『私がルール』

マサヒラ

私がルール

「よし! ゲームしよう!」


 それは、唐突な宣言だった。


「いきなり訪ねて来て、何ですか? 藪から棒に……」

「いや、単に暇だからさ。ちょっと君と久々に遊ぼうかなって思って……」


 この人は、俺の近所に住む一つ上の女性で、昔から世話になっている人だ。要するに幼馴染という事になるのだろうか。

 昔から、明るく元気で、いい意味で天真爛漫、悪い意味でお転婆を体現した様な人だ。


「嫌ですよ。今まで一緒に遊んでろくなこと無かったですし。——それに今日休みなんですよ。もう俺達、ガキじゃないんですし、ゲームなんてやらないですよ」

「いいから! やろう!」

「…………」


 話を聞いてない。というか、この人と昔からまともな会話出来たことが少ないんだよな……。


「はぁ、仕方ないんで良いですよ。ただし、そんな長いこと付き合えませんからね」

「分かってるって、私もそんなに暇じゃないから」


 こ、こいつ! 何て自己中な性格してるんだ。さっき暇だとか何とか言ってたくせに!


「……で、なにするの?」

「まさか、それも考えて無かったんですか?」

「うん」


 そんな風に、即答されるとこっちも、もう怒るどころか呆れてくる。

 

 仕方ないので、とりあえず俺は、彼女を家に上げる。いくら幼馴染だったとしても、家に上げたの何て、何年ぶりだろうか?


「久々にお邪魔したけど、全然変わってないね」


 俺の部屋に案内した所で、彼女がそんな事を言い出した。


「男の部屋何て、そうコロコロ変わるもんじゃないですよ。——とりあえず、飲み物とか取ってくるんで適当にくつろいでもらっていいですよ」


 彼女は「お構いなく」と言っていたが、そんなわけにいかないのが家主の立場というものだ。——まぁ俺は、正確には家主では無いが……


 キッチンで、適当に飲み物とそこら辺にあった菓子を持って部屋に戻る。

 

「……で、なにやってんすか?」

「ん? もちろん、男の子の部屋に来たらの定番、如何わしい本探し!」

「何やってんだー! アンタって人は!!!!」


 流石にキレた。それはそうだろう、許可なく勝手に他人の物を物色しだしたら。


「もうー、怒らないでよ。謝るからさ、ごめん」


 軽い、軽すぎるよこの人。本当に俺より年上か?


「ったく、やって良いことと悪いことあるでしょうに。本当に……」

「ねぇ! さっきこんなもの見つけたんだけど、これやらない?」


 俺の話をぶった切ってそんなことを言い出した。

 彼女の手にあったのは、透明なケースに入っているトランプであった。

 確か、一時マジックにはまった時に買っていたものだったか……。


「トランプ? まぁ良いですけど、何やります?」


 そう言うと、彼女はうーんと言いながら、こう答えた。——『大富豪』と……


「大富豪ですか? 二人じゃ大して面白くないと思いますけど」

「いいの。私がやりたいんだから」


 なんだそれ。本当に自分勝手な人だな。

 そう思いながら、トランプをシャッフルし、カードを配る。

 案外俺も、何だかんだ言いながら乗り気なのかもしれない。



「よし、配り終えました。さぁ、ジャンケンして先攻後攻決めましょう」


 そういって、俺達はジャンケンをする。俺はパー、彼女はグーだった。

 なので、俺は先攻だ。


「これで、準備OK。さっさとやって、さっさと終わらせましょう」


 そう言って俺は、手札のカードを見ながら、何を出すか吟味する。

 その時だった。


「はい!」

「!?」


 後攻のはずの彼女が、急にカードを出した。しかも二枚出しだ。


「ちょ、ちょっと何やってるんすか?」

「だって、私負けたし、私が先攻でしょ」

「いや、普通勝った方が先攻でしょ」

「何それ? 聞いたこと無いよ」

「……流石にそれは、嘘だろ、おい!」

「…………」


 まさか、ちょっと怒鳴っただけでここまで、へこむとは思わなかった。

 でも何か、少し清々したので個人的には嬉しかった。


「もー、私が先攻なの! 今日は『私がルール』なんだから!!」

「それは傍若無人すぎるわ!」


 一体、どこのガキ大将かっていうくらいの発言だった。


 それから、俺が後攻でゲームは進んだが、それ以降も問題は起こり……


「ちょっと、それ出せないから」

「え、何でですか?」



 そう言うと、彼女は出した札を指す。出したカードはJのカードだった。つまり……


「11バックです」

「待って、この大富豪、ローカルルール有り?」

「有りだよ。だって『私がルール』だからね」


 満面の笑みでそう答えた。正直、うっとうしい。

 結局、『私がルール』が適用され俺は違う札を出す羽目になった。

 

 その後もゲームは進んだが、結果はお察しの通り、もちろん俺の負けである。


「あー楽しかった」


 俺は全然楽しくなかったけどな。

 そしてその後も、何回か続けたが、結局、俺の負け越しで大富豪は終わった。




「……で、結局何しに来たんですか?」

「ん?」


 あの後一通りの、遊びをトランプでした後の帰り際、俺はそんな事を聞いた。


「別に……、本当に暇だっただけだよ。——ただ、もう君とこういう事が出来なくなるからさ、最後に楽しみたかったって感じかな……」


 最後にそう言い残して、彼女は帰っていった。


 


 これは後に知ったことだが、幼馴染の彼女は家の都合で遠くに引っ越して行ったのだという。

 そうと知っていれば、もっと遊びに付き合っても良かったって気にもなるし、個人的に色々伝えたいこともあったのにな……ってそんな事を考えても後の祭りなんだが……



 全く、つくづくこういう時のお約束のルールってのを守らない人だと俺は思った。

 まぁそれが、彼女の言う『私がルール』ってやつなのかもしれない……。





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『私がルール』 マサヒラ @tamasii6

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