第42話 列車事故の被害者

想像以上に大変だ。

と言うのが子供の世話が.....だ。

俺はハァハァと汗をかきながら。

そして夏帆はゼエゼエ言いながら走り回る美優ちゃんの世話をする。

テストが完全に終わった放課後の事であった。


「あはは。楽しいな!」


「.....そ、そうか.....良かった.....」


「この子.....凄い体力.....」


駄目だ息切れだ。

俺達もそれなりには若いんだが。

でも俺達は.....高校生。

そして相手は小学生だ。

なんつうか.....力量と元気には差が有る。


「お兄ちゃん!」


「.....な、何かな.....」


「お兄ちゃんもお姉ちゃんも優しいから楽しい!!!!!」


「.....そいつは結構だ.....ハァハァ.....」


美優ちゃんは俺達に笑顔を見せる。

それから、じゃあ今から鬼ごっこ!、と言葉を発した。

俺達は、え"、と。

え、に点が付く様な感じで反応する。

こんなに走り回って.....と思いながら盛大に溜息を吐いた。


「.....」


「.....?」


溜息を吐いた後に夏帆を見てみる。

そんな夏帆は.....やった感じがある様な感じだ。

俺はその様子に驚く。

確かに疲れている様子だが満更でも無い様な.....そんな感じだ。

明らかにお姉さんな感じで接している。


「.....夏帆。お前、楽しいのか?」


「.....うん。楽しいよ。なかなかね」


マジかよ。

思いながら.....美優ちゃんを見る。

美優ちゃんに夏帆が思いっきりくすぐる。

そして楽しそうに笑った。


「.....まぁ.....それなら良いんだ」


「え?」


「.....何でも無い。大丈夫だ。夏帆」


それから夏帆は暫く.....美優ちゃんと鬼ごっこをしていた。

俺は息を整えながら夏帆に任せてお茶を淹れる。

そして.....お茶を淹れていると美優ちゃんの鞄に目がいった。

写真が出ているのだが.....。


「.....え?」


その写真に目を疑った。

一体、何の写真かと言えば.....俺の父さんが死んだ電車の車両ナンバー。

その前で撮られた写真だと思われる写真。

俺は直ぐに美優ちゃんを見る。


「.....美優ちゃん」


「なーに?お兄ちゃん」


「.....お前.....列車事故.....を知っているか?」


見開く、美優ちゃん。

俺の言った言葉に夏帆は、え?、と素っ頓狂な言葉を発した。

美優ちゃんは.....少しだけ俯く。

そして小さく頷いた。


「.....お母さんが死んだの。列車事故で」


「.....え.....」


夏帆は愕然として俺を見てくる。

美優ちゃんは少しだけ複雑な顔をする。

俺は.....見開いて見つめる。

途轍も無い衝撃だった。


「.....マジか.....?」


「でも私ね、明るく居ようって決めたの」


「.....明るく.....?」


夏帆が驚きの表情を見せる。

うん、と満面の笑顔の美優ちゃん。

それから.....テトテトと効果音でも鳴りそうな感じで鞄に近付き鞄から写真を取り出して.....見つめる。

お母さんは天国で見守ってくれているよ。

だからもう怖く無いんだ、と話してくれた。


「.....お前は.....強いな。.....美優ちゃん」


「強く無いよ?私」


「.....いや、強いよ。美優ちゃん」


俺は膝を曲げて.....美優ちゃんを真っ直ぐに見る。

そして.....言葉を発した。

俺の.....親父の事も含めて、だ。


「.....美優ちゃん。俺もお父さんが死んだんだ。列車の事故で。それで.....君の気持ちは痛い程.....分かる。だから.....お父さんを大切にしてあげなよ」


「え.....お兄ちゃんも?」


「.....そうだよ。俺も.....列車事故で家族を失ったんだ」


でもね、と俺は美優ちゃんを笑みを浮かべて見る。

君の様に強くは無いんだ俺はね。

本当に君は強いんだね、と美優ちゃんの頭を撫でた。

美優ちゃんは.....俺の頬に手を触れる。


「お兄ちゃん。美優はね、考えるの。お兄ちゃんのお父さんはとても幸せだったと思う!だから.....ね、元気を出して」


「.....そうかな?」


「うん。だって.....美優が言うんだから!」


小学生に励まされる野郎、情けねぇな、と思いながらも涙を拭う。

本当に良い子で.....とても強いな。

見習わなくちゃいけない。

思いながら.....美優ちゃんを見る。


「お兄ちゃん、良い子良い子!」


「.....有難うな。美優ちゃん。俺は一歩を踏み出せそうな気がする」


夏帆が心配そうに俺を見ていたが少しだけ柔和になった。

こうやって周りの人に支えられて.....俺は。

成長が出来るんだな、と思う。

俺は美優ちゃんを抱えた。


「よしっ。じゃあまた遊ぼうか。何をして遊ぶ?」


「え?じゃあ美優はゲーム!」


「おう。じゃあ.....するか!」


そして俺と美優ちゃんと夏帆はゲームをする。

その中で気付いた。

美優ちゃんは実は強く無く。

今でも美優ちゃんは実は母親を求めているという事だった。



「美優ちゃんは確かに被害者だよ。列車事故のね」


「.....そうなんですか.....」


その日の夜の事だ。

俺は智久さんの部屋に居た。

聞いたのだ、美優の事を。

智久さんは.....俺を見ながら複雑な顔をする。

そして.....俺を見た。


「.....美優ちゃんは当時は.....幼かったけど.....でもお母さんの事は結構、覚えているみたいだね。お母さんは第一車両に乗っていて.....全身を打って即死だったそうだけど」


「.....美優ちゃん、強いですよね」


「.....確かに強いと思うよ。僕も見習いたいね」


俺は顎に手を添える。

美優ちゃんは.....本当に強い子だ。

だから気になったりするんだよな、と思う。

美優ちゃんは女の子だ。

俺は.....美優ちゃんを救ってやりたいな、と思いながら居ると。


「.....それだけじゃ無くて美優ちゃんのお父さんは本当のお父さんじゃ無いんだ」


「.....え」


「.....美優ちゃん自体が社長が引き取った子供でね.....美優ちゃんは赤ちゃんの時に捨てられてたんだ。社長の家の前に、ね。死んだのは社長の奥さんだった。.....秘密にしていてほしいんだけど美優ちゃんはお母さんが死んでいるって思っているけど.....実際は生きているんだと思う」


「.....そんな馬鹿な事って.....」


俺は唖然とした。

智久さんは.....たまたま社長が話してくれたんだけどね、と複雑な顔で言う。

じゃあ.....美優ちゃんって.....相当に複雑な事情が?

思いながら.....智久さんを見る。


「.....美優ちゃんは本当に複雑な運命に置かれているんだ。だけどこの事は秘密にしてね。今の彼女の幸せを破壊する訳にはいかない。君は秘密を守る男の子だから.....話したんだけど」


「.....」


ニコッと笑む智久さん。

俺は静かに頷いた。

そして.....美優ちゃんが居る夏帆の部屋の方角を見る。

何でそんな運命を.....。

神様って奴は.....と思ってしまった。

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