殺人自由法

すみはし

殺人自由法


母親を殺された息子が言いました。

「犯人に裁きを」と。

赤ちゃんを殺された母親が言いました。

「犯人を殺してくれ」と。

息子を殺されたお父さんが言いました。

「犯人を殺してやりたい」と。

 


何人も何人も、そういった人が出てきたものですから、政府は『復讐自由法』を作りました。

目には目を、歯には歯を、ということで、


・家族または親戚またはごく一部の親しい友人が殺された場合のみ、復讐として同上の関係者、本人の殺人が認められる。


・復讐する際には必ず相手と自分の名前、復讐の動機を届け出、完了後も報告すること。

・尚、復讐する場合にかぎり、復讐相手の名前を投書すれば、住所を公開するものとする。


などの規約が設けられ、この法律は可決されました。



復讐に怯えたのか、新たな殺人犯はめっきり減りました。

無差別な通り魔なんて昨年度の半分以下になりました。

それでも一人では死ねない人や、どうしても抑え切れなかった衝動殺人なんかは残っていましたけど。

このように、効果は目に見えて現れたものですから毎日のように本日の復讐報告なんていう番組まで設けられたほどです。

こうして年々減っていった殺人。

復讐のおかげでほぼ0になりました。

なんと素晴らしいことでしょう。


 

でも、一つだけ問題がありました。

国の人口は減り続けているのです。

復讐の連鎖により人口は法律可決前の3分の1になってしまいました。

殺された家族が復讐に犯人の家族を殺し、犯人の家族がその復讐に殺された家族の近しい者を殺し、殺された家族の近しい者が犯人の家族の近しい者を殺し……終わることの無い無限の復讐が続きました。

復讐を自分で止めるものもいましたが、回り回って殺されてしまいました。

自分の関係の無いところの殺人が復讐として無関係な人間に降り懸かり、無自覚のうちに殺されてしまいました。


 

そうしていつしかこの国は数えるほどの人口になってしまい、疑心暗鬼の人ばかりが残り、みな目をぎらつかせ怯えながら暮らし、子孫を残すことなく滅びていきましたとさ。

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