蜜薔薇の海賊団~島国のオブシディアンとラピスラズリ~
巡ほたる
第1話 一月
ペリドットの瞳を持つ男が率いるパイレーツ・オブ・ローズ。通称『蜜薔薇の海賊団』という海賊団がある。彼らは悪逆非道、残虐無比として七つの海に名を馳せていた。
略奪。
殺戮。
暴虐の限りを尽くしたと言っても過言ではない蛮行。
そんな蛮行を、食事を摂るがごとく行ってきた彼らは、広大な海の波に襲われた。その傍若無人な振る舞いに、海の神が怒りを示したのかもしれないと、そう考える暇さえも与えられず、船は破壊され、蹂躙され、とある島国の王国に流れ着いた。
蜜薔薇の海賊団船長、キャプテン・ニコルはペリドットの瞳を鋭くきらめかせ、金色の髪を惜しげもなく晒し、正面に座す軍人と向かい合っていた。
「……わかりました。いえ、もう白百合が決断したことですから、わたしに介入の余地はありません。なので――そうですね、わたしから言えることは、略奪、殺戮などの、いわゆる海賊行為をこの国では一切行わないという約束さえ守っていただけたら、それで構いません。いくらでも我が国に滞在しても良いと許可しましょう。――むしろ歓迎しましょう」
ニコルの正面に座すラピスラズリの瞳の軍人は、海賊であるニコルにまったく臆することなく、そう言った。
――ふうん。
ニコルは慎重に、ラピスラズリの男を検分する。
鴉の濡れ羽のような漆黒の髪は短い。濃紺の軍服に身を包み、右肩に白いマントを纏っている。女性だと言われたら、違和感なく信じてしまいそうなほど整った顔立ちだ。
名を、レンという。
蓮の花という意味で――この国の文字で――蓮。
なるほど、凛とした雰囲気はまさに頂点に立つに相応しいだろう。
部下が保護した見慣れぬ髪と瞳の色の人間が、近辺に漂着した船の持ち主で、しかも海賊であったことがわかるや否や、海賊の頭目と話がしたいなどと提案した酔狂な面もあるが、しかしそれに関しては、ニコルにとっては好印象だった。
好奇心旺盛とでもいうのか。
下手に高慢な性格でいるよりはずっといい。
一国の王ともなれば、それなりに寛容なほうが、ものごとに対して柔軟な発想ができる。
そう。
このラピスラズリの男は、この国――名前も知らない島国――の国王陛下であらせられるのだ。
側近も護衛もなく、海賊という危険極まりない男と、広いが隔絶された部屋で、一対一で話すほどの豪放磊落な判断に、ニコルは当初、馬鹿であるか己の力量を測れない高慢な人間であるかと予想したが、それは裏切られた形になる。もちろん、いい意味で。
「もてなしは我が国の誇る文化でしてね、是非楽しんでいただけたらと存じます」
「……そりゃあ寛大な対応、痛み入るところだが――都合が良すぎるな」
ニコルは見定める目つきで蓮を眺め、重い口を開いた。
「海賊風情に王自らが謁見し、その後を保証してくださる――あまりに至れり尽くせりな提案じゃあないか」
いい話には裏がある。とんとん拍子で進む話にはまず疑ってかかるべきだ。
油断したところを一網打尽――そんなものは歓迎できない。
「なにか不満でも?」
「不満はない。だがこの場合、不満がないことが不満なんだよ」
「ああ、そういうことですか」
蓮は懐から鉄扇を取り出し、それを勢いよく開く。ばんっ! と、大きな音が響いた。
鉄扇とは文字通り鉄でできた扇。国王陛下の唯一の武具としては情けないが、護身用としての役割は大いに期待できる。本来なら暗器の部類に入るが、蓮はまるで見せびらかすようにそれを取り出し、開いた。
おそらく音に対してどう反応するか見定めるつもりだったのだろうが――ニコルはそれを見越して、なんの反応も示さなかった。
反応なき反応にさして気分を害した風もなく、蓮は鉄扇で口元を扇ぎながら続きを話す。
「答えは至って単純です。わたしの部下、白百合の決断だからですよ」
「さっきも言ってたな。あんたは随分その『白百合』に信頼を置いているらしい」
「らしい、ではなく、信頼を置いているのですよ」
くすくすと含み笑いをする蓮。
