上書き

にゃんごろう

第1話


もう嫌だ。

世界なんか全て嫌いだ。

誰に負かされた?

父。

兄。

弟。

家庭教師の先生。

クラスの一番不細工な男子。

クラスの一番カッコいい男子。

小学校の時の担任6人。

中学校の時の担任3人。

去年の担任。

今。高2の担任。

私とのゲームのどこがいい?

何も良くないはずだ。

使い古された道具。

古く黒くなった。

自分が弱すぎて一緒に始めた友達の手も何がくるか予測しにくくなった。

毎日何故自分を求める?

毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。

家では宿題が終わったら深夜まで。たまに隣の家の人も。

学校では部活として。旧校舎で、クラスメイト2人と元担任、今の担任の4人プラス自分で半強制的にやらされている。

家庭教師。不正解のたびに1ゲーム。たまに父と兄弟も混ざる。

母。麻雀に目覚め始め、私が弱すぎるおかげでロンと叫びまくる。

たまに元担任。甘めに相手してくれるから好き。

やっぱ自分は壊れているのだ。

麻雀なんてしている意味はない。


死のう。


「ねえ君」


振り返る。

古文の高橋。独身。40代。


「麻雀、楽しめないんでしょ?」


「楽しませてあげるよ」




これまでにない激しい一手。

だが優しい。

全身を全てで集中する。

1人二役の新しいプレイ。

ゲーム終了間際の快楽。

絶句と呼吸難。

楽しい。

今までと全く違う!

血が!脳が!身体が!

全て喜んでいた。

今までの苦悩は今解き放たれ、上書きされた。

すんでのところで負けは免れる。

今度は最高の一手を塞がれる。

鼻では息が全くできないような。

そして延長戦へ。

満身創痍の負け戦。

もう手はない。また訪れる敗北の予兆。

今度こそ負ける......が。

気持ちいいい。

言葉に表せない気持ち良さ。

漏れ出る達成感が汗ばむ手と麻雀牌を濃密に絡ませていた。

いけ。

いけえ。

いけえええええ。

いけええええええええええええ!

いっけえええええええええええええええええええ!

彼に似合わない一軒家に、激しいゲームの跡が刻まれていく。これだけ激しいのだから当然だが。

とりあえずは私の一敗。

今度は、高橋の麻雀仲間が訪れてきた。カラオケを歌いながら麻雀するのかと思ったら、曲を入れてからマイクを机の上に。

マイクを取り囲むように麻雀牌を組み始めた。

ピラミッドにするらしい。

できるわけないじゃん(数も足りないし)。

は?

大量の袋が現れて。

すごい。

新品の麻雀牌がたくさん。

もしこの曲内にピラミッドができれば新品の麻雀牌が貰えるらしい。

ならば挑戦するしかない。

久しぶりの全集中。

右手には麻雀牌。左手にも麻雀牌。

まだいける?

周りからの応援

と。

麻雀牌。

ゴロゴロゴロ。

倒壊しても諦めない。

麻雀牌。

とにかく挑戦し続ける。

麻雀牌。

集中切れるって。

あと4つ。

あと1つ、積み上げるだけ!

気持ちいいいいいいいいいいいい。

達成できないと思われていたのだろうか。

少ないながらも大きな歓声が巻き起こった。

胴上げされる。

胸に。

背中に。

脚に。

腕に。

首に。

顔に、達成感が溢れ出す。


今日も大声で言った言葉が家に響く。

「ポン!」

「いや!ロン!」

「ツモです」

「みんな強すぎだって」

「楽しくてたまりません」

「24時間ここで麻雀してたいです」

次々に会話が交差する。

誰が何を言ったかわからないくらい早回しのゲーム。

しかし放たれた言葉全てにやる気と楽しさが感じられる。

今日も牌が音を奏でる。

勝手にそれを私は音楽だと思っている。

もう体で覚えてしまったメロディーだ......


毎日彼の仕事帰りにそんなかんじ。

そんな生活もはや10年。

最近気づいたが、高橋も私と同じで成長せず、いつまでも弱いままだったからあのとき楽しめたのだ。

おかげで今日も『気持ちいい』が待っている。

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上書き にゃんごろう @nyanngorou56

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