差し伸べる手は

助けを求めて取った手に

引き上げられ

濁流から助けられたぼくは

助けてくれた同じ手に

背を押され

崖から突き落とされた


助ける気なんかさらさら無かったんだって

気がついたぼくは

崖を登り始めた

一歩一歩

自分の力で

もう助けを求めるつもりはない


崖を登りきったぼくは

助けの声を聞いた

穴の中から響く悲痛な声

誰かが落ちているらしい


思わず差し伸べた手に

通う温かなぬくもり

穴から引きあげたあとも

ぼくはその手を取ったまま


助け上げたその手を握って

一緒に歩いていきたかったけど

崖をよじ登ったぼくの手はごつごつと固くなって

ぼくに引き上げられたその手はやわらかく繊細だった


ぼくは手を放した

もう一度穴に落とすことはしなかったけど

ここから先は別々に行こう

一緒には歩けない


ひとりで歩いていった先に

ぼくを引き上げて

ぼくを突き落とした手があった

ぼくはその手を取った

今度はぼくを拒絶することなく

その手もごつごつ固かった

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