当然のことを訊ねられたことがおかしくてしょうがないといった風に。しかしその笑いは、どこか嘘くさい。
「俺が『白百合』を脅してそう報告するように仕向けたとは考えられないのか」
「考えられませんね」
揺さぶりのつもりで言った軽口も、彼の前では無力だった。
むしろ突き放すが如く、断言されてしまう。
「彼は海賊程度の脅しに屈するほど弱くありませんから」
「海賊程度とは――程度とは――言ってくれるね」
「気分を害してしまいましたか。それは誠に申し訳ありません」
誠に――と言う割には、誠意は欠片も見えなかったが、平気で嘘を吐けるほどでないと、一国の王など務まらない。
ニコルもその反応に関しては特別なにかを感じることはなかった。
海賊に対して本心のままに対応するのは馬鹿のすることだ。
馬鹿でなければ愚か者か。
「こちらには闘争の意思はないので言いますが、お望みならばそれなりの物資の補給もお手伝いしますよ」
「それは嘘だな」
「ええ、嘘です」
嘘を吐き、嘘を看破されたというのに、ちっとも悪びれず、蓮はとびきりの笑顔をニコルへ向けた。
「それでも、この国にいる間の安全は保障しましょう。そうですね、白百合に言って、あなた方の宿泊する施設も提供させましょうか?」
「嘘だな」
「本当です」
海賊行為を働かないという約束を守ってくださればの話ですがね――と、付け加える。
「きっと、指示せずとも白百合はすでに、あなた方の宿泊する施設を手配しているころでしょう」
「まあ、あのお人好しならそうするだろうな」
「それに、わたしは海賊という方々に会うのは初めてでしてね……是非とも、仲良くしたい所存です」
裏のある笑顔でにっこりと笑う蓮。魅力的だが、メッキで固められた紛い物を彷彿とさせる。
この蓮という男、なかなかに――策士だ。
海賊という鼻つまみ者を厚遇することで、国民と海賊、ふたつの立場から支持を受けることをわかっている。
特に海賊とそれなりの協力関係になれば、どんなメリットがあるのか理解しているようだ。
海を統べる者たちが、どれだけ貴重な人材か理解している。
「本当ですってば、いい加減睨むのはやめてください。貴方の目、この国では珍しい色なので、あんまりじろじろ見られると落ち着かないんですよ」
「……それは悪かった」
呟くように言って、目を閉じる。
別に蓮に言われたから従ったわけではないが、相手が不快を感じて先ほど提示した条件を――好条件を――ふいにするのは望むところではない。
口先だけでも自分たちの安全を保障してくれると申し出てくれているのだ。
こちらも、口先だけでもそれに乗るべきだろう。
それが最善策だ。
ニコルにとっても、ニコルが率いる海賊たちにとっても。
◇◇◇
「我が主はどうでしたか?」
ラピスラズリの瞳をした男が住まう屋敷を後にしたその直後、ニコルはオブシディアンの瞳を持つ男に話しかけられた。
さして心配をしての発言というわけではない。自ら王に会わせておいて、勝手に心配するほど身勝手な人間ではないらしい。
彼こそが、先ほどまで国王陛下と海賊の会話にたびたび登場していた男――白百合である。
「ああ――まあ、上々な結果だよ、白百合」
「ふふ、それはなにより。主はなんと?」
「お前の好きにしろってさ」
明確にそう言ってはいなかったが、言葉の裏を読めばそういうことだろう。
海賊たちへの関与は白百合に任せる――と。
「なるほど。わかりました」
頷いて、白百合は「こちらへ」とニコルを促した。
どこへ行くか――は、わからない。
土地柄などあるはずもないニコルは促されるまま、白百合についていく。
白百合。
広大な海にぽつんと存在する、閉鎖された島国の軍人。
濃紺の軍服。左肩に白いマントを纏い、腰に剣を提げている。
――あのラピスラズリとは、鏡だな。
もっとも、釦のあわせは鏡ではなかったし、ラピスラズリは腰に剣を提げていなかった。しかしニコルが見た限りでは、肩にマントを纏っている軍人は白百合と、蓮だけだ。
つまりオブシディアンの男、白百合は、相当にこの国――もしくはラピスラズリ――にとって、特別な存在なのだろう。
