第2話 卑劣なカメラ小僧《カメコ》から姫川理沙を守り抜け。

 俺こと『神村かみむら 龍一りゅういち』が恋をするのは、いつも決まって『金髪ロリ巨乳美少女』だ。


 よって性格とか、家柄とか、人種とか、そういうのはどうでもよくて。


 俺は『金髪ロリ巨乳美少女』が大好きなんだ。

 

++++++++++++++++++++++++


 4月に体育祭が行われるという極めて珍しい高校である。


 まあ、つまるところ『新入生オリエンテーション』みたいなものだな。


 説明は以上だ。


「なんで体育祭って、陸上競技がメインなわけ。

 マジで勘弁してほしいんだけど」


「ほんとほんと、汗だくになっちゃうって~」


 女の子たちが口々に言いながら、グラウンドにラインを引いていく。


 黒いスパッツに包まれた、ぷっくりとしたお尻。


 そこからすらっと伸びる健康的な脚がたまらない。


 でも彼女たちの言う通りだ。


 体育祭の主な種目と言えば『短距離走』に『リレー』や『二人三脚』になどだ。


 陸上競技以外の定番競技と言えば『玉入れ』に『騎馬戦』や『綱引き』だろうか。


 あとは学校によって『大縄跳び』に『応援合戦』や『棒倒し』や『借り物・障害物競走』など。


 体育祭ならちょっと変わった競技もあるとか。


 ちなみに男子は『応援席の準備』だ。


 体育館からグラウンド椅子を運ぶのは地味に大変だった。  


 個人的に一番楽しみにしているのは、応援合戦だ。


 理由が至極単純だ!? 


 姫川 理沙の『チアガール』姿が見たいからだ。


 脚を大きく振り上げて応援する姿が見たいからだ。


 チアダンスが見たいからだ。


 見せパンだとわかっていても、それでもみたいと思うのは、俺がスケベだからだろうか?


 でもアンダースコートには――――。


「か、神村。折り入って、た、頼みがあるんだ」


 すると土を踏みしめる音が聞こえてきて、顔を上げると木の影から知人の木村が顔を見せた。

 

 ぐるぐるメガネかけた、幼稚園からの腐れ縁のアキバ系男子で、最近の流行りのアニメや漫画、ゲームにめちゃくちゃ詳しく。


 俺とは違い社交的な性格で、休み時間になると、木村の周りにはいつも誰かしらヒトが集ってくる。 

 

