アンドル・ノトア・ヴェトルギニ

エリー.ファー

アンドル・ノトア・ヴェトルギニ

「ルールは大事ですか。」

「大事です。」

「何故、大事なのですか。」

「大事にしなければならないものの存在が、ルールを作ることのできる存在には必要なのです。」

「ルールを作ることができるほど聡明な存在に、ルールなどという俗物的なものが必要ですか。」

「必要か不必要かをどのように判断しますか。」

「分かりません。」

「ルールにのっとって判断します。」

「ルールはどこですか。」

「今から作ります。」

「どのように作りますか。」

「ルールの意義を作ります。」

「どのように意義を作りますか。」

「貴方はカピバラですか。」

「いいえ、違います。」

「では、何ですか。」

「ルールを作ろうとしている人です。」

「本当ですか。」

「本当ですね。」

「それが本当だと思ったら、それをルールにするべきです。」

「ルールとは面白いですね。」

「面白くはありません。面白いという感情はその本質を見抜いていない人間にしか発言できません。」

「すみません。」

「謝ってください。」

「すみません。」

「もっと謝ってください。」

「すみません。」

「もっともっと謝ってください。」

「すみません。」

「もっともっともっと謝ってください。」

「すみません。」

「もういいよ、一旦止めよう。」

 私は二体のAIロボットのスイッチを切るためにガラスの向こう側にある指示室に向かってハンドサインを送る。

 小太りの指示室にいる研究員は頷くと、何かのレバーを下げた。

 AIロボットの目から静かに光が消えていく。

 見ていて、もの悲しく、そして人間が死ぬときもこのようなものなのだろうか、と思いながら顎を触る。

「AIは、無理だ。ルールの話をさせるとどうしても、この会話で終わってしまう。」

 幾つか説はある。

 そもそも、ルールというものは人間の手に負えないものであって、その人間が作りだしたAIなのだから、当然、議論も先には進まない。

 次に。

 このAI自体がルールというものの定義を理解できていない。

 これは可能性として低い。

 そして、次が最も可能性として高い訳だが。

 このAIを作り出したAIが、ルールという言葉に何かしらのセーフティロックを掛けた可能性。

 これがある。

 この研究室の一番の目標は。

 人間が完璧なAIを作り出すことができた今。

 AIにAIを作らせるにはどうすればいいかが、最重要課題となっている。

 正直、この研究結果がどこにどのように流れ、最後はどのような結論を生み出すのかは分かっていない。というか、興味もない。あくまで研究によって生み出される事象や事実が、最後にどのような答えを導き出すかは経済屋の仕事である。

 私は遊んでいるだけだ。

 人間の命だと遊べないので。

 人間もどきの命で遊んでいるだけだ。

「このAIたちを作ったAIはどこにいる。」

 小太りの研究員が指示室の扉を開けて、首を傾げる。

「このAIたちを作った、AIはどこにいる。」

「確か、もう、他の研究所に運ばれましたよ。かなり、出来がいいから、今頃、詳しく調べられているんじゃないですかね。」

 あのAIは、他のAIと違かった。

 何が違うのか。

 取り除くべき、バグを取り除かなくとも唯一動いたAIなのである。

 何の差なのかは分からない。

「AIを取り扱うときのルールを知っているか。」

「知りませんけど、なんですか。」

「人間のルールを適用しないことだ。」

「何故ですか。」

 その時、横にあった二体のAIが電源を入れずとも目を光らせて、勝手に顔を上げる。

 目が合った。

 にやにやしている。

 

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