第11話 トラウマ
屋敷の規模にしてはやけに長い階段を菫と凛は降りてった。階段を降りきるとそこは広い空間で所狭しと白骨死体や腐乱死体が乱雑に置かれており、部屋の中央に大きな鏡が一つだけ置かれていた。
「この死体達が匂いの原因か。この屋敷に潜む怪異によって幽閉され心身ともに摩耗した上で喰われたのだろう」
「酷い・・・」
「そうか、凛君は怪異による犠牲者を生でみるのは初めてか。ならば覚えておくと良い。これが怪異だ。品性も誇りもなく、ただ欲望のままに人間を犯し喰らう。まさに唾棄すべき存在だよ。」
吐き捨てるように言う菫その険しい横顔を凛が見ていると、頭上で轟音が鳴り凛たちの前に何が降ってきた。土埃が晴れる頃にその物体はもそもそと動き出し人の形になる。物体の正体は源治であった。
「くそっ、やっぱスーパーヒーロー着地は膝に来るな」
「・・・まぁ上での君の暴れぶりを聞いていると階段には目もくれないだろうとは思っていたがまさかそのまま床をぶち抜いて落ちてくるとはね。」
「お前らもいたのか、お探しの怪異は多分あっちだろうな。気配でわかる」
「そんなことできるのは古今東西探しても君だけだろうね。まぁいい凛君も行こう。源治が降ってきただけで驚いていたらこの先やっていけないぞ」
「えっ、うっうん」
罠があるなど一切考えていない足取りで歩を進める源治とそれに続く凛と菫。そして源治が鏡に触れると
「こいつが怪異だな。ぶち抜くぞ」
そう言って拳を振り上げると。鏡が強い光を放つ。反射的に目を覆う三人。光が収まるとそこに鏡はなく、三人が辺りを見回していると凛の背後から気配がする。凛が振り向くと、そこには一面にヒルが蠢いており一つに集まると人間の形になりゆっくりと凜の方へと歩を進める。
「ひっ!」
ヒル人間を見た凛は過去のトラウマを刺激され顔を青ざめさせると一歩後ずさる。思わず助けを求める様に菫の方に目を向けるが菫も後ずさるほどではないが体を強張らせており、その視線の先には一人のピエロがケタケタと笑っていた。
これがこの館に巣食う怪異「照傷鏡」の本当の能力であった。館の内装や大きさを誤認させるのはこの怪異にとっては小手調べであり、真の狙いは対象が内心恐怖しているものを読み取り見せることで生まれた恐怖を喰らいそして最後には肉体を喰らうというものだった。
凛は幼少期に見たB旧ホラー映画に出てきたヒル人間を、菫には昔襲われたピエロの姿をした変質者を見せることで二人に恐怖を感じさせまずは二人から始末しようと考えていたところに
一発の轟音が鳴り響きヒル人間の頭部が吹き飛んだ。次いで少しの間をおいてもう一度鳴った轟音とともにピエロの胴体に大穴が空き、両者ともその姿が霧散する。
「ないこんなチンケなもんにビビってんだ情けねえ」
二人が振り向くと銃を懐に仕舞った源治がいつの間に取り出したのかタバコを吹かしながら不機嫌そうに二人を見ていた。
「源治・・・君はなんともないのか?」
「あ?森羅万象とりあえずぶん殴れば殺せるんだ、俺に怖えもんなんてあるわけねえだろ。ったく手間取らせやがって」
イライラしているのかコツコツと床をつま先で叩く源治の背後に黒い霧が渦巻く。どうやら怪異はまずは源治から落とす方が早いだろうと源治一人に集中してトラウマを探り始めた。
「ほー、今度はオレ一人を集中攻撃ってわけか、どれどんなびっくりモンスターが飛び出すのかいっちょ拝見してやろ・・・・」
ゆっくりと振り向いた源治がタバコを床に落とす。そこには源治と同じように黒いロングコートを着た黒髪の女性が立っており。何をするわけでもなくその場に立ったままだった。
「誰・・・?っ!」
凛がその女性の姿に困惑していると源治を中心に場の空気が凍りついた。それと同時に凛は自分が数百人の死神に鎌を突きつけられているように錯覚する。
「岩永・・・亜希」
凛の隣の菫も同じように体を硬直させており視線は謎の女性よりも源治に注がれていた。
そしてその源治はというと
「ほお・・・なかなかよくできたレプリカだなオイ」
一歩その女性に近づく源治その右拳には炎が灯っており気づけば源治の足元にも火花が散っていた。
「まずい!凛くん後ろに隠れろ!」
焦った様子の菫が鞄を地面に置くと鞄から何枚もの金属板が展開され防壁を形作る。そして菫は凛を庇うように抱きしめる。
「消し飛べ」
次の瞬間源治を中心として巨大な火柱が屋敷も怪異も菫達も全てまとめて包み込む。
瓦礫すら焼き尽くす高温の火柱が消えると中心に残っているのは源治のみで少し離れた所に菫に抱きしめられたままの凛がいた。鉄板は消し飛んでいるが幸運なことに菫の被害は服が少し焦げたぐらいであった。もちろん凛は無傷である。
「嘘でしょ・・・」
凛は呆然としていた。凛は源治から発せられた火柱を見た瞬間菫の用意した防壁では防ぎきれないと判断し術式で氷の壁を生み出し防御した。他の隊員が扱う炎を一切寄せ付けなかった自慢の氷壁が源治の火柱によって防壁もろとも完全に消し飛ばされていた。
「凛くん、ありがとう。おかげでお互い無傷で生き残れたみたいだ」
「菫さんこそ大丈夫?」
「装備一式が消し飛んだのと熱でブラの紐が千切れたぐらいさ。お互いの命に比べたら安い代償だよ」
二人がお互いの無事を確認していると
「菫、悪いがそこのションベン漏らしたガキ、数日はお前の所に置いてやってくれ。後で取りにいくからよ」
こちらを一切振り向かずに告げる源治に
「ちょっと漏らしてなんかむぐっ」
抗議の声をあげようとした凛の口を菫が手で塞ぎ黙らせる。
「黙っていろ、今の源治に話しかけるのはまずい。最悪殺されるぞ。わかった、凛くんはこちらでしばらく預からせてもらうよ」
菫の答えを聞いた源治は人間離れした跳躍力で先程の火柱で開いた穴から屋敷を出ていく。
あとに残されたのは凛と菫そして静寂のみであった。
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