ゆけ!制約戦隊プロミス!

@balsamicos

ゆけ!制約戦隊プロミス!

「…ちゃん…おに…ちゃん!…お兄ちゃん!起きて!」


激しい揺さぶりと少々甲高い声で目が覚める。


「うぅ…朝か、さわがしい妹の声で目が覚めるのは辛いものがある」


「ちょっとー、声に出てますけどー、そんなこと言うなら明日から蹴り殺すよ?じゃなかった、蹴り起こすよ?」


「ど、どっちにしろ死ぬ!す、すまん、本心ではない!寝ぼけていただけだ、出来心だ!冤罪だ!」


「後半は痴漢の言い訳みたいになってるけどまぁいいや、早く着替えないと遅刻するよー」


「あと、朝ごはんもう出来てるから早く降りる降りるー」


まだ少し頭が冴えないが、制服に着替えリビングへ向かう。


─「本日未明、○○市のコンビニエンスストアにて、強盗事件があり…」


今週で3度目だ。朝のテレビには近所のそう遠くないコンビニで強盗事件があったことを報道している。


「また強盗あったんだー、世の中物騒だねー」


片手にパン、片手に10キロのバーベルを持ちながら妹は呟く。


「どちらかというと、お前の方が物騒な気もするが…」


「なんか言ったー?」


「いや、何でもないです」


妹のマホは高校1年生で、背が小さく愛嬌もある学校の人気者だ。学校では上手く猫を被っているが本性は大の格闘好きで、あらゆる格闘技をマスターした化物だ…。


かくいう俺は広瀬アキヒコ、高校2年生だ。平々凡々なただの男子学生だ。


朝食を終え学校へ向かう。妹も同じ学校だが、一緒に登校するとブラコンだと思われるから嫌だと言うことで、一足先に登校している。


昔はべったり俺の後ろを付いてくる可愛いやつだったんだけどなぁ…。


そんなことを考えていると後ろから声が聞こえる。


「おう、アッキー!おはよっ!」


「あぁ、マサノリ。おはよう」


「今日も相変わらず、妹のことでも考えてたのか?アッキー」


「そんなんじゃねーよ、ただ昔はもっと可愛かったのになーって思ってただけだ」


「考えてんじゃねーか!」


こいつは矢坂マサノリ、スポーツ万能なバカだ。時々勘が鋭いところが厄介だが、基本良いやつだ。


べ、別に毎日妹こと考えてる訳じゃないんだからねっ!


まあそんなことはさておき、いつの間にやら学校に着いていた。


その後、授業も滞りなく行われ放課後─。


帰り際、マサノリから声をかけられる。


「そういや、強盗事件の犯人捕まったみたいだぞ?街も平和になったしさ、どっか遊びに行かね?」


「そうなのか、行きたいのは山々だが、今日は用事があるんだ」


「そっかー、アッキーの用事っていうと、パパさんか?」


「あぁ、今日は会社の方に顔を出せだとさ」


「まぁ、仕方ないな、それじゃまた今度な」


「すまないな、また今度たのむ」


「オッケーオッケー」


マサノリの後ろ姿を見届け、俺は会社へと向かう。


─株式会社ヒロセ。一流製薬会社であるヒロセの社長は広瀬ノリヒコ。俺の父である。


度々、俺は父さんから会社へ呼び出されることがある。しかし大抵は開発された新薬の性能を自慢されるだけだ。


いい加減一言いってやろうと思う。


フロントから一瞬で最上階に上り、社長室のドアを開ける。


「おう!息子よ!39分遅れとるぞ〜」


「ではみんな揃ったし、早速このカプセルを飲んで欲しい」


「父さん、もう特に用が無いのに自慢話するためだけに俺を呼ぶのはやめ…ってこの人達誰?ってかカプセルを、飲むって何の話だよ」


目の前には胡散臭い白髪ちょび髭姿の父の他に、髪が金金に染まった目つきの鋭い女と、見るからにオタクなオタクがそこにはいた。


「レッド、マジおせーよ。学校で遅刻はいけませんって習わなかったのかよ、殺すぞ。」


「レ、レッド殿は今期のアニメはどのくらい抑えているでありますか?」


「え、えーっとこれは一体何の集まりなんだ?ってゆーか、レッドって俺のこと⁉︎」


「イエロー、ブルーとくれば後はレッドしかいねーだろ!殺すぞ!」


「我輩は、桃色ミルキーメープルが今期トップだと思うのでありますが、レッド殿はどう思うでありますか?」


だめだ、話が通じない!仕方がないので父に聞くことにしよう。


「と、父さん…これは一体…」


「よくぞ聞いてくれた!我が息子よ!時は刻一刻と迫る!端的に話そう。」


「今から君たち三人には制約戦隊プロミスとして怪人を倒してもらう!」


「それはさっきも聞いたわ、てかプロミスって約束って意味だよな?制約じゃねーじゃねーか、ぶっ殺すぞ」


「ついに我輩の真の力が目覚めるのでありますね!」


「尚更、意味がわからなくなったんだが…」


頭が痛くなってきた。帰りたい。


「えーっと最初はシラユリくんの質問!制約とプロミス意味違うじゃんという質問ね、その理由は語呂がいいからです。」


「そ、そうか、ならいいんだ」


ならいいのかよ!ってかシラユリって上品な名前だな!


