第3話 三月

「白百合さん」

 と、彼は呼びかける。

 向かう白百合と呼ばれた軍人は、跪いて「は」と応じる。

 暗い部屋だ。

 ふたりの後ろ暗さを、象徴しているように。

「彼らは……面白いですね」

「面白い、といいますと?」

 白百合の正面に座る男は、穏やかに微笑む。

「あなたと出会ったころを思い出しますよ」

「……はい、この白百合も、あなた様と出会った日のことは忘れません」

「個性的な目の色でしたね、彼ら」

「……そうですね。やはり、外からの者は、主の良い刺激になったのでしょう」

 白百合は慇懃に、丁寧に、彼の言葉に返事をする。

「白百合さん」

 彼は呼びかける。

 白百合はひたすらかしこまって、「は」と応じる。

「わたしと出会った日、あなたは雨にうたれていましたね」

「はい」

「寒かったでしょう」

「はい」

「痛かったでしょう」

「はい」

「憎かったでしょう」

「はい――ですからこの白百合は、あなた様に救っていただいた日のことを忘れることはありません」

 白百合は、深く深く、頭を下げた。

「わたしはね、白百合さん」

 そんな白百合の態度に困ったように眉を寄せ、男はその深い瞳で、白百合を見る。

「生まれてから一度も、雨にうたれたことも、身体が死にそうなほど痛かったことも、誰かを殺したいほど憎んだことも、なかったのです。だって、雨が降っていればお付きの人が傘をさしてくれるし、少しでも身体が痛めば国一番の医者が診てくれるし、みんなわたしの味方だったから憎む必要なんてなかったのですよ」

 ねえ、白百合さん。

 と、男はくどいくらいに白百合の名を呼ぶ。

「だから、わたしには理解できなかった。雨が降っても傘をさせない人がいる。身体が死にそうなほど痛む人がいる。誰かを殺したいほど憎む人がいる。わたしには理解できなかったから、誰か近くに、そういう人が必要だった――」

「はい、もちろん、この白百合の命はあなた様のものです」

「そういうことではなくって」

 男は苦笑した。

 いつになっても、この白百合という軍人は頭が固い。

 そろそろ祝言を挙げてもいい年ごろだというのに、恋人の影さえも見えない。

 白百合と釣り合う相手などそうは見つからないだろうが、それでも誰かに惚れたという話のひとつくらいは出てくるはずだ。

 しかし、噂のひとつも出てこない。

 その原因は、この頭の固さにも起因するところだろう。

 無垢な小鳥のように、親鳥である自分に従っている。

「白百合さんは、海賊のみなさんをどう思われますか?」

「はい。海賊とは、海の覇者と言っても過言ではないと聞きます。悪逆非道、残虐無比と語られる彼らですが、この数ヶ月の様子を鑑みるに、噂ほど卑劣な人間ではなさそうです」

「そうでしょう?」

 男は声を弾ませた。

 白百合がそう答えるのを、期待していたらしい。

「でしたら、ね、白百合さん、会いましょう、海賊の皆さんに。わたしは海賊のみなさんと、白百合さんとわたしで、お話がしたいです」

「……どうせ止めても聞かないのでしょう?」

「もちろん」

 白百合は溜息をひとつつき、やれやれといった具合に微笑しながら頷いた。

「あなた様のおおせのままに」


 ◇◇◇


「海賊団のみなさんとは初めましてですね。わたしが白百合の主であり、この国の王である、蝶咲蓮と申します」

 部屋の上座に座るラピスラズリの瞳を持つその軍人は、恭しく、しかし尊大な雰囲気のまま頭を下げた。

 顔には不敵な笑みが貼りついている。

 蜜薔薇の海賊団の乗組員が通されたのは、この軍人、蓮の住まう屋敷の一室である。

 広大という言葉でも足りないくらいの、広壮な屋敷だ。

 そして通された部屋は、蜜薔薇の海賊団の乗組員、総勢二十六人が入っても、まだ余裕のあるだだっ広い部屋だった。

 壁に沿うように人数分の膳が置かれており、それはニコルたちがこの国で過ごしてきた際に受けたもてなしだったが、今までのなによりも上等のもてなし料理だと一目で判断できた。

