第29話 雛鳥のはばたき
旧文明の遺跡に眠る、遺物スフィア。
そのアイテムを手に入れんと、今日もトレジャーハンター達は世界を飛び回る。
これは、そんなトレジャーハンターになる前の、とある雛鳥達の話。
「ギィさん、ギイさん! チカさん、チカさん! ギィチカさーん!!」
家具道具の一切がなくなった一軒の家のなかで、少女ラルフィナの声が響いた。
「うるせーって、フィナ。近所迷惑になんだろが。そんな言わなくても聞こえてる。あと呼び方を統一しろ」
それをうるさそうに注意するのは、彼女の友人である少年ギイチカだ。
「いいじゃないですか。ギイさんでも、チカさんでも。あなたである事には変わりないんですから。……きゃっ、今の何か新婚さんみたいな呼び方じゃないですか? あ・な・た……ですって。きゃー」
「だから、うるせえって言ってんだろうが」
「それより、チカさんっ。大事件です、大変なんです! 聞いてください!!」
頬を染めて照れていたフィナは一瞬でテンションを変えて、手に持っていた新聞を見せる。
「何だよ。どうせお前の話なんだから大したことじゃないんだろ。お隣さんの煎餅を食べちまったとか、引っ越した後のこの家に住む次の人間の話とか」
そのテンションに取り合わないギィチカ。
「むっ、本当に大変なんですよ。この間、走破遺跡のイベント観覧チケットが当たったじゃないですか」
「……ああ、あれか。お前が福引きで当てたやつだな。珍しく普通に見て、普通に楽しんで帰ってきたよな」
最近観た、トレジャーハンター追加参加のレースについて思い起こすギィチカ。
「むむっ、何だかチカさんの言い方だと。まるで私がトラブルを運んでくるトラブルメーカーみたいな言い方じゃないですか」
「まるでじゃなくてそうなんだよ、少しは自覚しろよ。日常的に振り回される俺の身におなれ。で、それがどうしたんだ」
「私たちのすぐ近くの客席に爆弾が仕掛けられていたみたいなんです。幸い、高名なトレジャーハンターさんたちのおかげで、爆発には至りませんでしたけど」
さらっと言われた事実に、ギィチカはぎょっとした。
「って、本当に大事件じゃねーか、下手したら、巻き添えくらってたぞ、俺ら」
「むーっ、だから大変だって言ったじゃないですか。あ、ちなみにそのトレジャーハンターさんたち、楽聖遺跡を使って私たちの町を押し潰そうとしてた悪人さんたちも、どうやら退治してくれてたみたいですよ。すごいですよねー。フィナ憧れちゃいますー」
再度さらっと言われた驚愕の事実、当然ギィチカは大変ぎょっとした。
「知らない間に町が危機に瀕してた!? なんだそりゃ、初耳だぞ……。てか、ついでに言う話じゃねーだろ、それ」
「だから、フィナ。トレジャーハンターになるんです!」
「この話、そう行きつくのかよ。何のために引っ越し作業してるかと思ったら!」
「フィナ、不安なんです。チカさんも一緒に来てください!」
「さらにこの話、勧誘につながんのかよ。何のために、引っ越し作業手伝わされてると思ったら!」
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