Ep②


「クラーン、とりあえず検証終わったぞ、と俺のDNAが言っている」

 あまりにもアレな口調で、男がクランスに近付いていく。

 赤毛混じりの黒髪をツンツンに突き立てた、赤い鉢巻きが目立つ赤き眼の男。

 『昏きもの』である証の瞳を爛々と輝かせ、クランスに手を振っていた。

「……お疲れ様ですエル」

 ルナヴィス郊外のとある廃墟、その外にある瓦礫に腰掛け、クランスは読書に勤しんでいた。

 仕事を相方の『エル』、『エルエット=ガル=ライナー』に全て任せて――。

 仕事を押し付けられているエルエットは気にした様子もなく、クランスの隣に腰を下ろした。

「結論から言わせてもらうと、やっぱ『昏きもの』……もしくはそれに比肩する人外の仕業って可能性が高い、と俺のDNAが結論付けている」

「……その根拠は?」

 エルエットの報告に、眼も向けず尋ねるクランス。

「勘!」


――スパァァン


 小気味の良い音を鳴らし、クランスはいつの間にか握っていたハリセンでエルエットの頭を思いきり叩いた。

 頭から煙を上げて地に突っ伏していたエルエットだったが、すぐに顔を上げると、続けた。

「一応違和感はあるぜ?こんな大規模な火災だってのに、火の出所がわからねえ点、目撃者の証言だと火が黄色っぽかった、とか」

 頭を擦りながら自分の考察を話していくエルエットに、クランスは口元に手を当て、思案した表情を見せる。

「……なるほど。病院での一件とは関わりがあると思いますか?」

「何ともいえない、と俺のDNAも思い悩んでいるが、あの『紅雷の姫君』が取り逃がしたんだ。正直かなり高位の『昏きもの』が関わってるんじゃね?」

 エルエットが言いながら背中を伸ばすのを、一瞬だけ流し見てクランスは立ち上がった。

「お?移動かクラン」

「とりあえず調査はしましたから……帰って調書まとめをしましょう」

 死刑を宣告された罪人のごとく絶望した表情を見せるエルエットを無視し、クランスはルナヴィスの市街部へと歩き出した。

「……最近人外に関する被害が増えすぎている……何かの前触れでしょうか」

 そう空に向かって呟きながら。






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