Bloody contract/act:1

ぼるぼっくす@りぺあⅡ

act:1

プロローグ

+


 夜の闇の只中にあって、人の形を象った『それ』は独り笑っていた。

 暗闇に溶け込む黒い衣服で身を包んだ『それ』の白い肌を、月明かりが照し際立たせる。

 一見美しい青年の様な風貌だが、闇夜を切り裂くように煌めく真紅の瞳と、風に靡く琥珀色の髪の存在感が、『それ』を人間ではなく異形のものとして物語っていた。

「良い月よな……」

 整った口元を歪めて作るその表情は、月光と相まって、儚く幻想的であり妖しく蠱惑的であった。

 琥珀色の異形は細い腕を夜空に手を伸ばし、謳うように呟いた。

「貴女もこの月を観ているであろうか……」

 乞い、求めるような声音は、誰に届くでもなく、虚空に溶けていく。

 しかし、異形は気にするでもなく、愛おしそうに月を眺めている。

――紅く輝く満月を

「まるで貴女の様な輝きさな……」

 そこで『それ』は手を降ろし、静かに首を振った。

「否、あの月とて貴女には敵うまいな……」


――『紅雷の姫君』よ


 その言葉と同時に異形の体が燃え始めた。 髪の色と同じ琥珀色の焔が、異形を包み込んでいく。

 燃えていることを気にも留めず――否、むしろ受け入れるかのように両手を開き、笑みを濃くする。

 焔が琥珀色の異形を包み込み、やがて収縮していく。

 焔が消えたその跡に炭や灰等、火の手が上がったような痕跡は無く、まるでそこに居た痕跡を消し去ったかのようだった――。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る