第21話 渡道昴(とどうすばる)

事前に菊池先輩からは住所を教えてもらっていた。

俺は取り敢えずその場にランニング用の上着を羽織って走って来る。

そしてインターフォンを押そうとする。

どう考えてもおかしいんだ、何かが。


「.....ハァハァ.....」


息を整える。

菊池先輩の家。

ピンク色のレンガ模様の家だ。

その二階建ての家から菊池先輩が飛び出して来た。


「.....後輩!」


「.....せ、先輩.....どうしたんすか!?」


「それはこっちの台詞.....いや、そんな事は良い!色々と接している中で.....夏帆ちゃんが居なくなったんだ。それも.....遺書みたいなのを.....残して.....!」


冗談だろマジで。

何やってんだよアイツは!!

俺は踵を返して、追う。

感情が不安定になりすぎているという事か!?


俺は直ぐに追い掛けようと動き出す。

菊池先輩も横を走って来た。


「ちょっと待て!宗介!」


「.....待ってられませんって.....!何ですか!!!」


「目的地を定めないと駄目だろう!そもそも.....君には夏帆ちゃんが行く場所が分かるのか!?」


「.....分からない無いですけど.....」


じゃあ一旦、落ち着け宗介!

と言う、菊池先輩。

よく見ると菊池先輩は靴を履いて無かった。


驚愕しながら見つめる。

そんな菊池先輩は顎に手を添えて話し出した。


「.....闇雲に探してもタイムロスだ。手頃に.....自殺するなら.....この街には大きな橋が有ったよな?そこじゃ無いかと思う.....多分だけど!」


「.....分かりました!そこに行ってみます」


「.....私も行く。一緒に」


菊池先輩は裸足のまま歩き出した。

俺はその菊池先輩を止めようとしたが。

不安の方がでかく、止めれなかった。



「遺書にはなんて書かれていました!?」


「頭が痛い、と書いてあった」


「.....何だそれ.....意味が分からない.....!」


此処からその言われた橋まで1キロ。

間に合うのか?これ。


俺は必死に走る。

先輩も有りのままの姿で走っていた。

しかも裸足で有る。


そして、走っていると橋に着いた。

そこで橋桁に手を掴んで。

飛び降りようとしている夏帆が。

俺は思いっきり青ざめた。


マジで何やってんだあの馬鹿!

本気で自殺しようとしている!!!

クソめ!!!


「夏帆!お前ェ!!!」


「.....!」


「夏帆ちゃん!」


クソッタレ!

俺はその様に思いながら、地面をヒビ割れそうな勢いで走っていると。

橋桁を掴む、夏帆を勢い良く引っ張った男が居た。

俺はまさかと思いながらゼエゼエ言いながら、その男を見る。


「.....危ないですよ。夏帆さん」


「お前!?離せ!」


「.....何言っているんですか。自殺なんて馬鹿な真似は止めて下さい」


かなりのイケメン。

まさに一瞬でヒーローの様に見られそうなイケメンだ。


顔立ちは整い、そして少し顔がなよっとはしているがジャ●ーズにでも居そうな。

黒髪の短髪に、何処かの高校の制服。

誰だコイツ.....にしても。


「.....夏帆」


「.....お兄ちゃん.....」


お兄ちゃんという言葉に驚愕しながら、男は俺を見る。

その中で俺は夏帆をジッと見ていた。

流石に今回ばかりは.....許せない感じだ。

お仕置きが必要な気がする。


ベシッ


「.....!」


「何でこんな馬鹿な真似をした!お前.....!」


俺は思いっきりに平手打ちして。

歩道に足を崩しながら夏帆を涙目で抱き締めた。

その夏帆は何が起こったか分からない様な顔をしながら。

俺に抱き締められていた。


「しかし、良かったですね」


「.....あ、ああ。済まない.....君、名前は?」


「僕は.....えっと、名乗る者では無いですよ」


「.....出来ればお礼を.....」


菊池先輩がその様に言う。

だが男は、そこまでする必要は無いです、と言った。

まるで、花が咲く様な笑顔だ。


「僕はただ、夏帆さんを見掛けて行動を止めただけですよ」


この人は本気で良い人なんだろうな。

マジで聖母の様だが。


本気で人助けにせよこんな真似は簡単に出来るとは思えない。

マジの本当に助かった。

この人のお陰で、だ。


だがその様に考えている中で。

夏帆だけが全然納得してない様に。

何故かかなり激昂している様に見えた。


「.....何でそんなヘラヘラしているんだテメェコラ」


「.....夏帆!?.....恩人に向かってそれは無.....」


「.....お兄ちゃんは黙って。.....コイツ、私を.....無理矢理に恋人にしようとした最低な野郎だよ.....下衆野郎だよ!」


「「.....は?」」


まさかの言葉に俺は唖然としながら男の顔を見る。

その男は怪しげな笑みを浮かべていた。

そして両手を広げて、この様に話す。


「.....私が命を助けたんですよね?だったら夏帆さん。お礼なんて要りません。.....ただ助けたからには僕とまた付き合って下さい」


ただ、その様な願いを発する男。

名を渡道昴(とどうすばる)と言ったその男は。

俺達の家族関係も何もかもの関係を破滅させる存在だったのは言うまでも無い。

ただ俺は、最悪だ、と思うしか無かった。

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