 上座に座る蓮は「どうぞお座りください」と膳を示し、同行した白百合も「さあ、どうぞ」と着席を促した。

 ニコルたちが戸惑うまま着席すると、先の台詞を蓮が言った。

「チョウザキ? 変な名前だな」

 物怖じすることなく蓮にそんな風に言葉を投げかけたのは、オパールの瞳の少年、クラレンスだ。

「蝶咲は名前ではありませんよ。ええと、確か、クラレンスさん……でしたか。わたしの名前は蓮といいます。我が国では、名前の先に苗字を名乗るのですよ」

「ふうん。じゃ、あんたはレンって名前なのか?」

「はい。お好きなように呼んでくださって構いませんよ」

「じゃあレンでいいや」

 一国の王に対して随分不躾な態度だが、クラレンスにはその自覚はない。

 赤ん坊のころからずっと海賊船で育ってきたのだから、礼儀を学ぶ機会がなかったのだ。海の上での礼儀など、海賊と出会えば略奪と闘争、海軍と出会えば逃亡と闘争だけである。

 そんな無礼極まりないクラレンスの言葉にはさして興味も示さず、蓮は微笑むだけだった。

 どこか作り物じみた――というより、見ただけでわかるような作り笑顔だった。

「ニコルさん」

 胡散臭い笑顔のまま、蓮はニコルに水を向けた。

「……なんだ」

「わたしとの約束、守っていただいているようでありがたい限りです。一度だけなにやら白百合と喧嘩? 手合わせ? ――まあどちらでもいいのですが――を、行ったようで。いかがでしたか、白百合の腕前は? 彼の実力は我が国でも一二を争うほどなのですよ」

「………………」

 ニコルは少し考えてから、「いや、礼を言われるほどのことじゃない」と断りを入れて、蓮の言葉を受けた。

「白百合の腕前は、あのときだけじゃ量れない――と、俺なら断ずるけどな。あのとき……浜辺でチャンバラをしただけじゃあ、軍人の本気なんかわからないだろう。本当の――」

 区切って、次の単語を強調する。

「――本当の戦闘じゃないんだから」

「なるほど」

 蓮は軍服の懐から鉄扇を取り出し、ばんっ、と開いた。

 そして口元を軽くあおぎながら、くすくすと含み笑いを零した。初めて会ったときと変わらない、人間のいやな部分を凝縮したような笑い方である。

「確かに、お遊びと実戦は違いますね。ニコルさんはきちんと弁えてらっしゃるようだ。では――どうでしょうね。ニコルさんが言うところの、本当の戦闘だった場合。白百合はあなたに勝てると思いますか?」

「さあな」

 煽るがごとき蓮の意地の悪い質問に、ほぼ即答でニコルは首を横に振った。

 その様子を見て、蓮はほんの少し不意を突かれたような表情をする。

「おや……意外ですね。天下に名だたる大海賊は、もっと自信たっぷりかと思ったのですが」

「それは慢心っていうんだぜ、王様。確かに今、白百合と戦ったら俺が勝つかもしれない。しかし、百回戦って百回勝てるなんてことは、そうそうない。俺の体調が少しでも悪ければ、白百合はそこを突くだろう。もしかしたら白百合が絶好調で、誰にも負けないことだってあり得るんだ」

