宇宙戦艦とコンプライアンス
@yassy
第1話
「艦長、総員脱出致しました。あとこの船に残っているのは私と艦長だけです」
「ご苦労…」
まさかこの地球連邦軍最強の「宇宙戦艦ヤマンチュ」がここまで追い詰められるとは誰が想像したろう。確かに卑怯な罠にかかったとはいえ、まさかこんなことになるとは…
艦長のオキナワは深くため息をついた。
スクリーンを見つめていた副艦長のミヤザキ振り返って言った。
「艦長!敵の強襲艇が多数接近中です!」
「こちらの戦闘員が皆脱出したとみて我が艦を乗っ取ろうとしているのだろう。奴らにとってはこのヤマンチュの超次元量子エンジンの技術は喉から手が出るほど欲しいだろうからな」
「ヤマンチュがこの場から身動きできなくなってしまった以上、秘密を守るためには自爆しか…」
「何!?」
「え?」
「自爆装置なんていうのはSFの中だけの話だよ。まさか我が艦にそんな危険なものが搭載されているとでも思っていたのかね?万が一誤作動でもしたらどうするんだ?」
「失礼致しました!極秘の装置故、艦長のみがご存じなのかと…」
「ミヤザキ、敵の強襲艇到着までの時間は?」
「はっ!およそ5分程度であるかと」
「では、我々の脱出までに許された時間は2、3分というところか。よし。これより地球連邦軍法に則り超次元量子エンジンを無効化する!」
オキナワは手元の機器を素早く操作してスクリーン上に何かを映した。
「ミヤザキ、これは超次元量子エンジンを安全かつ確実そして恒久的にシャットダウンするための手順だ。地球連邦軍のトップシークレットであり代々の宇宙戦艦ヤマンチュの艦長のみが知ることの出来る情報だ」
「これが…」
「時間が無い。早速この手順に従って作業を始めるぞ」
「はっ!」
「まずは緊急用コンソールを開け!」
「時間が無いのに手動で行うのですか?」
「そうだ。この船の超量子電子頭脳では直接制御できないシステムの最深部にアクセスする必要があるのだ」
「了解!緊急用コンソール開きました!」
「Windowsを起動せよとある」
「ウィンドウズ…?何ですかそれは?」
「量子コンピューターが実用化される以前の太古の昔にコンピューターを制御するために使用されていたシステムらしい。ヤマンチュの超次元量子エンジンのシステムはセキュリティー上、わざわざ化石のようなシステムを使用してハッキングを避けているのだ」
「ウィンドウズ、ウィンドウズ…、あ、ありました!起動します!」
「よし。次は…」
「艦長、お待ちを」
「何をしている!時間が無いぞ!強襲艇はすぐそこまで迫っている!」
「いえ、あの、『更新プログラムを構成しています。コンピューターの電源を切らないで下さい』という表示が出たまま先に進みません…」
「なんだそれ!?」
「いえ、私にもさっぱり…」
「あとどれくらいかかりそうだ?」
「えー、あっ!今1%進みました!」
オキナワは天を仰いだ。
この宇宙戦艦ヤマンチュが負けることを前提とした手順が正しく動かないとは。
いや、無敵のヤマンチュだからこそ誰もチェックをしてこなかったに違いない…
「あっ!また1%進みました!」
間に合わない…
Windowsが起動する頃にはこのデッキは敵によって占拠されていることだろう。
そうなれば超次元量子エンジンの技術は敵の手に渡ってしまう。
「かくなる上はルールを破るしかない!」
オキナワは艦長席の生体認証装置に手をかざし、音声でヤマンチュの超量子電子頭脳に指示を出した。
「自爆装置作動!」
「あるんかぃ!」
宇宙戦艦とコンプライアンス @yassy
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