上司が誰かひとりに特段に目をかけるということはよくある。それは国王とて例外ではない。
ニコルだって、海賊団の中でも副キャプテンにはそれなりに特別視している節を自覚している。
単に距離が近いだけかもしれないが、人間であれば当然の心境だろう。なにも糾弾すべき事象ではない。
「ほかになにか言われたことはありますか?」
と、白百合が問う。
「なにか、とは」
「なにかと言えばなにかですよ。例えば……ほかの船員の方々とか」
「特には聞いていない。それもあんたが自由にすればいいんじゃないか? あとは――歓迎するって、言われたな」
「歓迎、ですか」
「なんでも、もてなしはこの国の誇りだとか」
「ええ、その通りですね」
ふむ。
歓迎やもてなしについてラピスラズリが語ったことは、あながち嘘ばかりというわけではないらしい。どうにもラピスラズリの言葉を疑ってばかりいるせいで、すべてが嘘なのではないかと勘繰ってしまう。
「食文化や神社仏閣など、我が国の文化を楽しんでいただけたら幸いと、わたしも思いますので」
にこやかに語る白百合。本気で海賊を歓迎し、もてなそうと思っているようだ。
それこそ、あのラピスラズリと鏡だ。
どこまでも冷たく疑惑や牽制をもって接するラピスラズリと、どこまでも温厚で親しみと真摯な態度を貫くオブシディアン。
ふたりが近しい存在であることはすぐにわかるが、何故ここまで対照的なのだろうか。
似た者同士でないことは確かであるはずなのに。
ニコルは心中を悟られないよう気をつけ、あえて仏頂面で白百合に向かった。
「海賊行為をしなければ、っつー条件付きだけどな」
「それはその通りですよ。わたしが主の立場でも同じことを申しますね」
「ふうん」
「海賊行為がなければ、いつまでもここに滞在して良いと言われませんでしたか?」
言われて、そういえばそんなことも会話もあったことを思い出す。
「ああ、言われた」
「ならば寝泊まりする場所も必要ですよ」
そう言って、白百合は右手で立ち並ぶ建物のひとつを示した。
ラピスラズリの憶測通り、彼はニコルたちのために宿泊する施設を用意していたらしい。
「こちらが、これから皆さまに過ごしていただく旅籠でございます」
◇◇◇
七日ほど前、ニコルたちパイレーツ・オブ・ローズ――通称『蜜薔薇の海賊団』の乗組員が乗る船は、嵐に遭遇し、あえなく難破した。船など原型は留めたものの、もう航海に出ることは不可能だと判断せざるを得ない状態だった。
乗組員たちは波に呑まれ、散り散りにはぐれてしまい、生きているのか死んでいるのかもわからない。
諸国から奪った財宝も、海賊の命ともいえる海賊旗も、すべて海に沈んだ。
難破した先に船の残骸と共に流れ着いたのが、この海の上に浮かぶ島国だったのだ。
島国。
世界地図に載っているかも不明な――いや、載っているはずだが、ニコルはどの国なのかわからなかった――名も知らぬ国。
王国らしきこの国の浜辺に流れ着いたとき、最初に彼を見つけたのが、偶然近辺を巡回していた、白百合という、オブシディアンの瞳を持つ男だった。
彼はすぐさまニコルを保護し、手厚く看病した。まるで幼子を相手にしているかのような温情具合であった。最初はそれなりに抵抗したニコルだったが、柔らかな物腰と堅い意思でニコルの面倒を看ようとする白百合に毒気を抜かれ、本日このときまで、白百合の世話になりっぱなしだったのである。
不甲斐ないと思いながらも、身体の不調は正直である。だから甘えてしまったのだ。
そして七日経った本日の朝、ある程度の回復を告げたニコルは、それと同時に、自らが海賊であることを打ち明けた。
海賊の船長であるというのに情けない話だが、ニコルは白百合という人間に対して一種の情を抱いてしまったのだ。
軽蔑と恐怖を抱かれるという予想に反して、白百合の反応は冷静なものだった。
――そうだったのですか。
柔らかな声で、むしろ納得したとでも言うがごとく。
――でしたら、わたしも立場上上司に……いえ、我が主に報告せねばなりません。
――それでもよろしいですか?