 クラスメイトはもちろん、他の教室からわざわざやって来ることも珍しくない。


 しかし集う生徒たちは全員が『男子』で、女子はひとりもない。


 近寄りもしないし、むしろ距離を置いている。 


 ボッチな俺に話しかけてくれるプログラマー志望の木村だけだ。


「嫌な予感しかしないんだけど」


「この通りだ。

 この手紙を『姫川 理沙』と女子生徒に渡してくれないか?」


「はぁ~、またかよ。

 これで『99回目』だぞ。

 学園中の女子に告白するつもりか?」


「オレはどうしても彼女が欲しいんだよ。

 頼む、協力してくれよ」


「でも、姫川理沙って言えば『難攻不落』で有名だぜ」


「ああ、わかっている。

 だからこそ、今まで避けてきたんだ。

 だがとある情報筋によると、彼女は『隠れオタ』で、深夜アニメ大好きみたいなんだ。

 だからきっと話が合うと思うんだ」


「はぁ~、わかったよ」


 しぶしぶ木村からラブレターを預かり、俺は姫川さんの元へ向かった。


 そして結論から言うと『ダメ出し』をされた。


 書き直してからもう一度、提出する用に言われたのだ。


 これには正直、驚いた。


 ラブレターに赤字を入れたのは、姫川さんが初めてだった。


 一般的な反応は『破り捨てるか』、『伝言を頼みか』のどちらかだ。


 噂以上に世間とズレてるお嬢様なのかもしれないな。


 世間知らずというわけでは決してないが、少し世間の常識を逸脱したところがあるような気がした。


 とあるお嬢様学校の面接試験で、面接官に向かって『ダメ出し』し。


 その結果ーーーー不合格になり。


 姫川さんの両親の耳にも入り、成績は問題なかったのに、もっと一般常識を知るべきだと諭され。


 この学校に入学したという逸話も、まんざら嘘でもないということか。


 また、更衣室『盗撮』事件を見事解決に導いた功労者でもある。


 犯人は『体育教師の田辺先生』だった。


 その事実を姫川さんに密告したのは、俺である。


 保護観察中に、問題を起こすわけにはいかないからだ。


 盗撮などの犯罪行為の場合は、身近な人間が犯人であるケースが非常に高いと、姫川さんは言っていたな。


 でも体操服姿の姫川さんも、めちゃくちゃ可愛かったな。


 金色の艶のある綺麗なロングヘアは、紅の紐リボンでツーサイドアップしていて。


 いつものストレートより、2割増しで可愛かったな。


 盗撮したくなるキモチも理解できるが、盗撮は『犯罪』だ。


 社会的な死を意味する危険な行為だ。


 そのことを、心にとめておかなければいけない。 


 ちなみに俺は体育祭のどの種目にも参加していない。


 記録係りとして、男子の写真を撮っていたからだ。


 女子の担当は『井上いのうえ あや』さんだ。

 

 フレームレスの丸いメガネに2本の三つ編みお下げというまるで絵に描いたような典型的なクラス『委員長』スタイルで緑髪の女子生徒で、写真コンクールで賞も撮ったことがあるほど腕前だ。


 写真コンクールで賞を取ったことがあるほどの腕前だ。


 また『銀塩写真』の魅力について語らせたら、右に出るものはいないだろうな。


貴方あなたたちそこで何をしているの?

 そこは『女子更衣室』よ」


「げっ! 見つかった」


「どうするんだよ」


「この状況って滅茶苦茶ヤバくないか?」


「心配するな相手は一人だ。しかも女だ」


「こっちは5人もいるもんな。

 黙らせるのは、容易なことだな」


 校舎裏で独り寂しくお弁当を食べていると、井上さんの声と複数の男性の声が聞こえてきた。


 助けを呼ぶために辺りを見渡すが、運が悪いことに近くには誰もいなかった。


 しかも今、女子更衣室で着替えているのは『姫川理沙』だ。


 フランスやイタリア、イギリスなどのヨーロッパ諸国なら『金髪の女性』は珍しくないかもしれないけど……ここは日本だ。


 しかも姫川さんは『美少女』だ。


 SSSレアどころの話ではない。


 ウルトラアルティメットレアでも足りないくらい希少価値のある存在だ。


 好事家に売れば……何千超(なんぜんちょう)というお金が動くことは、容易に想像できるな。


 俺は血が出るほどに、下唇を噛み締めてある決断をくだす。


 正体を隠すために、俺が取った行動は『赤ブルマを被る』というモノだった。


 なぜブルマを所持してたのかは、全力で黙秘するとして、ハタから見たら完全に変質者だよな。


 だが赤ブルマを被った変質者という印象が強く残り、俺の正体がバレることはないだろう。


「きゃあっ!? 放して、放しなさいよ」


「コラ、暴れるな。

 大きい声をあげるな」


 どうやら悠長に思案している場合じゃなかったみたいだな。


「貴様らの悪行もそこまでだ。

 おとなしくお縄につけ」


「なんだ! この変態はどこから現れやがった」


「あの芝居がかった台詞に、赤ブルマを被った珍妙な姿……アイツは今、世間を騒がせている変態仮面です。

 絶対にかかわっては、いけないタイプの人間です」


「その噂なら、俺も聞いたことがあります。

 変態仮面を見た者は、性欲欠乏症になるとか、女の子に興味や執着がなくなるとか……そんな眉唾物まゆつばものの話です」


 そんなことを話している男たちの背後に回り込み、背中に触れると淫気いんきを吸い取っていく。


 さすがに5人分の淫気を吸うと、その後にくる反動が怖くなってしまう。


 でも、これは悪漢から『姫川』さんを守るためだ。


 どんな反動がきても、甘んじて受けいれる覚悟はできている。


「あ、アレ……俺たちここで……何をしていたんだけって」


「クソ、俺も思い出せない」


「俺もだ」

 

