定番ルールなんてぶち壊す

夏木

ルールという名の縛り


 物事にはルールがある。

 スポーツならばルールにのっとって行わなければならない。そうでなければ退場ということになってしまうだろう。

 スポーツのルールなら簡単だ。それぞれのスポーツによって決められている。だからあらかじめ勉強して従えばよい。


 では、ルールブックがないものはどうだろう。

 日常生活では「暗黙のルール」が存在する。

 はっきりとルールであると決まっているわけではないのに、多くの人が従っている。これを破ると人間関係はこじれ、周りから見れば非常識であると認識される。

 例えば、人のセンシティブな話には深入りしない。体調が優れない人に対してどうして? と聞くようなことをしない。また、具体的な貯金額なども聞かない。

 人間関係に関わる以上、守った方がいいことはわかる。

 俺もその暗黙のルールは守っている。

 これはいいんだ。だが、俺には壊したいルールがある。



 それはネット小説のお決まりルールだ。ルールといっても書き方のことではない。定番化している内容についてだ。

 もともと俺は物語を読むのが好きである。小説でも漫画でも絵本であっても。一ページずつ、ページをめくるたびに次はどうなるのだろうとワクワクしながら読んだものだ。好きな絵本はページが破れるほど読んだし、今でも内容を覚えている。

 それが今ではスマートフォンから簡単に読むことができる。片手で空いた時間に読むことができ、素晴らしいと思う。

 貧乏学生時代に、小説サイトをめぐり気づいたことがある。人気のあるものはいつだって同じ題材になっていることだ。

 その題材を否定する訳ではないが、何やかんやで転生、転移、トリップ。そしてそこでハーレム……これらはよく見かけた。繰り返すが否定しているのではない。面白いものは面白い。しかし、作品の数が圧倒的に多すぎる。もはや定番となってしまっている。

 俺だけが考えているだけなのかと思い、掲示板を漁ったりした。すると同じ考えの人がいるようであった。まるで大喜利のように定番ネタが列挙されていて、見ていると笑ってしまったこともある。


 人気のあるジャンルを書く。書きたいものがそのジャンルだったならいいと思う。

 しかし便乗かのように次々に始まりが同じものを読んでいると狂うんじゃないかと感じてしまった。



「それなら自分で書け」


 まあそうだろう。現に友人にも言われたことがある。

 だが俺にはそのスキルがない。あくまで読む側なのだ。読んで楽しみたい。

 読む側なら与えられたものをおとなしく読んでいろって?

 読んでいるだけではこの定番化しているルールは壊せない。

 ならどうするか。



 そう、俺は編集者になった。

 賢くはない俺にとって就活は難しいものだった。しかし、ルールを壊したい一心で熱意を伝えて編集者となることができた。

 読者のニーズや流行をくみ取るのは必要だ。しかし、それだけではどうしても偏ってしまう。もっと幅広いジャンルがあることを多くの人に知ってもらいたいという建前で、本心では俺が読みたい、それだけだった。わがままな俺の考えから新しい企画を提案しては、ことごとく上司に却下されている。

 だが諦めることはない。たとえ百回却下されたとしても、百一回目には通るかもしれない。



 残業に続く残業。通らない企画。

 十回目ぐらいの企画提案でこの仕事が嫌になった。もう辞めちゃえはいいんじゃないかと心の中で悪魔がささやいた。でも俺はそのささやきをかき消した。

 いつの日か誰も想像したことのない、心から楽しめる新しい物語に出会えることを信じて。

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