最終章 夏帆サイド

第45話 結論

列車事故の事は詳しくは知らない。

お兄ちゃんに会う前の話だから、だ。

私の目の前のお兄ちゃんはかなり悩んでいる。

ゲームセンターで衝撃の事実が判明したから、だ。


実の親から捨てられていた女の子が捨てた母親に再会したのだ。

美優ちゃんは???を浮かべながら困惑している。

私もお兄ちゃんを困惑の眼差しで見る。


「.....取り敢えず、場所を移動しましょうか」


お兄ちゃんが悩んだ末にそう切り出した。

私はお兄ちゃんに頷く。

佑太朗という、お兄ちゃんの友人も戻って来た。

龍さんも頷いている。


「すいません。私.....ご迷惑をお掛けしているんじゃ.....」


「大丈夫です。ただちょっと驚きましたけど」


お兄ちゃんは笑顔で接する。

だけど私は見抜いていた。

本気で参った、という感じだという事を、だ。

私も協力はしてあげたいが、どうしたら良いのだろうか。

思いながら.....美優ちゃんと手を繋ぐ。


「.....お姉ちゃん。.....あの女の人.....誰なんだろう?」


「.....あまり詳しくは知らないで良いよ」


ただそう言い聞かせる事しか.....出来なかった。

私は少しだけ.....複雑な顔をしながら。

ゲームセンターを私達は後にした。

また後で来ようと思いながら、だ。



「家が近いんで、家に招きますよ」


「.....でもご迷惑じゃ.....」


「.....多分、大丈夫です」


その様にお兄ちゃんは言葉を発する。

それから自宅の方角に歩く。

その間、私の手を握る美優ちゃん。

私はその手を守る様に握る。


「宗介。俺達も行って良いのか?」


「.....ああ。別に良いよ。夏帆は?」


「.....私は大丈夫だよ」


だったら大丈夫だ。

とお兄ちゃんは前を向く。

私はそれを見ながら美優ちゃんを見る。

美優ちゃんは.....光景に首を傾げていた。


「.....大丈夫?美優ちゃん」


「うん、大丈夫だけど.....みんなどうしたの?」


「.....」


説明のしようがない。

私は困惑しながら.....顎に手を添える。

果たしてどうするべきか。

思いながらアスファルトを踏み締める。


「でも皆んな.....考えているみたいだから黙ってるね」


「美優ちゃんは偉いね」


「.....えへへ、そうかな」


そして自宅に着いた。

皆んなを招き入れるお兄ちゃんを見ながら。

入ろうか、と言いながら美優ちゃんと私は家に入る。

そして.....リビングに入ろうとした時。

お兄ちゃんが静止した。


「夏帆。すまないけど.....美優ちゃんと席を外してくれるか」


「.....あ、分かった」


じゃあ行こうか、美優ちゃん。

と手を引いた、私。

それからお兄ちゃんに手を振って。

龍さんも私に付いて来る。


「.....想定外だけど.....大丈夫かな、美優ちゃん」


「.....大丈夫ですよ。多分」


私はその様に龍さんに話す。

それから.....私の部屋に招き入れた。

そして膝を曲げて自由に座って下さい、と言う。

美優ちゃんに聞いた。


「何かして遊ぶ?」


「じゃあ、ババ抜き!」


「あ、それ良いかもね。美優ちゃん」


龍さんも頷いて笑みを浮かべる。

私はトランプを取り出した。

そして私達は.....ババ抜きを始める。

これでそれなりに時間が潰せれば良いけど、と思いながら、だ。



話は三十分ほど続いた。

大富豪の途中でお兄ちゃんが入って来てそしてリビングに呼ばれて向かう。

そして.....女性と美優ちゃんの妹さんと再び会う。

どうなったの、とお兄ちゃんに聞いた。


「結論から言って、このままでいる事になる」


「.....じゃあ.....」


「今まで通りだな」


そうなんだ、と思いながら.....女性を見る。

頭を下げていた。

そして美優ちゃんに対して笑みを浮かべる女性。

それから.....何かを預けた。


「これを持っていて。貴方に預ける」


「.....ペンダント?」


石が嵌め込まれたペンダントを渡した、女性。

それから.....目尻に浮かんだ涙を拭う。

もう会う気は無い様な.....そんな感じだ。

私と龍さんは、お兄ちゃんは佑太郎は美優ちゃん達を見守る。

そして.....美優ちゃんは言った。


「お姉さん、ありがとう!」


「.....」


それから抱き締めた。

幸せになってね、と言いながら、だ。

玄関先まで見送る。

そして.....女性と妹さんは後にした。

私達の家から、だ。



「.....これで良かったのかな」


「.....良かったと思う。俺達だけじゃなくて智久さんも参加してくれた。この事は全部、社長さんに話したそうだ」


夜、美優ちゃんは先に寝た。

その事を見越して、お兄ちゃんと会話する。

お兄ちゃんは.....少しだけ複雑そうな顔だったが.....事が収まって安心した様な顔をしている。

私はその顔を見て安心した。


「.....夏帆」


「.....何?お兄ちゃん」


「.....今のお前なら信頼出来るよ。マジに」


「.....ありがとう」


それはこっちの台詞だ。

有難うな、とお兄ちゃんは話す。

皆んなのお陰で私は変わった。

だから.....皆んなに感謝だ。


「あと四日だよね.....美優ちゃんをどうやって楽しませようか」


「.....そうだな。取り敢えず.....」


私達は楽しげに会話する。

今の幸せを噛みしめながら、だ。

私は.....笑顔を浮かべた。

この先、どんな問題が有っても.....乗り越えられる。

そんな気もするから、だ。


そして今、この時から。


八年経過した。

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