杉浦モハメド康太の幼稚園お受験

@nanashima

第1話 康太とママと面接官

 杉浦モハメド康太、3歳。

 好きなものは、お金である。


   *


 「康太君はどうしてお金が好きなの?」

 赤渕の眼鏡をかけた初老の面接官がにこやかに笑いながら康太に尋ねる。

 この質問には何と答えるんだったっけ。ママに褒められた答え方を思い返しながら、康太は答えた。

 「お金があると、おもちゃやお菓子を買えるからです」

 面接官は目を細めてうなずいている。悪くない反応だろう。

 康太は心の中でにんまりしながら、次の質問に備えたが、予想に反して面接官はではなく、彼の横に座っている細身の女性に顔を向けた。

 「康太君は大変しっかりしたお子さんですね、ご家庭での教育がよろしいのでしょう」

 「親が特別に何か教えたわけではありません。どうしてかは分かりませんが自然とこのように考える子なんです」

 初老の面接官は眼鏡に手をやりながらまじまじと康太を見つめた。こういう時こそ堂々としていろとパパが言っていたのを覚えている。康太は背筋を伸ばして面接官の眼鏡のふちを見つめ返した。

 面接官の目は細められているが、康太はそこに笑みを読み取ることはできない。今、自分は彼女に値踏みされているのだ。掛け時計の秒針の音が嫌に大きく聞こえる。康太は生唾を呑んだ。

 「緊張しなくてもいいんですよ」

 優しげな声色で康太に声をかけた面接官の目は依然として儀礼的に細められたままである。この女性には

面接官としての微笑みが染みついているのだろうと康太は推測した。

 「さて、では康太君に最後の質問です。幼稚園に入ったらやりたいことは何?」

 単純な問い。

 「お友達とみんなで遊びたいです」

 面接官はうなずいた。

 「それでは今日の面接は終了です。お気をつけてお帰りください。」

 「ありがとうございました」

 頭を下げながら面接官を盗み見ると、彼女は依然として微笑みらしく見える表情筋の使い方をしていた。

 

  *

 

 後日、杉浦モハメド康太は私立△△幼稚園に合格したことを知った。母親も父親も喜んでいたので康太は嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

杉浦モハメド康太の幼稚園お受験 @nanashima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