第4話 決・闘・上・等
城ヶ崎凛は少し後悔していた。
いくら頭に血が上っていたとは言え東京本部1の武闘派であり問題児の葛城源治に模擬戦とはいえ喧嘩を売ってしまったのだ。しかも負けたら何でもいうことを聞くという条件付きで。
もしあんなセクハラおやじに負けたら何を命令されるやらと薄ら寒くなるが、ここで源治に勝てば今までの意趣返しができるしなによりここで引けば姉の敵を討つことなど到底不可能だろうと自分を奮い立たせて愛用の2本の短剣を腰に下げれば姉のお下がりである青色のショートコートを着て部屋を出ると、ちょうど準備を終えた源治がいつもの黒いロングコートを着た状態で右手には愛刀「斬無」(ざんむ)を持って部屋から出てきたところだった。
「ほほー、てっきりビビって出てこないかと思ったが、根性はあるみたいだな」
「そっちこそ、引き返すなら今のうちだよ」
凛も負けじと言い返せば源治の後に付いて歩けば階段を降りて1階まで行くと
「こっちだ」
源治は外には出ずに、階段下にある扉を開けば更に下に続く階段が存在し、そこを降りていく。一番下まで降りればそこは壁も床も全てコンクリートでできた空間で天井に吊り下げられた照明によって照らされていた。
「とりあえず、こっちはこれ一本だけだ。お前はその腰に下げてるやつでも術式でも何使ってもいいぞ。勝敗はそうだな・・・とりあえずどっちかが参ったをかけるまでやるか」
「随分自信あるね、私が勝っちゃうけどいいの?」
「ぬかせ、胸が薄くてケツが青いガキに負けるほど落ちぶれてねえよ」
「・・・泣かす!」
源治と凛、お互いが部屋の中央に少し距離を取って位置取れば凛は双剣を抜き逆手に構えると、源治は刀も抜かずに挑発するようにフラフラとしている。
最初に動き出したのは凛だった、一瞬で間合いまで近づけばいきなり頸動脈を狙い一撃を繰り出す。それを源治は鞘から僅かに刃を抜いた状態で受ける。そこから間髪入れずに体制を低くし足払いを当てようとするがそれも右足を軽く上げることで避けられる。
「甘い甘い」
しゃがんだことでバランスが悪くなった凛の顔面に向けて膝蹴りを行う源治だが凛はそれを無理やり後ろにバク転することで回避する。
体制を立て直そうと正面を向いて武器を構えた凛の視界から源治の姿が消えれば、尻に強い衝撃を感じた。凛の後ろに回った源治が軽く凛の尻を叩いたのだ。
「きゃっ!」
女の子らしい悲鳴を軽く上げてすぐに後ろを向いて構え直せばすでにそこに源治の姿はなく、そしてまた尻を叩かれる。
「その程度じゃまだまだ燃えねえな」
ニヤニヤする源治を見て度重なるセクハラと自分を舐めているとしか思えない源治の態度に凛の怒りが頂点に達する。
「ぶっ・・・ぶっ・・・・野郎ぶっ殺してやる!」
凛は憤怒の形相で源治から距離を取ってニヤニヤ笑う源治を睨みつければ短剣を持ったまま両手を前に突き出し
「氷術、氷雨」(ひょうじゅつ、ひさめ)
凛が術式の名前を唱えると、手を中心に魔法陣が空中に形成され凛の周りに無数のソフトボール大の氷の塊が宙に浮いた状態で現れる。
「行け!」
そう叫べば氷塊は意思を持ったかのように、源治に向かっていく。それを見た源治はようやく刀を抜けば、野球のバッターのように振りかぶり一番最初に間合いに到達した氷塊を斬るのではなく打ち返す。
打ち返された氷塊は後続の氷塊に当たると、氷塊は向きを変え別の氷塊に直撃する。こうしてその繰り返しで、全ての氷塊をでたらめな方向に弾き飛ばせばまだ足りぬと言ったふうに、左手の指をクイクイッと動かしもっと撃ってこいと要求する。
「上等だよ・・・氷術氷成蛇」(ひょうじゅつこおりなるへび)
魔法陣が更に大きくなれば、凛の周りに氷でできた巨大な蛇が生まれる。
「今なら降参してもいいよ。土下座して謝るなら許してあげる」
「やなこった、そんなに負けを認めさせたけりゃお前が直にトドメ刺しにきな」
「そう・・・どうなっても知らないよっ!」
凛が合図すると蛇が源治に向かってその牙を突き立てようとする。
「こんなのは正面からぶっ潰せば・・・ん?」
「あんたなら絶対に迎え撃つと思った。ならこれはどう?」
源治の意識を蛇に向けさせている間に源治の足元から氷の鎖が伸びて源治の手足に巻き付く。
「これでチェックメイト!」
蛇が源治のもとに到達し激しい土埃が起こる。その衝撃で起こった土埃を前に少しやりすぎたかと思ったが、その心配は杞憂に終わった。土埃が晴れるとそこには刀を地面に刺し右手一本で身の丈を超えるような巨大な蛇を止める源治の姿があった。
「なかなかいい攻撃だ、だがさっきも言ったように俺を倒したかったらお前自身が魂込めて斬りに来なきゃな」
源治の左手に炎が灯ると蛇の顎を打ち抜きその衝撃で蛇の全身が瓦解する。
次の瞬間には刀を持ち直した源治が凛に一直線に向かっていく。
「っ! 氷雨!」
慌てた凛が氷塊を飛ばすも正面からすべて叩き切られると凛が迎撃のため双剣を構えた頃には、源治が懐に入り込んでおり、刀の柄を鳩尾に直撃させる。
「かっ・・・!?」
腹部への強い衝撃に凛の意識が遠のく、意識を失う寸前凛が見たのは先程と同じようにニヤニヤと笑う腹立たしい源治の顔だった。
「言ったろ?お前なんかに負けるほど落ちぶれてないって」
凛が目を覚まし源治を見ると、傷一つついておらず、こうも実力差を見せつけられれば負けを認めるしかないと思い憎々しげに源治を見ながら
「・・・参りました、さあ、なんでも命令していいよ。なんならストリップでもする?」
半ばやけくそ気味に言葉を発する凛に源治は
「そんな貧相な体見ても嬉しくねえよ。とりあえずは保留だな。」
そんなことを余裕綽々で言う源治だったが、内心は凛の戦闘技術の高さに舌を巻いていた。剣捌きや体術もそうだが、あの年で術式をあそこまで使うことができることに驚いていた。
この世界における術式とはフィクションで言うところの「魔術」であるが、本来術式の扱いには術に対する深い理解と、才能、強固な精神力が必要である。その点凛は、煽られ激高しながらも見事に術式を扱ってみせた、天才少女という触れ込みもまんざら嘘ではないと源治は感じた。
源治にとって今回の模擬戦は凛の実力を図るためであり、本気で戦わせるために必要以上に煽りもしたが(何割かは素である)結果は予想以上である。ついこれから凛がどう化けるか楽しみだとそんなことを思っているとコートのポケットの中の携帯が鳴り、画面を確認すると凛を更に試すにはちょうどいいとニヤリと笑った。
「おい、ガキ。いつまでも拗ねてないで準備しろ」
「私はガキじゃない、凛って名前があるんだから。で?準備って何を?」
「決まってるだろ、俺達がやることはただ一つ。怪異狩りだ」
屋敷の外では日が暮れ、辺りが暗くなり始めていた。夜の訪れは闇の住人が動き出す時間である、闇の住人とはそうすなわち「怪異」である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます