街を想う時

 どこにいっても大抵はコンビニとマックと、そしてスタバとイオンがある。同じような分譲住宅やマンションが立ち並んでいる均質な街並み。それは機能的にデザインされたある種の合理性なのかもしれない。暮らしの豊かさとは、装飾が消えた平坦でモノクロームな街並み。


 先日、久しぶりに東京の私鉄列車に乗った。暮らしの中を行く私鉄列車の車窓は首都圏近郊のJR路線とは少し異なる。高架線路を走る列車の音が街を包んでいくその景色に、都市の息づかいを感じた。ぼくは街に近い私鉄列車の距離感が好きだ。


 駅前のスーパーも、なかなか開かない踏切も、乗客を待つ路線バスの姿も、家路を急ぐ人たちの影も、街を彩る全ての景色が生活そのもの。そこにある当たり前の暮らしは、想像以上に色鮮やかだった。


 一見すると何事もないと思える日常の中で、本当は様々な何かが起き続けている。大抵はそれに気づかないのだけれども、その中で何を拾うかは案外、重要な問題だったりする。


 駅前のメインストリート沿いに並ぶ茶色のベンチたち。そのうちの一つに腰かけてみる。足を組み、雑誌を眺める人。一休みする家族連れ。この後の予定で盛り上がる高校生たち。いろんな声が街の空気を彩ってゆく。


 瞳を閉じて街の音に耳をすます。一定間隔で駅に滑り込んでいく私鉄列車が時を刻んでいた。人間の五感の中に、時間を感じる感覚器官なんて存在しないはずなのに、そこに確かな時間の流れをイメージできるのはなぜだろう。


 時間にとって最大の謎は、それが流れているように思われること。ぼくたちは、本当は静止状態の物体なのだけれど、時間方向に光速で移動しているのかもしれない。


 大切な時間が過ぎ去って行かないように、時間を止めてと願う。でも、時間が止まってしまったら大切な時間を感じることができなくなってしまう。そんなジレンマを覚えつつ、過去を回想することもまた大切な時間なのだと知る。


 街に積み重なっていく時間はいつだって温かかった。

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