「なるほど」

 蓮は同じ言葉を呟いて、今度は鉄扇を、ばちんっ、と閉じた。

「けして自信を過大評価せず、きちんと現実を受けとめていらっしゃる。そうでなければ、海賊の船長など務まりませんか」

「そうだな。傲慢で、自信過剰な奴は、だいたいすぐ死ぬ」

「ふむ。有益なことを聞きました。――と、ああ」

 先ほどからずっと気付いていたくせに、たった今気付いたような素振りを見せる。

「申し訳ありません、据え膳でしたね。他人の話を聞いていたって、なんの腹の足しにもなりませんから」

 説法なんかも、空腹時に据えられた豪華な食事と比べてしまえば、ありがたみが変わってしまいますものね。

 そんな風に、蓮は嘯いた。

「それではお待たせしてしまい申し訳ございません。手を合わせてください」

 いただきます。

 蓮に言われるまでもなく、海賊団の乗組員たちは目の前の料理にばかり気を取られていた。

 いつになったらふたりの会話が終わるのだろうと、やきもきしていた。

 食前の挨拶も終わった今、もう我慢の必要はない。

 飛びつく勢いで、食らいついた。

「おやおや」

 などという、蓮の言葉などもう耳には届かない。

 目で食べる料理もあるということは知っていた。しかし質より量を重視する海賊が、そんなもので満足するわけがない。

 もちろん味は格別だった。きっと国の最高峰の料理人が拵えたものに違いない。舌根を支配する至福。脳髄に走る幸福。美味とは、そして美食とは、こうしたものを指すのだろう。

「……白百合さん」

 しばらく無言の食事の時間が続いたが、空腹も和らいだことで――そして上役同士が打ち解けたわけではないのは明白だが、それなりに腹を割って話していることで、緊張も和らいだので――ぽつぽつと、会話が生まれ始めた。

 その中で、マリアーノが隣に座るニコルの背を回って、さらにその隣の白百合に声をかける。口元に手を当てて、内密な話をするかのような仕種で。

「彼――彼? が、この国の王様なんだよね?」

 対する白百合も、マリアーノと同じように口元に手を当てて返答した。

「はい。あの方がこの国の国王陛下でございますが……なにか?」

「や、なにかってほど大仰なもんじゃないんだけど……目の色がさ」そこまで言って、ちらりと蓮へアメジストの視線を向ける。「この国の人たちって、みんな黒い瞳ばかりじゃない。なのに、彼はラピスラズリ……青い瞳だから」

「ああ、そのことですか」

 蓮の瞳がラピスラズリだと言い出したのは言うまでもなくニコルだ。彼には人の瞳を宝石に例える癖がある。

 マリアーノの瞳はアメジスト。

 クラレンスの瞳はオパール。

 そしてニコル自身の瞳はペリドット……。

 そんな彼の影響もあってか、マリアーノは人の目の色を観察するようになった。

 だからすぐに、蓮の瞳の色がこの国においては特殊であると気が付いたのだ。

 ニコルやマリアーノが生まれた国ならば、なんの変哲もない青い瞳――だが、この国では青い瞳など、そうそう見ない。

 みな、黒く深い瞳ばかりだ。

 もちろん、白百合も――。

 黒い瞳ばかりの地で、蓮の青い、ラピスラズリの瞳は目立たないのだろうか?

「主の瞳の色は、この国では確かに珍しいですね」

「白百合さんは、なにか知ってる?」

「いえ、なにも?」

 呆気なく、白百合は首を横に振った。

「実はわたし、主の半生を知らないんですよ。互いに、それなりの年齢になるまで出会ってさえいなかったのですから当然ですが、主が何故青い瞳なのか、知らないのです」

「そうなの?」

「はい、まったく。それほどまで、青い瞳とは珍しいものなのですか?」

 この白百合という男は、驚くほど――いっそ清々しいくらい、ものを知らないようだ。

 理由は、すぐに彼の口から語られた。

「まあ、その……言いづらいことなのですが、わたし、幼いころは一度も外に出たことがなかったのです。それがひょんなことから外に出て、そこで、主と出会ったんですよ。雨が降っていたことを記憶しています。――ですから、主の瞳の色が珍しいものだなんて、露ほども思わなかったんです。わたしの世界には、もう、主しかいなかったもので」

