ルールは理に適っている

けろよん

第1話

 わしは幼い頃から神様に憧れておった。地上に様々な天変地異や恵みを与え、人々に畏怖されたり崇められたりする神様になりたかった。

 そう思い、一生懸命に勉強して修行して徳を積み、わしはついに駆け出しのペーペーだが、一つの世界を任せられる神様になった。

 さて、神には守らなければならないルールがある。守れない奴は堕天使や悪魔や破壊神になって嫌われてしまう。

 嫌われるのは嫌なので、わしは天界にある個室の神ルームでソファに座って、ルールブックを確認した。

 この本には先祖代々の神々が記してきたルールが載っている。その知恵はきっと役に立つはずだ。そう思い、目を通す。


「神様の仕事、まずはトラックを暴走させて人を殺しましょう」


 変わった仕事だと思った。神の仕事と言えば天変地異や恵みを与えて人々を導くことだと思っていたが、どうやら長い事修行していた間に神の仕事も変わったらしい。

 わしは不思議に首をかしげたが、ルールで決まっているなら仕方がない。

 神の奇跡でトラックをちょいちょいと暴走させ(ドライバーは大層慌てておった。当然じゃな)、キキーッ、ズガーーンッ!

 キャー、あなたー! 人を跳ねた。

 どうやらまだ新婚の男のようだ。妻の前で死んだ彼はすぐにここに来た。そして、文句を言った。


「僕は妻のところに帰らなければならないんだ! 元の世界に返してください!」

「待て待て。このルールブックによれば君は異世界にチート能力を持って転生できるのだぞ」

「知ったことか! いいから返せって言ってるんだよ! この糞神が!」

「ぐええええ!」


 殴られるわし。こんなのわしの知っている神様じゃない。ひっくり返ってマウントを取られながらわしはルールブックを確認した。

 注意書きがあった。


『ただし、転生させるのは現世に未練が無い人間にしましょう』


 もっと早く言えよ。いや、確認しなかったわしが悪いのか。わしは何とか殺気に漲る彼を押しとどめて言った。


「済まなかった。君は現世に返そう」

「分かればいいんだよ、糞が!」


 わしは男を現世に返してやった。まさに葬式が行われていた現場で男は蘇った。神の奇跡だと騒ぎが起こり、男と再会した妻は泣いて神様に感謝していた。

 まあ、こういうこともあって良かったかもしれない。

 ルールブックをしっかりと確認したわしは再びトラックを暴走させ(ドライバーは大層慌てておった。当然じゃな)、キキーッ、ズガーーンッ!

 今度は見るからに現世に未練が無さそうな陰キャそうな少年をひき殺した。

 彼はすぐにここにやってきた。今度は殴られないように気を付けないといけない。わしは慎重に様子を伺いつつ話しかけようとするのだが、何と向こうから話しかけてきた。

 陰キャそうなのにハキハキと、ひき殺したのに嬉しそうに彼はこう言った。


「これって知ってますよ。異世界転生ですよね!」

「あ……ああ、そうじゃが……」


 何で知っているのか知らないが、話が早いのは助かる。彼はさらに身を乗り出して言ってきた。


「では、早くチート能力を与えて転生させてください!」

「いいが、現世に未練は無いのか?」

「そんなの僕にはありませんよ! さあ、早く!」

「あ……ああ……」


 達観しておるのう。

 わしは戸惑いながらも少年の望んだように能力を与えて転生させてやった。彼はとても喜んでいて、死ぬ前よりも明るい希望に満ちていた。

 見送ってわしは思った。


 ルールって理に適っておるのう。

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