エンドロールのその後に
秋瀬田 多見
エピローグ
「大丈夫、絶対に会いに行くわ」
ファルシルアン・マーチは芯に向かって強く言い切った。しかし、それは自分自身に言い聞かせているようでもあった。彼女たちのいるライントラフと、ベルヘイヤとの戦いは終わった。そして、芯はこの魔法世界の住人ではない。とすると、お別れの時が迫っているのは明白だった。
「うん。きっとマーチがそう言うってことは、本当に来るんだろうね」
芯は静かに笑った。そう思ったことは嘘ではなかった。しかし、そんなことはあり得ないだろうと思う気持ちも当然あった。
それを吹き飛ばすかのように、マーチは笑う。芯の手を取り、目を見つめる。
「大丈夫」
つられて芯も口角が上がった。マーチが言いきれば、彼は安心した。そういう存在だった。
「うん。分かった。絶対にまた会おう」
そういうや否や、時計の長針と短針が重なり合い、日付が変わった。すると、芯の足元から光が上り、彼の全身を包み込む。足元から順に、彼の存在がこの世界から消えていることが二人には分かった。彼らは溢れそうになる涙をぐっとこらえ、笑う。
「芯、本当に、ありがとう」
「僕の方こそ、ありがとう」
光はさらなる強さを増し、お互いの姿が認識できなくなるほどになった。マーチは目の前にいるはずの彼の気配がやがて消えてしまうのを感じる。自分以外の誰もいない部屋の中で彼女はただただ立ち尽くした。
元の世界に戻るのは彼にとって当然なのだと理解はしていた。それでも自分の心を蝕む大きな虚しさがこんなにも痛いものだと、彼女は思い出した。
「ありがとう」
先ほどまで芯が居た空間に向かって、言葉を投げる。それは誰に聞かせるものでもなかった。強いて言うならば、自分を鼓舞するために漏れ出た言葉といえるだろう。
「よし、研究しますか」
マーチは軽く伸びをして、早速机に向かった。その顔は真剣そのもので、目はすでに未来を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます