風船を割りたくて割りたくてたまらない犬

アほリ

風船を割りたくて割りたくてたまらない犬

 風船を鼻で突いて、


 ぽーーん・・・


 ぽーーん・・・


 ぽーーん・・・


 ぽーーん・・・




 ぱぁーーーん!!



 「まーた、バブリン!風船割っちゃって!!

 君は『バルーン・リフティング』のリレー続かないなぁー!!」


 雌のパピヨン犬の『バブリン』は、『バルーン・リフティングドッグ』である。

 しかし、一応『バルーン・リフティングドッグ』としてトレーニングされる犬なのであるが・・・


 「全く・・・君は風船を突いている時に、何で途中で牙を剥いて風船を噛みつくんだよねぇ?

 『バルーン・リフティング』の競技はねぇ、風船を途中で割っちゃったらここで終わりという『ルール』があるんだよ?!

 『ルール』がねぇ?!」



 ぱぁーーーーん!!


 ぱぁーーーーん!!


 ぱぁーーーーん!!



 「ああっ!コラッ!!予備に膨らませた風船を勝手に割るなよ!!

 風船はタダじゃないんだよ?!

 全く・・・これじゃ、風船が何個あっても足りないよ。」



 ・・・・・・



 ・・・私、『風船』大好きだわよ・・・

 ・・・ぽーーん、ぽーーん、と突いている風船のフワフワとした感触が大好きだし、一瞬漂ってくる花の様なゴムの匂いの香しさ・・・

 ・・・それに、牙で突っついて「ぱーん!」と弾ける瞬間が刺激的・・・!!

 ・・・う~~~・・・

 ・・・『風船』って、とってもヤミツキになるわ!!私は『風船』の俘虜よ・・・!!



 ・・・・・・



 ドッグトレーナーの裕司は、頭を頭を抱えてしまった。


 「んもう・・・こいつで、『バルーン・リフティングドッグ』大会を出場出来るのだろうか?

 『バルーン・リフティングドッグ』大会を、こいつの名前で出場登録しちまったし・・・

 これじゃあ、俺は他のドッグトレーナー仲間の笑い者だよ?!

 他の犬達、皆に見せびらかしたい為が為に『バルーン・リフティングドッグ』を始めたのに・・・


 あーあ。おちこぼれのドッグトレーナーの俺に、おちこぼれの犬のコンビかぁ・・・

 お似合いかもな・・・ハハハッ・・・!!

 はぁ・・・」


 ドッグトレーナーの裕司は、割れた風船の破片を鼻先に乗せてご満悦のパピヨン犬のバブリンを撫でて苦笑いをした。


 

 ・・・・・・



 「さぁて・・・どうしたもんかな。」


 ドッグトレーナーの裕司は、『バルーン・リフティング』に使う風船を手押しポンプで何個もしゅっ!しゅっ!しゅっ!しゅっ!しゅっ!と、膨らませながら考えていた。


 「まず・・・こいつが風船を牙で割らなくするには・・・こいつの牙を・・・おい!!何、残酷な事考えてるんだ俺。

 風船にワサビを塗りたくる・・・それじゃ、風船にこいつが寄り付かなくなるぞ・・・?!

 じゃあ、膨らませた風船の中に・・・おい!また残酷な事考えたのかよ・・・?!

 では、どうすりゃいいん・・・」



 ぱぁーーーーん!!



 「やば!自分が風船割っちまった!!

 考える事に没頭して、風船膨らませてたのをスッカリ集中出来んかった!!」


 「はっはっはっはっはっは!!」


 裕司の目線は、その割れた風船の破片の前で興奮ぎみで目を輝かせてチョコンと座っているパピヨン犬のバブリンを見ていた。


 「こいつ・・・いや、バブリン。すまん。 

 俺・・・も、風船を思わず割っちまう奴だ。

 似た者同士だよな。俺達。

 どうだ?バブリン。また練習しないか?」


 「くぅん?」


 「もう一度言うけど、風船を割っちゃったらアウトなんだよ。

 そういう『ルール』だよ?解る?」


 裕司はそういうと、膨らませ途中気味の風船をぽーーんと!パピヨン犬のバブリンの目の前に突いて放った。



 ぽーーん・・・


 ぽーーん・・・


 ぽーーん・・・


 ぽーーん・・・


 ぽーーん・・・




 「バブリンちゃん!その調子!!その調子!!」



 ぽーーん・・・



 ぱぁーーん!!



 「ぎゃいん!!」


 パピヨン犬のバブリンは、風船を牙でかじって割ったとたん悲鳴をあげてそそくさと室内の片隅に逃げてしまった。


 「くしょん!くしょん!」


 「あれ?バブリンちゃんの奴。何で風船割れたらくしゃみをするんだぁ?!」


 ・・・臭いっ臭いっ・・・!!


 ・・・風船の中身から臭いっ・・・!!


 「この風船・・・まさか?!」


 裕司は思った。


 この風船は、ポンプが見つからなくて自らの口で息を入れて膨らませた風船だという事を。

 しかし、裕司は肺活量が少なく風船を膨らますのが苦手なので、八分目しか風船を膨らませられなかった事。


 「そうだ!!」



 ・・・・・・



 『バルーン・リフティングドッグ』大会の日が来た。


 ジャックラッセルテリアや、ボーダーコリーや、トイプードルや、柴犬、ミニチュアダックス、マルチーズ、フレンチブルドッグ、ボストンテリア、ラブラドールレトリバー、ジャーマンシェパード、シベリアンハスキー・・・


 いろんな犬種の出場犬達が各々のドッグトレーナーやハンドラー達とのサポートで、風船を鼻で突いて、そのリフティング回数を競いあった。

 

 「おおっ!!フレンチブルドッグのブルンちゃん!!風船リフティング回数カウント新記録達成!!」


 会場のアナウンスに、観客達は響動めきと拍手が巻き上がっていた。



 ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ・・・



 裕司は、相棒のバブリンとの回が近付く度に胸が高鳴り、どんどん緊張してきた。


 「この風船、大丈夫だよな・・・

 俺が、肺に渾身の力を込めて一生懸命に膨らませた風船だ。

 確か、風船は人間が自らの口で膨らませてはならない。なんて『ルール』は無い筈だと思ったんだが・・・」



 ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ・・・



 「エントリーナンバー39番!裕司選手とパピヨンのバブリンちゃん!!」



 ドキッ!!


 「うわっ!!」


 裕司は緊張し過ぎて思わず躓き、ドテッ!と転倒した。



 ふうわり・・・



 「しまった!!風船を離した!!そのまま堕ちたら・・・バブリンは風船を突かずに失格・・・?!」


 裕司は青ざめた。



 ちょこん。



 「えっ?!」


 ぽーーーーーん・・・



 奇跡は起きた。


 風船が床に堕ちる寸前に、バブリンはヘッドスライディングで身体で風船を上空に撥ね飛ばしたのだ。


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!



 「いけーーー!!飛ばせ!!頑張れ!!バブリン!!」


 裕司は興奮して、思わず声をあげた。



 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!



 パピヨンのバブリンは、その犬種の名の通り、まるで蝶のように華麗に舞うように跳びはね、鼻で思いっきり風船を突いては、上空を舞う風船の軌道を読み、また蝶のように華麗に舞うように跳びはねて風船を鼻で突き飛ばした。



 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ・・・怖ええわ・・・


 ・・・この風船、あいつがまた膨らませた風船だわ・・・


 ・・・割っちゃったら、また臭い匂いが飛び出してくると思うと・・・


 ・・・でも風船は風船・・・


 ・・・風船フワフワ愉しいっ・・・!!


 ・・・でも・・・


 ・・・この風船割ったら、まじヤバイわ・・・?!



 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!



 「やりました!!このひと突きで、裕司選手とバブリンちゃん!!マサノリ選手のブルンくんの記録を破って、1位に躍り出ました!!」



 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!


 ぽーーん!!



 「まだいけますか?まだいけますか?いったーーー!!バルーン・リフティング前犬未到の大記録達成!!これはギネス級だ!!」


 「やったぜ!!バブリン!!」


 裕司は興奮の余り、大声をあげて手を差しのべた。


 「わうっ?」


 その瞬間、バブリンの集中が途切れた。


 裕司の手を差しのべたジェスチャーは、実はバブリンを仕付ける為のご褒美にビーフジャーキーをあげるジェスチャーだったのだ。


 バブリンは思わず涎を垂らして口を開けたとたん、



 ぱぁーーーーーーん!!



 「ぎゃいん!!」


 飛ばしていた風船は、口の開けた牙に触れて場内に響き渡る位にパンクした。


 ふっ・・・と、バブリンの頭の中のゲキテツが外れた。


 

 ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!ぱぁーーーーん!!



 「な、何してんだよ?!バブリンちゃん!!」


 バブリンは、すっかり風船割りモードに填まってしまった。


 今から出場選手と犬が使う風船を乱入しては手当たり次第に割りまくり、遂には会場の装飾の巨大風船までパンパンパンパンパンパンと割りまくり、遂には場はパニックになってしまった。


 「ルール失格!!ルール失格!!」



 ・・・・・・



 その後パピヨン犬のバブリンは『風船割り犬』に転向して、動画サイトの風船連続割りで人気を得た後、遂には風船連続割りの世界ギネスを達成してしまったとさ。




 ~風船を割りたくて割りたくてたまらない犬~


 ~fin~













 


 



 






 


 



 







 


 



 





 


 



 







 


 



 








 


 



 

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