第16話 廃工場にて
廃工場の中を怪異を探して進む源治と亜紀、しかし思ったほど規模が大きいせいか一向に怪異は見つからないままでいた。そんな中退屈からか亜紀が源治に話しかける。
「源治殿はどうしてこの仕事をやっているんですか?」
「俺か?そんなもん喧嘩が好きだからに決まってるだろ。他の奴らはどうだか知らねえけどな。・・・あとは」
それを聞いた亜紀は愛想笑いを浮かべるが急に体ごとこちらに振り向いた源治に驚き足が止まる。
「お前これ誰にも言うなよ?土下座してでも俺のところに来たいって言ったお前だから言うんだからな。・・・・・俺、正義のヒーローってやつになりたいんだよ」
「・・・へ?」
恥ずかしそうに話す源治を見て亜紀から間の抜けた声が漏れる。
「俺は昔暴れるだけしか脳が無い男でな。そんな時気まぐれで見たテレビのヒーローってのが、凄え力を与えられて人外になったのに人間のために戦うのって話で滅茶苦茶かっこよかったんだよ。そんで俺もこう思ったんだ「こんなかっこいい男になりてぇ」ってよ」
そんな事を話す源治の瞳はまるで普段のやさぐれたものとは違い子供のようにキラキラと輝いており、それを見た亜紀は肩から力が抜け、ふふっと小さな笑みが漏れる。
「あっ!お前今笑ったな!あのなぁ俺は・・・・」
ふいに黙った源治の雰囲気が今までの和気藹々としたものではなくなりその鋭い目は事態が飲み込めず動けないままの亜紀の後ろを睨みつける。
「源治・・・殿?」
「俺が合図したら横に跳べ。後は俺の後ろにいろ」
簡潔に伝えられた指示に亜紀は黙って頷く。そして少しの静寂が場を支配すると
「飛べ!」
その言葉と同時に亜紀が横へと思いっきり跳ぶと源治は放たれた弾丸のような勢いで真っ直ぐに走り出す。走りながら背中の剣を抜けば謎の影の手前で体を横に一回転させ殴りつけるように剣を振るうが
「結構本気で振ったんだがな・・・」
謎の影の正体は文字通りの黒い「影」だった。影を纏めて球体にしたもの、それが源治の振った大剣をまるでスポンジを殴りつけたかのように凹むことで完全に防いでいた。
「うおっ!」
源治はめり込んだ大剣をそのまま剛力を持って振り抜こうとしたが球体の反発力が強くそのまま弾き飛ばされ体制が崩れる。その隙を逃さずに球体から伸びる針が源治を串刺しにしようと伸びるが
「舐めんなコラァ!」
すぐさま剣の腹で針を受け止めるが勢いを殺しきれず剣は手から弾かれ後方へと吹き飛ばされてしまう。
「っ源治殿!」
その光景を見た亜紀は刀を抜き源治に加勢しようとするが。
「来るな!お前じゃ無理だ!」
手で源治に制されその足が止まる。
「こいつはオレ一人でやる!お前は手ぇ出すな!」
そういった瞬間源治の足元の地面から剣山のように無数の針が飛び出してくる。それを源治は横っ飛びで回避すると懐から二丁の拳銃を取りだすとそれを乱射しながら剣に近付こうとするが球体は巧みに針をフェンシングの様に振るい源治を近づけさせない。
「(このままじゃ源治殿が・・・)」
刀を握る亜紀の手が汗で湿り震える。そして
「源治殿!これを!」
亜紀は自分の愛刀を源治向かって投げる。
「バカ野郎!」
それを見た亜紀の元へと走り出そうとするが時すでに遅く
「・・・へ?」
亜紀の腹には腕の程の太さの針が深々と刺さっており、それが抜かれると亜紀は少しその場でふらつきそして糸が切れた人形のようにその場に倒れ込む。
「んの野郎!」
激高した源治が球体に向かって走り出す。向かってきた針をスライディングで避けながら亜紀の刀を拾うと球体に近づき球体の手前でジャンプすれば落下の勢いも加えて球体に向かって刀を振り下ろす。本能的にこの攻撃をまずいと感じたのか球体も己の前で針を交差させ刀を防ごうとするが。
「ジョーカーを引いちまったな」
源治の瞳が赤く輝いた瞬間防御は無意味となりまるで豆腐を切るかのように真っ二つになる球体。そして球体が切れるのに連動したかのように地面にも鋭く一直線の亀裂が走る。真っ二つになった球体はまるで溶けるかのようにボトボトと地面に落ちると煙のように掻き消えそれから姿を表さなくなる。
「くたばったか・・・・っと亜紀!」
驚異が完全に消滅したのを確認した源治は亜紀のことを思い出し倒れたままの亜紀に駆け寄ると。
「・・・・・」
「マジかよ・・・・」
「・・・・うへへへそこは駄目ですってば~」
そこには傷一つなくだらしない顔で寝言を呟く亜紀の姿があった。
こいつはここに埋めて帰ろう。源治がそう決心した時
「はっ!源治殿!?敵は!怪異はどうなりましたが!?」
「もうぶっ殺しちまったよ。・・・それよりも隊長が命がけで戦ってる時にのんきに寝てるとはいい身分だなおい」
「私もあの時はてっきり死んだかと思ったんですって!あっ!待って!拳を振り上げないで!乱暴しないで!ふぎゃっ!」
そして源治の鉄拳が亜紀の頭に振り下ろされる。
「おおおお・・・」
頭を抑えて悶絶する亜紀をに源治はため息を付いて背を向けると
「・・・まぁ・・・・・お前が刀投げてくれなかったらもう少し手こずってたかもな・・・・その、ありがとな」
最後の部分は照れからか蚊の鳴くような小ささだったが亜紀のもとに刀を置き自分の剣を拾えば背負ってバイクの元へと歩いていく。
「あっ!ちょっと待ってくださいよ。最後のところ!なんて言ったんですか!?もう一度聞かせてください!」
同じく自分の刀を拾い源治の後を追う亜紀がこの日二度目の拳骨を食らったのは想像に難くなかった。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます