第5話 ブレスレット

十二月九日(月)

──十六夜堂、ですよね。勿論覚えています。あれは確か◇◇県の市街地でしたよ。ちょっと道が複雑だったので、もう一度行けと言われても行ける気はしませんが。

店員さん、ですか?お爺さんでしたよ。私の父よりお年を召しているのに、動きがとてもきびきびしていて、凄いなと思ったのでよく覚えています。買ったのはこのブレスレットです。なんでも「幸運になることが出来るブレスレット」だそうですよ?胡散臭いかもしれませんが、私は確かに幸せになれたと思っています。願いがすべて叶ったわけではありませんが、私自身に大きな災いもなく、平和な毎日でしたもの。

…………確かに身内や知り合いに不幸が続いたことも事実ですし、彼らにそのようなことが起こる前に最後に会っていたのは私です。しかしそれだけで私の所為だと言われるのは心外ですね。偶然ですよ、きっと。

え?私が彼らの運気でも吸って、その所為で私が幸福になれた、と?ふふふ、そんなオカルトじみた考え方が出来るなんて、記者さんはやっぱり変わった方ですね。それともそうでなければ記者などやれないのかしらん?ふふ、冗談ですよ。

…………ブレスレットを買ったときになにか言われなかったか、ですか。しばらく前のことなのでよく、覚えていないのですが……。

……。…………。

……多分、多分ですよ。ええ、私の記憶違いなのかもしれませんが「代償は身のまわりの人物の不幸」だったのかもしれません。

…………でも、それがもし本当だったのなら私は誰かに裁かれるのでしょうか?罪に問われてしまうのでしょうか?

いえ勿論信じているわけではありませんが、ちょっとだけ不安になりまして。ええ、ちょっとだけ。

…………本当にちょっとだけですよ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る