「次にセイヤくんの真の力云々についての質問!君たちを連れてきたのは暇そうだったからです!」


「そ、そんな…あんまりでござるよ…」


えらく直球だなおい!ってか俺もこいつらと同じ部類でみられてるの⁉︎それよりこっちも名前が見た目とマッチしてねーよ!


「最後に息子のアキ…アキヒコくんの質問!それじゃあ、少し詳しく話します!」


この父さ…じじい、息子の名前忘れてやがった。


「今日のお昼捕まった強盗犯についてはみんなわかると思う、彼は欲望を抑えることが出来ず、半分怪人と化している。」

「そんな、彼は搬送中の車から逃げ出したんだ、それを君たち三人で捕まえて欲しい。」


「怪人ってなんだよ、それになんで俺らなんだ」


「まず、怪人について話す、怪人とは犯罪を犯すことに抵抗がなくなり、欲望に忠実になった人がまれに陥る姿だ」

「身体のあらゆるリミッターが外れ、凶暴になる。」


俺の名前を忘れてから、急に真面目になりやがったなじじい。


「次に君たちが捕まえる理由。理由はさっきも言った時間が空いてそうだったからというのもあるが、私の作った制約カプセルが学生のような若い人にしか真価を発揮しないというのがある。」


「それで、その制約カプセルってのは…。」


「制約カプセルとは、私が開発した人間に怪人並みの身体能力を授ける薬のことだ。」

「しかし、デメリットもある。飲んだ使用者は、とある制約を宣言し、自身に課せる必要がある。」


「制約…」


「制約自体は基本何でも良いが、具体的な方が良い。」

「制約を守ることで、怪人並みの力を手に入れてもそれを制御する事が可能になる。」


「なんとなくは理解した。だがそれを俺らがやる必要があるのか?」


「現状では君たちしかこの怪人を打破することが出来ない!先ほどまでふざけてすまん!名前を忘れたのもフリなんだ!そう!冗談なんだ!」


しれっと冗談ってことにしやがった…だが…。


「はぁ、わかったよ、やるよ。ただし今回だけな」


「人様に迷惑をかけるやつは例外なくあたしがぶっ殺す」


「我輩も正義のヒーローになりたいであります!」


「レッド…ブルー…イエロー…流石私が選んだ人材だ…!」


暇そうなやつ集めただけだろ。


「それじゃあこの全身スーツに着替えてもらう。」


「えっ、こんなダサいやつ着ないといけないの?」


「えっ、身元がバレてもいいんならそのままでもいいけど…」


「「「ありがたく着させていただきます」」」


………


そんなこんなで目的地。怪人の居場所は街中の監視カメラから特定したらしい。なんでそんな設備が製薬会社にあるんだ…。


目の前の公園には全長3メートル近い大きな人間がいた。


周りの遊具はグニャっと折れ曲がり、見る影もない。人がいないのが幸いか…と思ったが視界の隅にうごく小さな影が1つ。


─妹のマホだ。腹を押さえ、苦しそうな顔で倒れている。妹は日頃からこの人の少ない公園で己の肉体を鍛えていたみたいだった。


それを見た俺はいつの間にか走り出していた。


「マホーー!」


「おい!レッド!危ないぞ!」


「あ、危ないでござるよ!レッド殿!」


遠くから何か聞こえるが、そんなことはどうでもいい。早く、早くマホの元へ行かないと。


すると横から強い衝撃を受ける。


「ぐはっ…!」


ゆうに20メートルは吹き飛ばされ、遊具だったものにぶつかる。


視界が段々と暗くなる。


なにやら騒々しいがよく聞こえない。


─…制…を宣…しろ…。

─…制約…宣言…。

─制約を宣言しろ!


「…妹には指一本触れさせない!」


すると身体が瞬時に軽くなり、いつの間にか妹の前にいる。力が溢れてくる。これなら─勝てる!


「俺は!お前に指一本しか使わない!」


「うぉぉおおおお!」


俺の右手人差し指が光り輝き、目の前の巨人の腹部を豆腐のようにたやすく貫く。


「「グゥウウァワアア」」


目の前の巨人がドシンと音を立てて崩れる。


「レッド!すげぇじゃねーか!見直したぜ」


「我輩何も出来なかったでござるよ…レッド殿はすごいでありますな」


「─マホ、マホは大丈夫か?」


「知り合いか?大丈夫、気を失っているだけだ」


「そうか…良かった…」


─そこで俺の意識は途切れた。


次に目が覚めると自分家のベッドだった。

カプセルを飲んでる時に受けた怪我はすぐに治るらしく、痛みはなかった。その後シラユリとセイヤが父に頼まれここまで運んでくれたり、事件の後処理をしてくれたらしい。


マホはというと、怪人に襲われたものの、そこまで大きな怪我を負ってはいなかった。日頃の鍛錬の成果だろう。しかしながら、今後どんな影響が現れるかわからないので病院に軽く入院している。


「マホ、大丈夫か?全く、不運な奴だ」


「あ、お兄ちゃん。わたしも死ぬかと思ったよ。でも鍛えておいて正解だったね!」


「そうだな、今回ばかりは俺もそう思う。けど頼むからムキムキにはならないでくれ」


「なによそれー、なんかムカつく…それと全身タイツの人達にもお礼言わなきゃ」


「そ、そうだな、変な奴らとはいえ助けてもらったんなら言わないとな」


「ねぇ、お兄ちゃん…その…ありがとね…」


「ん?なんか言った?」


「べ、別に!なんでもないよっ!」


「ふっ、変な奴」


病室に吹き込む新鮮な風が、2人の空間を優しく包む。

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