頷くニコルに対して、白百合は微笑んで、
――正直に申し出てくださってありがとうございます。
と、頭をさげた。
そして主にニコルのことを報告したその直後、白百合の主――この国の国王陛下――は、ニコルと話がしたいと提案したのだった。
「……これまでが、以上の流れだ」
白百合に案内されたハタゴ――この国の言葉で、旅人が宿泊する施設のこと――の一室に通されたニコルは、まず驚いた。
そこには、全員ではないにせよ、もう会えないと覚悟していた蜜薔薇の海賊団の乗組員が相当数、居たからである。
みな、この国の軍人に保護され、このハタゴに案内されたのだと言う。
驚いたまま白百合のほうを向くと、白百合はにこりと微笑んで「たとえ海賊であろうと、人命は人命ですから」と嘯いた。ラピスラズリ――蓮が白百合に絶対の信頼を寄せる理由は、きっとこういうところにも起因するのだろう。なんでも、彼の命令で、本格的な捜索が行われたらしい。その結果、七日間でこれまでの人数の乗組員が保護されたという。
ニコルはまず、白百合に礼を言った。
自分が保護されたときはむしろ憎まれ口を叩いていた彼でも、保護されたのが自分だけではなく、大切な仲間たちも保護されたとなれば話は別だ。
自分の命はどうでもいいが、仲間の命についてはどれだけ感謝してもたりないくらいだった。
そして、ある程度の経緯を、仲間たちに語り終えた場面へと移る。
「うん、ニコルの事情もだいたいわかったよ。俺たちも別にこの国で悪さしようなんて思わないしね」
そう受け答えるのは、アメジストの瞳を持つ蜜薔薇の海賊団副キャプテン、マリアーノである。赤茶の髪は肩に届きそうな長さだが、女々しさを感じるような印象はない。温和な表情を浮かべるこの男は、蜜薔薇の海賊団の中では最もニコルと関係が長い存在だ。
「そう言ってくれると助かる。船が沈んだんじゃあ、俺たちはどうしようもないからな」
「そうだね、ここで船を新たに得られたら嬉しいんだけど……流石にそこまでお世話にはなれないよね――小さな船でも、まあ俺たちならなんとかなるでしょ。この国じゃあ海賊行為を働けないし、働くつもりもない」
やれやれと言った風に緩やかに首を振るマリアーノ。そして続ける。
「あまり得意分野じゃあないけど、いっそのこと、ここで地道に下働きでもする? 真面目に労働する海賊なんて聞いたことないけど、背に腹は代えられない。ねえ、白百合さん、なにかいい働き口知らない?」
と、海賊団の船長と副船長が話しているのを邪魔してはいけないと思って、ニコルから一歩引いていた白百合に、マリアーノが水を向ける。
「ああはい――そのことですか」向けられた白百合は少々戸惑いを顔に滲ませながら、顎に手を添えた。「わたしが私財を投じて皆さまに船をお譲りするつもりでいるのですが、だめですか?」
「は――――?」
マリアーノが頓狂な声をあげる。
なにを言っているんだ、この男は?
私財を投じて船を譲る?
私財を投じて? 海賊に? 船を譲る?