 はにかみながら、そんなことを言う。

 マリアーノはそんな彼を見て、少し温かな気持ちになり、そして心底、ぞっとした。

 幼いころは一度も外に出たことがなかった。

 わたしの世界には、もう、主しかいなかった。

 それはなにを意味するのだろう。

 そして、この男は、何故そんなことをはにかみながら話せるのだろう。

 まるで善悪の区別がつかない子供だ。

 無垢は善であるかもしれない。しかし同時に、恐怖の対象にもなり得る。

 なにも知らないということ。

 子供と同様であるということ。

 それはつまり、残虐性も併せ持っているということに直結する。

「――お前らなぁ」

 と、ニコルが肩越しにふたりを睨む。

「いい加減、人の背中で会話すんのやめろよ。こそばゆいんだよ」

 ふたりを睨む、ニコルのペリドットの瞳だって、この国では珍しい。

 自分の世界に蓮しかいないと言うのなら、もしかしたら――否、きっと――珍しい瞳の色だとは思うまい。

 見ない色だな――程度の認識だろう。

 だから蜜薔薇の海賊団の乗組員たちとも、違和感なく関わっているのかもしれない。

 マリアーノは気付いている。

 旅籠の従業員たちが、自分たちの髪色や瞳の色を気味悪く思っていることを。

 見慣れないのならば当然だ。

 聞いたところによれば、この国は長らく鎖国という状態にあったらしい。

 他国との関わりを、異常なまでに遮断していた。

 鎖国の時代があったせいで、この国が排他的になったと考えれば、旅籠の従業員たちの奇異の目も納得がいく。

 それなのに。

 それなのに、だ。

 白百合は一度たりとも、ニコルやマリアーノ、クラレンスなどの海賊団の乗組員を気味悪がったりしなかった。そしてこれからもしないだろう。

 その背景には、彼が主と呼ぶラピスラズリの瞳があったからではないか。

 そのことをわざわざ白百合に訊ねたりはしない。

 彼自身、自覚しているとは思えない。

 ならば訊ねても――無駄だろう。

「……ああごめんねニコル。そんなに寂しいんだったら早く言ってよ。すぐに会話の仲間に入れてあげるのにさ」

「おい、俺がいつ寂しがった」

「大丈夫、俺はちゃんとわかってるよ」

「話を聞け、マリアーノ」

「もちろん。ちゃんとお前の話も聞いてあげるよ」

 ニコルの攻撃的な言葉をわざと軽くあしらい、マリアーノは再び白百合に向き直った。

 別の方向から、蓮について情報を求めようという魂胆である。

「ねえ、白百合さん」

「はい、なんでしょう」

「白百合さんの主さん――蓮さん? 随分可愛い顔してるよね。女の子みたい」

「は――?」

「は――?」

 白百合とニコル、ふたりの声が揃った。

 まずニコルの主張。

「いやいや。あいつはどう贔屓目に見ても可愛い顔なんかしてねえよ。あの人を見下すラピスラズリの目だって、確かに綺麗だが輝きが足りねえ。整った顔立ちをしちゃあいるが、笑っても偽物みてぇな笑顔だし、仏頂面ばかりで可愛げの欠片もないな!」

 次に白百合の主張。

「いえいえ。主は可愛い顔と言うより精悍な顔でしょう。とても美しい青い瞳はどの女性も魅了されること請け合いです。そろそろお嫁さんを貰っても良い年ごろだというのに、仕事ばかりで頭が固いのが困りものですがね。性格も男らしくあって、とても女の子みたいだとは思えません」

 ふたりの否定は否定ながらに内容は百八十度違った。

 反りが合わないからとりあえず否定して皮肉を言っておくニコルと、主人ゆえに彼を擁護し褒め称える白百合。

 そんなふたりを見て、マリアーノは「あはは」と笑う。

「仲いいね、ふたりとも」

 その言葉に、ニコルと白百合は面食らった表情を作る。

 大勢の部下に囲まれるが同等の人間が存在しないニコルと、ひとりの主人とそれなりの部下しか持たない白百合は、突き詰めるとよく似ている。

 ニコルに対しては、マリアーノもなるべく同等に接しようとするが、どこか彼を特別視して同等の、友人のように接することはできないのだ。それがニコルの孤独感を増長させてしまっていることも、マリアーノはわかっている。

