見えない者の葛藤
明通 蛍雪
第1話
俺、加賀音真我(かがねしんが)は自分の中に守らなければいけないものがある。
一つはこの超能力を誰にも悟られないこと。もう一つは明月美祢(あかつきみね)を守り、決して正体がバレないこと
彼女に降りかかる厄災の全てを跳ね除け、危険を除去し、悪の影を排除する。
明月美祢は不幸体質だ。毎回疑問に思うほど不幸であり災難だ。俺がいなければとっくにこの世にはいないほど。
「美祢、バイバイ」
「またねー」
明月は友達と別れると住宅街の中を一人で歩いていく。夕方の茜がさす道は明るくも暗くもある。俺は彼女の後をつけているわけじゃない。家が隣なのだ。彼女はそれを知らないが。
と、こうしている間に彼女を狙う変態が現れた。攫って何をするつもりなのかまで俺には手に取るように分かる。正面から機会を伺う変態を気絶させ細い路地に押し込む。ちなみに俺は変態さんではない。
何も気づいていない彼女にさらなる災難が訪れる。犬の糞だ。確実に踏む。何故このタイミングでスマホを見る。インスタか。インスタが今時なのか。
案の定糞の上に足を持っていく彼女。仕方なく糞を避け…
「危ねっ⁉︎」
下に気を取られ上からの攻撃を見逃すところだった。あのカラスは後で消す。
「加賀音君?」
「あー、ども」
声を上げたことによって居場所がバレる。バレると言っても普通に後方を歩いていたから振り返れば気付かれていた。隠れようと思えば消えれるが、声がしたのに人がいなければ、彼女を怖がらせてしまう。
「こんなところでどうしたの?」
「いや、俺の家がこの近所なんだ」
「そうなんだ。じゃ、私こっちだから」
そう言って脇の道に逸れる。怪しまれてます。彼女、もとい俺の家はこのまま真っ直ぐ行ったところにある。つまり彼女は俺を避けた。ちょっとショックです。
俺がそのまま家に上がっていくまで彼女は俺の後をつけてきた。丸見えなのにバレてないと思っているようで少し愛らしい。
「本当に家ここら辺、って隣⁉︎」
バレたか。まぁ問題はない。登校時間はずらしているからこれ以上接触することはないだろう。この時はそう思っていた。
翌日、家の前にいる。正確には俺が出てくるのを待つ明月が。偶然を装って声をかけるようだが残念。俺には瞬間移動がある。そして透明化もできる。
彼女の目の前をいつものように歩いて通り過ぎる。
「加賀君に相談したいことがあるんだけど、出てこないかな」
何⁉︎俺に相談だと…。めっちゃ気になる。
だが俺の能力には欠点がある。相手が考えていなことは読み取れないのだ。今の状況で言えば相談事があるのは分かるがその詳しい内容までは分からない。彼女が考えていないから。彼女がそれを考えるのはその事態に直面した時か俺に打ち明けようとした時だろう。
俺は葛藤の末に家から出直した。
「あ、加賀君。隣だったの?今まで全然気付かなかたよ」
白白しい挨拶もそこそこに一緒に登校する流れに。既に彼女は打ち明けるタイミングを測り始めその過程で俺は悩みを把握した。
「ごめん、忘れ物したから先に行って」
そう言って彼女から逃走する。少し名残惜しそうな彼女が見えなくなったら透明化で後ろをつける。彼女の不幸体質は天性なものだ。俺の超能力に匹敵するほど凄い。誰かが守らなければ確実にあの世行きだ。こうしている今も、居眠りトラックを路肩に寄せる。長距離運送ご苦労様です。過労で死ぬなよ。
彼女の悩みは、最近誰かにつけられているということ。視線は感じるが人の姿は見えない。誰かに見られている気がするが誰もいない。そんなことがよくあるらしい。
この悩みを確認した俺は監視をより強化した。なるべく彼女の周りを広範囲で。虫の子一匹逃さない俺の監視網は、誰も感知しなかった。怪しい人物は居らず至って平和な毎日だった。彼女への不幸は相変わらずだが、誰かにつけられている様子もない。
「そこに誰か居るの?」
家の近く、彼女は誰もいない道に向かって声を発する。正確には俺に向かって。
「私につきまとうの、やめて」
涙を流す彼女の顔は今までで一番衝撃で心の奥を抉るものだった。それも直接言われて。彼女には見えてないはずなのに、まるで俺が言われているかのような錯覚がする。いや、見えてないからこそ分かるのかもしれない。どうやら彼女の言っていたストーカーとは俺だったようだ。透明化状態の俺の視線を感じ取っていた。これは守る者としてあってはいけないことだ。だから…
「ずっと前から好きでした。付き合ってください」
目の前で、堂々と守ることにした。
「ごめんなさい、加賀音君のことよく知らないから。でも友達からなら、前向きに検討させて下さい」
「は、はい」
無事に彼女の連絡先だけゲットして振られました。だが前よりも彼女に接触しやすくなった。超能力については伏せたまま、俺は彼女の騎士になる。一生友達のままでも守り抜くと決めた。
見えない者の葛藤 明通 蛍雪 @azukimochi
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