だめどころじゃない。
そんなことをすれば、世界海軍に捕まってしまうに決まっている。
そんなこともわからないのか?
海賊に加担なんかして、いいことなどなにひとつないというのに――!
部屋に集まっている海賊のメンバーたちも、白百合の発言に驚いているようだった。
「もう船大工の方々には話を通してありますので、あとは皆さまが望んでくだされば……と思っていたのですが……」
「ちょ、ちょ、ちょ……ちょっと待ってよ白百合さん」
マリアーノが額を押さえながら白百合の話の続きを制した。
「そりゃ、俺たちは船を失ってるから、ここで船を得られるのは嬉しいんだけどさ、でも、海賊だよ、俺たち。世界的犯罪者なんだよ。そんな鼻つまみ者に私財を投じて船を譲るなんて、世界海軍が黙ってない――」
「船、いらないのですか?」
きょとんとした顔で首を傾げる白百合。
喜んでもらえると思っていたが、あまり芳しい反応でなくて困っているのだろう。どこまで無垢なのだ。
「差し出がましいことをしたことをお詫びします。それでは……船の話はなしということで――」
「いやいやいや、船は欲しい。でも、あなたたちにそこまでする理由がないから、不思議なんだって」
珍しくマリアーノが焦っている。
ニコルはその事実だけで顔を覆いたくなるほどおかしく思えた。
実を言えば、ニコルはこの船の話を事前に聞いている。彼が白百合の屋敷で看病されている最中のことであった。もちろん彼も最初は驚き戸惑い、罠ではないかと疑いもした。
しかし嘘ではないと判断し、白百合の申し出を受けることにしたのだ。
何故嘘ではないと判断できたかと言えば、白百合は嘘を吐けないたちだと、この一週間看病されて察しが付いた。
嘘つきには嘘つきの臭いがある。
それはどれだけ覆い隠そうとしても要所要所で露わになってしまうものだ。
しかし白百合の物腰には、嘘を吐いている様子もなにもない。どころか、言うことすべてが真のことであると判断できた。
なにか重大なことを隠しているようではあるが、それはきっとニコルたちにとっては関係のない嘘だろう。
「マリアーノ」
憔悴の表情を浮かべている副キャプテンに声をかける。
「船の話はもう話がついてる。船長の決定だ、異論はないな? 俺たちはこの男、白百合から船を譲り受ける」
「……ニコルが言うならいいけど」
マリアーノは言う。
「そりゃね、もともと船がなきゃ海に出られない。そんなの海賊として終わりだもの。だったらその話に、不本意でも乗らなきゃいけない。例え罠だったとしても――」
そしてちらりと、白百合を窺う。アメジストの瞳が、白百合を閉じ込める。
「罠だなんてとんでもない。先ほども申し上げた通り、海賊行為をこの国でされない限りは、わたしたちはあなたがたを歓迎いたします」
白百合はそして、にっこりと微笑んだ。蓮と違い、心の底から抱いている厚意ゆえの微笑。
マリアーノはそんな白百合を見て、少しの悪戯心で彼を揶揄した。
「ふうん。この国は、随分と平和ボケしているのかな」
「否定はできませんがね。長らく戦というものも経験していませんし……けれど、諸外国の海賊と仲良くできた場合の利点は把握しているつもりですよ」
そこまで言って、白百合はニコルを見た。
あとは貴方が言ってください。とでも言うかのように。
「じゃあこの中で、こいつの意見に反対の奴は?」
挙手をしながらニコルは海賊の仲間たちへと呼びかけた。
反対に挙手をした者は――いなかった。
「じゃあ、賛成の奴は」
誰も手を――挙げなかった。
ニコルは不敵に唇の端を歪め、意地の悪い笑みを漏らした。
彼らの心中を把握している人間だけができる笑みだ。
「沈黙は肯定と見なそう。俺たちは船ができるまでこの国に滞在する。いいな?」
◇◇◇
こうして始まった、海賊たちの物語。
彼らがこの国に滞在した、宝石のように輝くたった一年間の物語。
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