成功を喜ぶ研究者達。
魔石を置いた場所は深く抉れていた為、近すぎたんだと思う。
みんな土を浴びて泥だらけだった。
耳鳴りが収まったら研究者達は実験の結果からあーだこーだと話し合い、数人はメモをとっている。
ファイアじゃなかったという言葉も出ていたのは気のせいだろうか。
千尋はその後同じ魔石を作って見せた。
「実験に協力してくれるね!?」
と研究者達が迫ってきたので蒼真の後ろに隠れる千尋。
蒼真は自分の魔法を試していたらしく水属性魔法を使用していた。
水を棒状にして凍らせ、自分の魔力の為か冷たさを感じてるようには見えない。
と、思ってたら放り投げた。
どうやら冷たかったらしい。
火は自分の魔力を燃やしているから熱くない。
氷は自分の魔力で冷やしたとしても、水自体は魔力そのものではない為凍らせると冷たいようだ。
氷を見た研究者達はまた驚愕した。
これまでこの世界で氷の魔法を使う者がいなかったためだ。
氷の魔石や魔術、魔導はあるものの、魔法で使う人間は存在しなかった。
研究者達は千尋と蒼真を囲み、研究に協力して欲しいと頼み込む。
魔法である以上一定の力を持つ。
個人で生み出したものであるならば断る事も可能なのだが、ここで世話になっているお返しができると承諾した。
研究者達が去り、また訓練を再開する。
イメージを魔力に乗せるのが魔法である為、リゼも特に教える事がないからと研究者達について行った。
時間はまだあるし千尋と蒼真は地属性魔法の練習を始める。
千尋は土を盛り上げ、自分の身長ほどの城を作り出し、魔法で砂遊びみたいな感覚だ。
さすが器用貧乏、細部まで細かい造形に本人も満足気だ。
蒼真は砂を巻き上げて棒状に形を作る。
砂の木刀のようだ…… 木ではないが。
それを素振りし、ある程度の強度がある事がわかる。
そして千尋の土の城に近づき、振りかぶる。
「いくぞ。千尋!」
振り下ろす砂の刀。
「させるかぁぁぁ!」
城の前に土の壁を作り防御すると、砂の刀はアッサリ崩れた。
「やはり脆いな」
また砂場から砂の刀を作った蒼真。
土の壁に袈裟斬りをすると土の壁が切り落とされた。
砂の刀もなくなっていたが、驚く千尋に蒼真が説明する。
「切る瞬間に砂を流動させた。流動した砂を戻す事ができなくて散ったけどな」
恐ろしい事をする奴だった。あれだと人体も叩き斬れそうだ。
ここ数日、魔力の消費を考えずに魔法を使用していたため、二人は何度もマインドダウンで気絶した。
最初は蒼真が倒れた時に焦って水をかけたりもしたが、三十分ほどで目を覚ましたのでマインドダウンと判断した。
そのおかげもあってか、だんだん自分の魔力の量を感覚で把握できるようになってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます