第10話 廃館にて



 連絡を受けた凛と菫が向かったのは町外れにある廃館だった。すでに入口の前に源治が立っている。


「遅えぞ・・・って菫。お前も来たのか」


「ああ、虫の居所が悪い君を止める役が必要だろう?君だけならまだしも凛くんに危害が及ぶといけないからね」


「・・・・・しゃーねえな、邪魔すんじゃねえぞ」


「今回の怪異ってどんな相手なの?」


「わかんねえ、この屋敷はちょっとした心霊スポットになっててな。最近この辺りで行方不明になる人間がちらほら出てるって話だ。とにかく虱潰しにこの屋敷の中探すぞ。なんかあったら自力で対処しろ」


 それだけ言うと源治はズカズカと一人で扉を蹴破り屋敷に入ってしまう。


「どうやらまだご機嫌斜めみたいだね。それじゃあ私達も行こうか」


 それに続いて菫達が屋敷に足を踏み入れた瞬間先程までは朽ち果てていた屋敷の内装が一瞬で新築のように変化する。


「なにこれ・・・」


「HMM・・・、扉が開かない。どうやら私達は閉じ込められたようだ。古い外装は人の興味を引きつけるためのフェイクということか」


「退いてろ」


 源治がコートの内から銃を取り出し扉に銃弾を撃ち込んでも傷一つつかない。


「この様子では窓からの脱出も不可能そうだ。源治の最大火力ならもしかするかもしれないがそうなった場合近くにいる私達が無事では済まない」


「つまり・・・」


「そうだ、この館に巣食う怪異を討滅しなければ一生このままということだ」


「チッ、ならこのボロ屋の中手分けして探すぞ。なんかいたら問答無用でぶっ殺せ」


 それから源治、菫と凛の二組で屋敷の中を見て廻ったがどれだけ歩いても何も出てこず、むしろ歩くほど同じところを廻っているような感覚に捕らわれた。


「これは、手詰まりだな。少し休憩しよう」


 菫の提案に従い凛達は手近にあった部屋に入ると椅子に腰を下ろす。


「弱ったねこれは、いくら歩けども景色は変わらず。まるで無限地獄だ。おそらく結界内で空間をループさせているんだろう」


「ちょっときついかも・・・」


 椅子に座った凛は目頭を押さえて辛そうにしている。


「景色は変わらずしかも壁も調度品も色が滅茶苦茶だ。視覚的にも精神的にもストレスを感じるのも無理はない。今頃源治も同じ気分だろう・・・・ほら」



 その頃源治は


「うぜええええええ!!色ぐらい統一しやがれこのクソボケがああああああ!!」


 菫達と同じくストレスを感じた源治は手当たり次第に壁や調度品を破壊して回っていた。その破壊音を聞いて肩をすくめる菫と別の意味で手で目を覆う凛。


「恐らくこの屋敷に潜む怪異は人間の負の感情を好むのだろう。それ故にストレスが掛かりやすい空間を作り足を踏み入れた人間をじわじわと蝕んでいく。そうして弱ったところを喰らう。実に合理的な狩りのやり方だな」


「冷静に分析してる場合じゃないでしょ・・・とにかくまずはここから脱出しなきゃ。なにか役に立つものとかないかな」


 そう言って立ち上がった凛は机の中や本棚を探し始める。


「確かにここでじっとしていても始まらないな。私も手伝おう」


 そして手分けして部屋の中を探すこと10分程。凛が本棚にある一冊の日記を見つけた。丁寧な装飾をみるところこの屋敷の元の持ち主のものらしい。


「これ、日記かな?中身は・・・全然読めない。何この文字」


「貸してくれ。・・・・これはドイツ語だな。読んでみよう」


「菫さんって結構なんでもできるよね。何者?」


「おだてても何も出ないぞ?そうだね・・・秘密だ。」


 そう言って片目をつぶりウインクしながら人差し指を自分の唇に当てた後凛の唇に当てる菫の仕草に同性ながら凛はドキリとしてしまう。


「いい女には秘密がつきものなのさ。・・・・・・読めたぞ。どうやらこの屋敷の持ち主はドイツから渡ってきた医者だったようだが、古物商から鏡を2枚買った日から、自分含め家族全員が幻覚を見るなどおかしくなり、最終的には家族を殺した後。地下室に鏡を封印し自らも命を絶った。この日記は遺書も兼ねてるみたいだね」


「地下室に原因がありそうだね。行ってみよう」


「ああ、しかし何が待っているかわからない。屋敷がこんな状態である以上源治との合流は難しいだろう。用心はしたほうが良い」


「大丈夫、私だって城ヶ崎静葉の妹なんだから。むしろアイツより先に怪異を討滅してギャフンと言わせてやるんだから!」


 鼻息荒く意気込む凛に菫は源治が静葉、凛に渡って組む必然性を感じた。


「まるで静葉を見ているようだよ。本当によく似た姉妹だ。」


 2階にいるときは同じ空間を回らされていたが、地下室を目指すとなった途端それがピタリと止み二人はあっさりと一階へ戻ることができた。


「まるで地下に来るのを歓迎しているみたいだね。よほど自信があると見た」


「自信があるのは良いけど地下への入り口が見つからないんだけど」


「ここは私に任せてくれ」


 そう言って手に持っていたスーツケースの取手にある数個のボタンを規則的に押せば、ケースの側面から飛び出してきた銃口から矢のようなものが発射され床に刺さる。


 そして腕時計をみるとそこには簡略化された屋敷の地下の断面図が映っており、地下室への入り口は玄関を入ってすぐの階段の下にあるようだった。


「なにこれ?」


「君や静葉、源治が術式を使ったオカルティックな力で戦うなら私は科学の力を使う。これは発射された矢が刺さった場所一帯の地形をセンサーで読み取れる機能さ」


 そして地下へと続く扉を開けた瞬間今まで密閉された空間が開放されたことで一気に1階へと死臭が流れ込む。そのあまりの濃さに菫は鼻を覆い顔をしかめ凛は顔を背けその場に胃の中をぶち撒ける。


「これは・・・ひどい匂いだな」


「うん・・・これはちょっときつうっぷ」


「無理しなくていい、落ち着いたら下に降りよう」


 その場にうずくまり嘔吐する凛が落ち着けば菫を戦闘に二人は地下へと降りていった。

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