 ニコルは自分たちを信じてくれている。しかし信じることと同等であることは違う。言うなれば、神を崇拝する神父に近い。

 だからそんなニコルと、同等に、まるで友人のように接している白百合の存在は、素直にありがたい。

 彼に、友人という人間関係ができることは、嬉しい。

 これはニコルに対する、親のような情だ。

 自分ではニコルの友人足りえないことをわかっていて、そしてニコルに友人ができることを願っているマリアーノだけの感情だ。

 ほんの一時とはいえ、彼に友人のような人間ができることは、マリアーノにとって悲願にも似たものだった。

 ――難破した甲斐も、少しはあったのかな。

 難破自体は不幸だったけれど、ニコルに友人ができるのは、幸福のはずだから。

 ニコルが誰かを海賊に勧誘することは多々あれど、あそこまで熱心に誘ったのは、先月、白百合を誘ったときのみである。

 マリアーノを誘ったときだって、強引ではあったがあそこまで熱心ではなかった。

 ――そうなると、嫉妬しちゃうな。

 ――ニコルの一番、あっさり取られちゃった。

 もちろん、嫉妬したからといってマリアーノは白百合になにかをしようとは思わない。

 むしろ祝福しようとさえ思っていた。

 何故なら、マリアーノにとって、ニコルは大切な息子のようなものだから。


 ◇◇◇


 白い軍服を着た色白の青年が、ふと気付く。

 プレナイトの双眸に構えていた双眼鏡を下ろし、後方へと声をかけた。

「ミューアヘッド大佐」

 呼びかけられた男は、ゆっくりと顔を上げる。

 エメラルドの瞳が宿る意志を強くたたえ、きらめく。

「どうした?」

「蜜薔薇の海賊団が消息を絶ったのはここらへんなんですよね?」

「そうだ」

 彼が日陰から出ると、日の光に照らされて黄金色の髪がきらきらと輝いた。

「パイレーツ・オブ・ローズ……蜜薔薇の海賊団が消息を絶ってもう三月。海賊が消息を絶つことは珍しくないが、三ヶ月はいささか長期すぎる。嵐に遭って全滅したか、それともどこかで定住しているか……いずれも、今までの奴らにはなかったことだ」

『奴ら』という単語だけ、唾棄すべきものだとでも言うように、エメラルドは吐き捨てた。

「目撃情報もない、死亡情報もない。はっきり言ってお手上げだが……奴らの死体を確認するまで、安心はできない。三ヶ月前、どこかの漁夫が海上で奴らの海賊船を見たというのが最後の目撃情報だ――ここまでが、昨日会議で話した通りだが、どうした?」

「取るに足りない情報かと思いますが……この先九時の方向に、島らしきものが見えました」

「貸せ」

「は?」

「その双眼鏡を貸せ」

「は、はい!」

 半ばひったくるように、エメラルドはプレナイトから双眼鏡を受け取った。

 そして甲板から身を乗り出して、プレナイトの言った方向を凝視する。その表情は、みるみるうちに険しいものへと変化していった。唇は強く引き締められ、エメラルドの瞳に力がこめられている。

「………………」

「……あの、ミューアヘッド大佐?」

「すぐに船を九時の方向へ。上陸の準備を始めろ」

「じょ、上陸するのですか?」

「あの島に滞在している可能性もある。可能性は、潰す」

 そして軍服のマントを翻し、船内に入っていく。

「――あなたがどこにいても、ボクが必ず見つけ出す……パイレーツ・オブ・ローズ――キャプテン・ニコル――!」

 エメラルドの瞳には、その色に似合わぬ燃えるような執念が宿っていた。

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