 と次々と男たちは声を上げ、首を傾げながらその場を去っていた。


「神村君、だよねぇ。

 助けてくれてありがとう」


「ひ、人違いじゃないかな?」


「あっ! ごめん。

 でも……このことは、誰にも言わないから、安心してねぇ」


 そして写した写真は、すべてプリントして廊下に貼りだすまでが、記録係の仕事だ。


 もちろん姫川さんの勇姿が写っている写真はすべて購入した。




 体育祭を終えた学校からの帰り道。


 春の香りがこうをかすめる。


 満開の桜の花。


 青空を背景にしてピンク色がより鮮明に感じられた。


 映画のワンシーンにでもしたくなるほど、キレイな風景だ。


 だが俺の心は沈んでいた。


 原因は高校生デビューに失敗したことだ。


 高校では女子に嫌われないようにって……毎朝ムダ毛処理したり、口臭チェックして、床屋もやめて美容室にしたのに……女子にキモイって言われた。


 やっぱり自己紹介の時に『金髪ロリ巨乳美少女』について、熱く語ったのがいけなかったのかな?


 それとも同級生を『エロい目』で見たのが、いけなかったのかな?


 もしかしたら『趣味のコスチューム集め』について、熱く語ったのがいけなかったのかな?


 でも日本古来には、特別な装束を纏って面を着けたり、化粧をしたりて、様々な役割を演じる文化が――――。


「きゃあ、エッチな風っ!?」


 強い風が吹いて、桜の花びらが舞い散り、女の子の華やいだ声が上がる。


 桜吹雪の向こうでスカートを押さえているギャル風の女子高生の姿を目で追っていた。


「何っ、見てるのよぉ!? 変態!?」


「えっ」


「目がイヤらしいのよぉ」


 これが『淫気を吸った反動』か?


 覚悟はしていたとはいえ、こういった状況に、免疫があるわけでもなく。


「今、わたしのことイヤらしい目で見てたでしょう」


 淫気を吸った後は、決まって『不運』が俺を襲うのだった。


 くだらないジンクスだと心底思うけど……。


 自動販売機で買った缶ジュースは、炭酸飲料でもないのに噴き出すし。


 自動車に水をかけられ、どぶにハマったことだったあるし。


 楽しみにしていたイベントの日は、いつも雨が降るし。


 水神様に嫌われているとしか思えなかった……とほほっ。


「きゃあ、汚い。こっちに来ないで」


 今回は、野良犬におしっこをかけられ、道ばたに落ちていた小石を投げつけられた。


 いくら思春期真っただ中でも、見たい相手くらい選ぶ。


 女であれば誰でもいい、なんて思っていないけど。


 俺は居た堪れない気持ちになり、反論することもなく、逃げ出してしまう。

 

 やっぱり女……ヒト……コワイ……女……ヒト……コワイ……女……ヒト……コワイ……。


 見ての通りの俺は『コミュ症』で、友達も彼女もいない。


 上達を主目的しゅもくてきとし、ストイックに創作活動をしている『孤高のラノベ作家志望』の高校1年生だ。


 でも自分の書いたものを通して人と『繋がり』たいというキモチがないわけじゃないんだよな。


 自分の趣味を理解してくれるヒトと出会えるんじゃないかと、淡い期待を抱いていた時期もあった。


 だが、現実はそんなに甘くなかった。


 そ・れ・で・も・やっぱり彼女……欲しいな。


 独りは寂しいな。


 俺の趣味を理解してくれる彼女が欲しいな。 


 それが『金髪ロリ巨乳美少女』なら、もう言うことないよ。


 ちなみに下着の見せ方としては完璧だったな。


 ナイス『恥じらい』と叫びたくなるほど。


 完璧な赤面だったな。


 恥じらいのないパンチラなど『見せパン』よりも劣る。


 最低最悪の下品な行為だ。


 あくまでも偶発的に見えるからこそ価値があるんだ。


 見せたくないのに、自分の見せるつもりが全然になかったのに――そういった状況だからこそ、ありがたみがあるのだ。


 つまり『嫌パン』こそ『パンチラ』の極意だ。

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