黒の記憶と白の愛

桃梅雨音

序章 ―歪な兄妹―

 人々の叫び声が飛び交う中、狂った少女の声が響く――。


「もー、おねがいだからにげないでよぉ」


 少女は獲物を探す獣のように赤いを動かし、次から次へと俺の――いや、の仲間を殺していく。


「嗚呼、神様はなぜこんなに残酷な事をするんだ………」

 とか言ってみる。

 そんなこと言ったって、何も変わらないし避けられない。

 それが運命っていうものなんだろ?


「………ほんと……笑えるな…」


「お兄様はどうしてにげないの?」


 俺に向けられた幼い声は騒がしさの中でも鮮明に聞こえた。

 俺は当然のように答えた。


「こんな可愛い妹をほうって逃げるわけないだろ?」

 最初から用意言葉を口に出した。

 薄暗い部屋に立つ俺達を月明かりが照らしている。


 少女は仲間の返り血を浴びた顔で、不気味な赤いを隠した満面の笑みを浮かべ――


「お兄様だーいすきっ!」

 と言った。


 


 ……言わなければ……。


「なあ、×××」


――死んでくれないか。

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